第3章 九条琢磨 10

「あ、おはようございます。社長。」


琢磨は椅子から立ち上ると挨拶をした。


「ああ、おはよう、琢磨。ところでお前、こんなところで何してるんだ?ここは打ち合わせ用の部屋じゃないか?」


二階堂はがらんとした部屋を見わたすと言った。


「ええ、そうなんですけど・・。って言うか何故俺がこの部屋にいる事を知ってるんですか?」


「ああ、それはな、お前の部屋に行ったら窓ふきの清掃員しか姿が見えなかったからだ。それでお前の行方を聞いたら、この部屋にいるって言うから様子を見に来たんだよ。何故自分の部屋で仕事をしないんだ?」


二階堂は不思議そうな顔で尋ねて来る。


「気が散るからですよ・・・。」


「え?気が散る?そんなに窓ふきされると気が散るのか?お前は。」


「いいえ、俺じゃありません。彼女の気が散るからです。」


「彼女?彼女って・・・・あの清掃員スタッフの事かっ?!」


「・・・。」


琢磨は黙って頷いた。


「お前・・・気を使い過ぎだろう・・?彼女は仕事で来てるんだ・・。今までだって多くの会社で窓ふきをしてきたはずだ。人の視線なんか気にならないだろ・・て・・もしかしてお前・・・。」


二階堂の顔が何やら意味深にニヤケて来る。


「な、何ですかっ?!社長・・・何か言いたいんですか?!」


つい、琢磨の声に焦りが出る。


「いや・・別に・・・まぁいい。お前を尋ね来たのは仕事の話があったからだ。どれ、座るぞ。」


二階堂は折りたたみ椅子を運んでくると机を挟んで琢磨の向かい側に座り、早速仕事の話をはじめた―。




****


コンコン


部屋の外でノックの音がした。


「ん?誰か来たようなだ?」


二階堂が対応しようと腰を上げると慌てたように琢磨が言う。


「社長、俺が出るので座っていてください。」


琢磨は素早く立ち上がるとドアへ向かう。その様子を二階堂はじっと見つめていた。


ガチャリとドアを開けると、やはりそこに立っていたのは舞だった。


「お待たせいたしました。お掃除終わりました。」


「ああ、どうもありがとうございます。」


「はい、それでは失礼します。」


頭を下げて立ち去ろうとする舞を立ち上がって近くにやってきた二階堂は引き留めた。


「あの、少し待っていただけますか?」


「はい?何でしょうか?」


舞は不思議そうな顔で二階堂を見た。


「私の部屋の掃除もお願いできないでしょうか?ここから2つ先の部屋になるのですが。」


「え・・?」


舞の顔に戸惑いの表情が浮かぶ。それを傍で見ていた琢磨は心の中で舌打した。


(先輩・・・!一体何考えてるんですかっ?!彼女を引き留めてどうするんですっ?!)


何故か果てしなく嫌な予感を覚えてた琢磨は二階堂に言った。


「社長!ほら、打ち合わせの続きはどうするんですかっ?!」


「ああ、だから俺の部屋で一緒にやろう。私たちが同席していても掃除に支障はありませんよね?」


二階堂は舞を見た。


「え・・ええ・・まぁ、それは・・・構いませんが・・。もともとこのフロア全て窓を拭く予定でしたから。」


「本当ですか?ではさっそく参りましょう。」


そして二階堂を先頭に3人は打ち合わせ用の部屋を出た。



****


「ではよろしくお願いします。」


二階堂は舞を部屋に通すとさっそく窓掃除を依頼した。


「はい、分かりました。」


舞は返事をすると、先ほども使用していたワイパーの柄をクルクルと伸ばし、早速作業に取り掛かった―。






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