第2章 京極正人 3
「え・・・・?今、何て言ったんですか・・?」
アクリル板越しにいる京極に飯塚は目を見開いて尋ねた。
「ええ、飯塚さん。僕が貴女の身元引受人になりました。住まいも提供しますから・・安心して出所出来ますよ。当日は僕が迎えに来ますから。」
京極は笑みを浮かべながら言う。
「ちょ、ちょっと・・・何勝手に話を決めているんですかっ!」
「駄目でしたか?以前伺った話では・・身元引受人も、住む処も何も決まっていないと言ってましたよね?」
「ええ・・言いましたけど・・でも!本気で言ってるのですか?私は・・・私は貴方の妹の・・姫宮さんを刺して・・大怪我を負わせた犯罪者ですよ?何所の世界に身内を襲った人間の身元保証人になる人がいるんですか?!」
「・・落ち着いてください。あまり興奮して刑期が伸びたりしたらどうするんですか?」
京極の言葉に飯塚の顔色が変わった。
「え・・?ま、まさか・・・冗談ですよね?」
「ええ、勿論冗談ですよ?そのくらいで刑期が伸びる訳ないじゃありませんか。」
「!あ、貴方って言う人は・・・!」
思わず飯塚はカッとなり・・・溜息をついた。
「分りました・・・もういいですよ・・・。好きにして下さい。どうせ・・私には選択権は無いんですよね?」
そう、飯塚にはもはや京極意外・・頼れる人物は誰もいなかった。飯塚は逮捕された時点で家族からも・・親戚からも縁を切られてしまったのだ。
「ええ、そうですね。貴女には選択権はありません。でも・・・別に僕は貴女にどうこうするつもりはありません。ただ・・貴女の力になりたいだけですから。」
京極は真剣な目で飯塚を見た。
「わ・・分かりましたよ。そこまで言うならお言葉に甘えさせて頂きます・・。」
「ええ。何も心配せずに身体一つで出所してきて下さい。それではそろそろ今日は帰りますね。この後会議が入っているので。」
そして京極は椅子から立ち上がると、お辞儀をして立ち去っていく。
「本当に・・変な人・・。」
飯塚はポツリと呟いた―。
そして・・あっという間に時は流れ、年始明け・・・飯塚が出所する日が訪れた。
今までお世話になった人々に挨拶を終えた飯塚は門へ向かって歩き始めた。
この日は雲一つ無い、カラリと晴れた青空だった。飯塚は空を見上げ・・・思い切り深呼吸すると息を吐いた。そして門を見ると既にそこには京極の姿があった。
飯塚はゆっくり歩き・・やがて京極の前に立つと言った。
「京極さん、今日からどうぞよろしくお願いします。」
飯塚は頭を下げた。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。それで・・・手荷物はこれだけですか?」
京極は飯塚が手に持っているボストンバックを見ると尋ねた。
「ええ、これだけです。寂しいものですよ。」
飯塚はそっけなく答える。刑務所に入った事で、飯塚の性格は以前にも増してとげとげしくなってしまっていた。
「なら、これから荷物を増やしていけばいいんですよ。さ、行きましょう。カバン持ちますよ。」
「いえ、これくらい自分で持ちますよ。」
飯塚は断ったが、いいからいいからと強引に京極に押し切られ、半ば奪うように自分の手からボストンバックを奪われてしまった。
「ちょっと・・何するんですかっ?」
思わず抗議の声を上げるも、京極は意に介せずに言った。
「ほら、タクシーを待たせてあるんです。急ぎましょう。」
「はいはい、分りましたよ。」
そして京極と飯塚は、連れ立って歩き出すのだった―。
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