第3章 大賢者の遺産

第1話 住宅内覧会?

馬車の用意ができとセバスさんが呼びに来て、レベッカ夫人と一緒に馬車に乗る。


馬車に乗り込むと、中にはアリスお嬢さんとシャルたちが何故か乗っていた。


「なんでシャルたちも一緒に?」


そう問いかけるとシャルとミュウは頬を膨らませて不満そうな顔をする。


「この子たちも一緒に住むのだから、住む場所を確認したいのでしょう」


レベッカ夫人が当然のように話すが、あなたはシャルの思惑に騙されているんですよ。


クレアさんと4名ほどが、馬車を挟むように徒歩で警備をしながら付いて来ているのが見えて、申し訳ない気持ちになる。


この世界では当たり前かもしれないが、日本人としては抵抗があるなぁ。


馬車はすぐに、家と言うよりは屋敷と思えるような建物のある、庭の大きな敷地の前に止まった。


歩いても問題ない距離だよねぇ。


それどころか馬車を待つ時間に到着する距離だ。それに、正面に見える屋敷を見て、まさかここを紹介するのかと信じられなくなる。


「ここは我が家からも近いし、家の広さも十分だと思うわ。ただ、この広さだとメイドを雇って、奥さんに管理してもらうようにした方が良いかしら」


不穏な発言をしたので、レベッカ夫人を見ると楽しそうに微笑んでいる。


本気で娘を嫁にしようと考えている?


「ミュウはガンバル!」


ミュウさん、何を頑張るのでしょうか?


シャルは建物を見て嬉しそうにキョロキョロと敷地内を見ている。


「中を見てもらおうかしら。家具も揃っているし、すぐにでも住めるわよ」


こんな家に住んだら、益々逃げられなくなりそうだ。


「そうですわね。中を確認して必要な準備しなくてはなりませんわね」


アリスお嬢さん、必要な準備とは何でしょうか?


「こんなに大きな屋敷は必要ありませんね。あまりお金も持っていないし、人を雇う余裕など、」


「それは大丈夫よ。先程納品してもらった物で十二分に賄えるし、毎月の納品数を考えたら、お金が足りなくなる事は絶対にないわ」


おうふ、周りから攻めてくる作戦ですかぁ。


「でも、他にも候補はあるから、次を見に行きましょう」


あれ、もっと強引に話を進めると思っていたけど……。


シャルたちは不満そうだが、馬車に乗り移動を始めると、またすぐに到着する。


どう考えても馬車は必要ないでしょう?


次に紹介されたのは屋敷ではなく家と呼んで良い建物だが、地球から来た自分にはやはり大きいと思える家だった。


シャルたちは先程の屋敷が良いのか、少し不満そうだが、それでも嬉しそうにしている。アリスお嬢様は露骨に不満そうにしているが、あなたは関係ないよね。


次は最後で、またすぐに着くだろうと思っていたが、そんな事はなかった。


内門を通過すると最初の十字路で左に曲がり、真っ直ぐと進んで行く。ようやく馬車が止まって降りると、突き当りが壁のようになっている。


外壁と内壁の突き当りの一画のようだが、どう考えても4区画分の広さはありそうで、すべて4メルぐらいの壁で囲まれている。


馬車が止まったのは今来た道の突き当りになる場所で、馬車が通れそうな大きな門と、その横に人が通るような扉が設置されている。


ま、まさかこの中に屋敷が!?


壁を左右に見ると随分先に内壁があり、そこまで壁が続いており、反対も同じ距離の壁が続いている。


広さを考えるとエルマイスター家の屋敷の何倍もの広さがあるのは間違いない。


「ついて来てくれるかしら」


そう話すと、レベッカ夫人は鍵を取り出して横の扉を開けて中に入る。


予想と違い中は普通の街並みにしか見えない。

廃墟になっているようだが、通って来た街並みに続く一画を壁で囲んだように見える。


シャルとミュウが奥に進もうとすると、レベッカ夫人に止められる。


「2人とも奥にはいかないで!」


シャルたちは叱られたと思ったのか、焦って戻ってくると謝った。


「ごめんなさい」


「違うのよ。奥に行くと気分が悪くなって倒れることになると思うから」


えっ、なにそれ、怖い!


「まずは説明するわね」


そう言ってレベッカ夫人は説明してくれた。まとめると以下のようになる。


・奥には大賢者の屋敷がある。

・屋敷は結界で守られて基本的には入れない。

・100年以上前から屋敷で気分が悪くなり倒れる人が発生。

・最初は屋敷だけだったが徐々に範囲が広がっている。

・今では周りの区画の半分まで範囲が広がっている。

・倒れても範囲から出ると時間は掛かるが回復する。

・隣接する内壁と外壁の反対側は影響がない。

・大賢者の呪だと噂されている。


そんな場所を紹介する!?


絶対にありえないでしょう!


私が信じられないとレベッカ夫人を見ると、それに気が付いたレベッカ夫人は苦笑しながら話をする。


「もしかしてアタルさんなら何とかできないかと思ってね。もし何とかしてくれるなら、この壁で囲まれている区画の全部をアタルさんに差し上げるわ」


シャルとミュウも怖がって扉のほうに移動し始める。


「問題が無くなれば、奥には大賢者様の屋敷があって、今でも中は建てられた当時の状態で残っている………と言われているわ。

ねえお願いよ、原因を突き止めて何とかして欲しいの。数十年後には壁の外まで影響が出ると予想しているし、影響範囲が広くなる速度も速くなっているのよ」


なんとかなるかぁーーー!


この世界に来てひと月も経っていないのに、呪いとかを何とかできるはずがないだろ!


そんな事を心の中で叫んでいると、またあの音が聞こえた。


「あっ」


頭の中でピコンと音が鳴って、思わず声が出てしまう。


「もしかして原因がわかったの!?」


私の声に反応して、レベッカ夫人が詰め寄ってくる。私の肩を両手で掴んで前後に揺さぶるのだが、顔がすぐ目の前まで来てます。


あぁ~、良い匂いがするぅ。


妄想の世界に引き込まれそうな、女性の香りに頭の奥までしびれそうだ。


違う、違う! 魅了!? じゃない神託!


無理やり現実の世界に意識が戻ってくると、レベッカ夫人を引き離し神託を確認する。


『そこをもらって拠点にするのじゃ!』


怖いからイヤだーーー!


転生の女神の神託にそう答えると、生命の女神様から詳しい説明が神託で送られてくる。



みこと♪(生命の女神):

──────────────────────────────


その場所に魔力スポットが存在します。


その魔力を活用するために、大賢者が屋敷を建てたのですが、今は誰も魔力を利用しない為に、貯蔵できる魔力が限界となり、濃厚な魔力が漏れだして、通常の人間には濃すぎる魔力により、魔力酔いの症状が出ているだけです。


魔力を消費してしまえば、その影響もなくなるし、潤沢な魔力で快適な生活ができますよ。


身体強化を常時発動しているアタル様なら、魔力酔いになることなく活動できますので、問題を解決しましょう。


アタル様の地球に残された遺産を神々わたしたちが利用させて頂いております。その見返りではありませんが、大賢者の遺産をアタル様がお使いください。



PS.

大賢者の屋敷の地下には様々な素材が保管されています。金属などは濃厚な魔力を長期間浴びたことにより、魔法金属に変質しています。


──────────────────────────────



何か予想外の事実が含まれている。


俺の遺産を盗みやがったのかーーー!


その辺の事はじっくりと確認させてもらおう!


そして遠慮なく大賢者の遺産とやらを貰うことにしよう。

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