第3章 九条琢磨 12

(困ったな・・・何を話せばいいんだ・・・・?)


会話の糸口が見つからず、困っていると意外な事に舞から話しかけてきた。


「本当に大きくて素敵な会社ですね。」


舞はカフェオレを一口飲むと言った。


「え?ああ・・そう言ってもらえると光栄です。」


「いいえ、光栄なのはむしろ私の方です。『ラージウェアハウス』はしょっ中利用させて頂いているんですよ。1カ月に4~5回は利用させて頂いてるので今はゴールド会員証を持っています。だから会社の中はどうなってるのかな~とか、ずっと興味があったんで。今回こちらで清掃の仕事が入った時は嬉しかったです。しかも本社でのお掃除の仕事なんて。」


「そうなんですか?それではユーザーの意見を聞かせて頂けますか?」


(ゴールド会員なんて・・かなりのヘビーユーザーじゃないか。貴重な意見が聞けそうだ。)


琢磨は思った。


「え・・?意見ですか・・・?私の意見で良ければ・・。」


舞はちょっと迷いながらも言った。


「あの~・・私が・・幼稚園に通う男の子と暮らしているのはもうご存じですね?」


「はい、知っています。」


「それで私がその子の母親では無いことも・・。」


「・・ええ、そうですね。」


本当は琢磨は自分から色々尋ねたいことがあったが、出会ったばかりの相手にぶしつけに質問をることは出来なかった。


「私・・・大学を卒業してから、就職にあぶれちゃって・・フリーターなんです。」


「え?」


「それに保育園にも入れなくて・・15時にはお迎えに行かないといけないんです。それ以降は延長料金が高くて。」


「・・・。」


琢磨は黙って聞いている。


「それで17時からは21時まで介護施設で働いているんです。そこの所長はとても良い方で子供を預かってくれるんですよ。」


(何だか随分重たい話になって来たな・・・・よほど生活に困っているのかもしれない・・・。)


「なので・・とにかく買い物を行く時間も無いので、ミールサービスも手掛けてくれていればいいなって思いますね。しかも朝頼めば夕方に届けられるとか・・。」


「ああ、なるほど・・・それは良いかもしれませんね。貴重なご意見として社長に相談してみますよ。」


琢磨の言葉に舞は怪訝そうな表情を浮かべた。


「え・・あ、あの・・てっきり貴方が社長さんだと思っていたのですけど・・・。」


「ああ・・確かに私も社長ですけど、雇われ社長ですからね。」


「そうだったんですか・・・。」


その時・・・。


プルルルル・・・・


突然舞の首からぶら下げていた携帯に着信音が聞こえて来た。


「あ、か・会社から・・すみません、電話出ます。」


そして舞は携帯を操作すると電話に出た。


「はい、もしもし・・。あ、社長・・・。え?幼稚園から電話・・。す、すみません!迎えに行ってきても宜しいですか?・・ありがとうございます・・。」


電話を切った舞は震えていた。


「・・・どうかしましたか?」


「あ、あの・・・レンちゃんの父親が幼稚園に来ているそうなんです・・。迎えに来たって言って・・・。でも先生たちが引き留めてくれているらしくて・・。私、すぐに行かないと・・!」


真っ青になった舞は立ち上がった。


「待って下さいっ!」


琢磨が声を上げた。


「え・・・?」


驚いたような顔で舞が琢磨を見る。



「俺が・・・車で貴女を連れて行きますよ。」


気付けば琢磨は自分から申し出ていた―。





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