第3章 九条琢磨 11
琢磨と二階堂がオフィスで打ち合わせをしている間、舞は一生懸命窓ふきの清掃をしていた。時折、キュッキュッと窓を拭く音が聞こえてくる。
(真剣に仕事しているな・・・。)
琢磨は時折、チラリと舞に視線を送っていると・・・。
「おい、聞いているのか九条。」
突如二階堂が声を掛けて来た。
「き、聞いていますよっ!」
慌てて答えるも、二階堂は意地悪そうな笑みを浮かべると言った。
「嘘言え・・・俺が何も気づいていないとでも思ったのか?見惚れていたんだろう?」
「な、な、何を見惚れて・・・!」
「花に。」
「え?は・・花?」
「ああ、そうだ。ほら、見ろ。昨日、業者に頼んで花を届けてもらったんだ。」
見ると、窓際の近くに置かれた観葉植物の隣には長細い大きな花瓶に美しい色とりどりの花が見事に飾られていた。
(え・・・?いつの間にあんなものを・・?)
「どうだ?美しいだろう?あれに見惚れていたんだよな?」
二階堂がさらに尋ねて来る。
「え、ええ・・もちろんですよ。」
すると突然グイッと二階堂が顔を近づけてくると小声で言った。
「嘘言え。」
「は?」
「九条、お前さっきからずっとあの女性清掃員ばかり見ていたぞ?俺が気付いていないとでも思ったのか?さては・・一目惚れでもしたか?だが、かなり若そうに見えるぞ?お前よりだいぶ年下かもしれん。」
「な・な・な・何を言ってるんですかっ!」
琢磨は真っ赤になって思わず大声を上げてしまった。その声に驚いて振り向く舞。
「あ、い・いえ。何でもありませんよ。どうか気にしないで下さい。」
琢磨は慌てて舞に謝罪の言葉を述べる。
「あ・・い、いえ。」
舞は頭を下げると再び窓ふきを再開した。
(全く・・とんでもない人だ・・・!)
琢磨は心の中で溜息をついた―。
****
それから約1時間後―
「あの、窓ふきの清掃終わりました。」
清掃用具を片付けた舞が2人に声を掛けて来た。
「ああ、どうも有難うございました。」
二階堂は笑みを浮かべると窓ガラスを見た。
「へ~・・ピカピカですね・・。曇り一つ無いですね。うん、やはり流石プロだ。」
腕組みしながら感心したように言う二階堂を琢磨は半ば感心、半ばあきれた様子で見ていた。
(全く・・口がうまいんだからな・・・。だから女性にも勘違いされやすくて時折夫婦げんかに発展しているんだろう・・。)
等とが琢磨が考えていると、二階堂がとんでもないことを言ってきた。
「あのもしよければ、コーヒーを飲んでいかれませんか?」
「え、い・いえっ!し、仕事中ですからっ!」
舞は両手を振って慌てて拒否する。
「まあまあ、そんなこと言わずに。窓を綺麗にしてくれたお礼です。ここのコーヒーは凄く美味しいんですよ?」
笑みを絶やさずに二階堂は立ち上がるとコーヒーメーカーが置いてあるカウンターへと向かい、舞に尋ねた。
「それで、コーヒーは何にしますか?一応ブレンドと、カフェオレ、キリマンジャロにモカがありますけど?」
「あ・・・そ、それではカフェオレで・・・。」
舞は遠慮がちに言う。
「はい、分かりました。」
そして二階堂は慣れた手つきカフェオレを作ると手招きをした。
「どうぞ、こちらへ。」
「は、はい・・・。」
舞はキャップを取ると、遠慮がちにやってきた。
「どうぞ、ここへ座ってください。」
二階堂はよりにもよって琢磨の向かい側の席にコーヒーを置いたのである。
(な、何考えてるんだっ?!先輩はっ?!)
「失礼します・・。」
舞は琢磨の向かい側の椅子に座ると、二階堂がわざとらしく言った。
「あ・・・そう言えば、秘書室に用事があったんだ。ちょっと行ってくるよ。」
「はっ?!」
琢磨は驚きの声を上げた。
「ではどうぞごゆっくり。」」
二階堂は琢磨を見向きもせずに、さっさと部屋を出て行ってしまった―。
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