第8話 アタルは使徒?

ハロルドとアタルが旅で亡くなった者の遺体を兵舎に届け向かうと、応接室にはレベッカが1人でソファに座って何か考えていた。


ノックしてセバスが入ってくる。


「素材と原料の件は使いの者を出しておきました。レベッカ様はこの後どうされますか?」


レベッカは額に手を当て考え込んでしまう。

アタルに優れた能力があることは、昨日の段階でも感じていたが、先程のポーションの件を含めた話し合いで、想像以上に感じていた。


「その前に少し話があるわ。セバスも座って相手をしてくれる?」


セバスはレベッカの前に座る。


「お話とは何で御座いましょう?」


「アタルさんについて、セバスはどう思うかしら?」


「……非常に優秀で知識も豊富で稀有な人物かと?」


「う~ん、そのとおりだけど、あれは優秀と言うより異常じゃないかしら。もしかしたら古の大賢者の末裔が、辺境の隠里にでも住んでいて、そこから来たのではと思ったんだけど……」


まるで夢物語のような話に、セバスが笑うかと思ったが、真剣に考えこんでいる。


「……その線の可能性もありますかぁ。たしか大賢者様が人里離れた場所で最後は過ごされたと言い伝えられていますし、その場所は今でも特定されていませんでしたね。

確かにアタル様の知識や能力を考えると、あり得るお話しだと思います。ですが……」


セバスは真剣にレベッカの話を聞いて答えたが、別の考えが有るみたいだった。


「たしかミュウ様がアタル様の事を使徒だと言ったそうです」


「……それは私もアリスから聞いたわ。でも、……冗談だと思っていたけど、………そうね、その可能性もあるのかしら?」


アリスは冗談のように話していたが、先程のポーションだけでも、失われたレシピや誰も知らないようなレシピも、アタルにより有ると証明されたのだ。


「はい、それに昨日の会話の中で、アタル様は『あの神々』と言い、その後に神様と言い直しました。あの時はただ信心深いからかと思ったのですが、使徒様だとすると納得のいく反応とも言えます」


お義父様が教会の事を、神を金儲けの手段にすると批判したときに、確かにそのような反応をしたのを覚えている。


でも、……使徒という感じじゃないのよねぇ。


特に偉そうにしないし、彼の事を考えて注意したのだが、少し不満そうにしていたし……。


「でも、使徒と言うより迷い人か、大賢者の末裔のほうがあっている気がするわ」


「別世界から迷い込んでくると言われる迷い人ですか? 確かに迷い人は知識も豊富だと聞いたことがあります。

しかし、迷い人は言葉が話せず、話せるようになっても話し方に特徴があると、聞いたことがあります」


「たしかにねぇ、でも大昔に召喚された勇者の話は聞いたことがあるでしょ。別世界から来たけど最初から言葉を話したと語り継がれてるわ」


「確かにそのように聞いています。しかし聞いた話では神託により召喚がなされたと聞いております。では誰かが召喚したのでしょうか?」


「その辺りは私にも正直ところ分からないわ。でもあの知識、いや知識というより発想が私達と全く違うのよ。そう、この世界の人とはまるで思えないのよ」


「確かにこの世界とは違う世界から来たと言われると、納得出来ることも多く御座います。言葉はどうなのでしょうか? それとも神託を受けた者が近くに居たのでしょうか?」


「……実は勇者召喚については、語られている内容は真実ではないという文献がエルマイスター家には残っているとお義父様が言っていたわ」


「そ、それは誠でしょうか?」


「さあね。その辺はお義父様に聞いてみないとわからないわ」



   ◇   ◇   ◇   ◇



予想より早くハロルドが戻って来たので、話の続きを応接室ですることになった。


先程、セバスと話した内容を説明すると、


「真実じゃ。しかし召喚した帝国や教会が伝えている内容と違うために表には出ておらん」


「その文献は信頼できるものなのでしょうか?」


レベッカが尋ねる。


「その文献とは、大賢者様とこの街を作った当時のエルマイスター家当主の日記じゃ。大賢者と話した内容が記述されておる」


レベッカとセバスは息を飲み込む。


「その日記に大賢者と酒を酌み交わした時に聞いた事が記述されておる。儂も若い頃にそれを読んだが信じられんかった。しかしアタルを見ていると今は信じられるのぅ」


「どのような内容なのでしょうか?」


「簡単に内容を説明すると、まず大賢者は神様によりこの世界に召喚され、召喚されたときに神様にお会いしたそうじゃ。そして最初から言葉を理解できるようなスキルや、沢山のスキルを神様より直接授けられたそうじゃ。

そして授けられたスキルなのか知識を使って、残りの勇者、聖女、魔導士、剣聖を召喚したということじゃ」


教会が伝えている話では、神託を受けた教会の者が、勇者、聖女、魔導士、剣聖、大賢者を召喚したとなっていたはずだ。


レベッカはまさかと思いながらも、さらに尋ねる。


「それではアタルさんが大賢者のようにこの世界に来たということでしょうか? これから勇者召喚をするのでしょうか?」


「そうじゃ大賢者と同じように、この世界に来たとすると納得できることが多い。ただ勇者召喚については正直解らん。大昔に召喚したときは、魔王により世界が破滅する寸前じゃった。今は特にそう言ったことはないしのぅ」


「では何か神様より使命が与えられ、この地に来たとお義父様は、お考えなのでしょうか?」


「それは儂にも解らん。しかしアタルの常識が全くない行動や、まるで神による御業のような能力や知識はもしかしたら使徒様ではと思わせるのじゃな」


「確かにそうですわね。では、今後はどのようにアタルさんと接すれば宜しいのでしょうか?」


「これまでどおりで良い。使徒様と決まったわけではあるまい。ただし儂らだけでも、もしかしたらと常に考えて行動する必要はある。アタルの望むことは神託なのかもとできるだけ叶えたほうが良いのかもしれんのぅ」


レベッカとセバスも、そのとおりだと思い頷いてしまう。


「確かにそのようにしたほうが宜しいかと思います」


セバスの返答にハロルドは頷いて同意する。


「それと早急にアタルの住居を用意する必要がある。ここでは目立ちすぎるからのう」


「確かにそれはありますな。ですが安全や秘匿性を考えると良い所はあまりないかと思いますが?」


「大賢者の屋敷を考えておる」


予想外の提案にレベッカもセバスも驚いてしまう。


「し、しかしあの辺りは…?」


「アタルなら何とかしてくれるかも知れぬ!」


そう話すとお義父様は考え込むのであった。

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