第2章 京極正人 11
あれからどれくらい経過したのだろうか・・・。
すっかり仕事を探す意欲を失ってしまった飯塚はふてくされた気分でベッドにゴロリと横になり・・そのまま眠ってしまっていたのだ。そして突然外で16時を告げる時報の音が響き渡り・・おもむろに目が覚めた。
「え?嘘?!私・・寝ちゃってたのっ?!」
慌てて飛び起き、部屋の壁掛け時計を見ると時刻は午後4時を過ぎていた。
「た・・大変っ!」
慌ててリビングへ行くと、未だにソファに座って仕事をしている京極の姿があった。
「きょ、京極さん!」
すると顔を上げて京極が飯塚を見ると言った。
「飯塚さん?どうしましたか?」
「す、すみません!私・・うっかり眠ってしまって・・食事の準備を・・。」
慌てて言う飯塚に京極は笑みを浮かべた。
「眠ってしまったと言っても・・・まだ16時ですよ?これから食事の準備をしても余裕で19時には終わるでしょうし・・それに・・。」
「それに・・・?」
「僕は食事が何時になっても・・構いませんから気にしないで下さい。」
「は、はい・・・。でもすぐに準備始めますね・・。」
飯塚はキッチンへ行くと冷蔵庫を開けて食材を取り出した。今夜のメニューとして届けられたのはタンドリーチキンカレーとサラダだった。お米も別に2合セットでついていた。しかもお米は無洗米と、どこまでも親切になっている。
早速、お米を炊飯器に入れて水をセットすると飯塚は料理を始めた。しかし・・・料理と言っても肉も野菜も全てカット済みで、料理が好きな飯塚にとっては少々物足りないものだった。
あっという間に準備を終え、鍋に火をかけるとすぐに飯塚はやることが無くなってしまった。
(本当に京極さんは料理が出来ない人なのね・・・それとも私に気を遣って簡単に調理できるミールセットを選んだのかしら・・・?)
特にする事も無く、飯塚はキッチンからぼ~っと京極の仕事ぶりを見ていた。京極は真剣な表情でPC画面を見ながら、キーボードを叩き、時折電話が鳴っては応対している。
(フン・・・忙しそうで何よりだわね。それなのに私は・・。)
自分だって犯罪を起こすまでは業界最大手のネット通販会社『ラージウェアハウス』の秘書課に所属し、仕事をバリバリにこなすキャリアウーマンだったはずなのに・・今は自分の犯罪履歴があるせいで飯塚はバイトにすら応募する事に躊躇していた。
(ネットで自分の名前を検索して出て来なければこんな惨めな思いはしなくて済んだのに・・!)
悔しさで下唇を噛んで俯いていると、何やら視線を感じて顔を上げた。すると京極がじっとこちらを見つめている。
「何ですか?」
飯塚はジロリと京極を睨み付けるように尋ねた。
「いえ・・・俯いてどうされたのかと思って。」
「別に、何でもありません。」
フイと横を向いた飯塚に京極は言った。
「あの・・飯塚さん。実はお願いしたい事があるのですが・・。」
「お願い?何ですか?」
「先程少し飯塚さんが料理をしている姿を見ていたのですけど・・家事が得意なのかなと思って・・・とても手際よく料理を作っていらっしゃったようなので。」
「そうですね、嫌いじゃないです。」
「そうですか・・なら、この家で飯塚さんに家事をお願い出来ないでしょうか?勿論お金はお支払いしますので。」
「え?それって・・つまり私に家政婦の真似事をしろって事ですか?!そうやって私に施しを与えようと思ってるんですかっ?!」
(何なのっ?!何所までも人の事馬鹿にして・・!)
「いえ、そんなつもりで言ったわけじゃないんです。つまり・・飯塚さんには僕の専属秘書になって貰えないかと思っての提案なんですが・・。」
「え・・・?専属秘書・・?」
飯塚はその言葉にピクリと反応した―。
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