第38話 クリスマス

テスト休み期間中、マリおばさんの民宿でバイトをし、終業式前日に帰宅。


終業式は午前中で終わるため、お弁当の心配もなく、なかなか覚めてくれない目をこすり、自転車をこいでいた。


駐輪場に自転車を止め、玄関に向かうと、下駄箱の前に青山さんが靴を履き替えていた。


挨拶をし、二人で話しながら教室に向かっていると、青山さんが切り出してくる。


「ねね、今日ってイブじゃん?なんか予定あるの?」


「あ、そういえば今日イブだっけ?予定は…おじさんが迎えに来るのを待つくらいかな?」


「え?バイト?」


「そそ。客室の大掃除が残っちゃってるし、常連さんが何組か入ってるみたいなんだよね」


「頑張るねぇ…クリスマスなのに…」


笑いながら教室に入り、ごくごく普通の1日を過ごす。


学校を終え、帰宅しようと準備していると、青山さんに話しかけられた。



「若菜、いつバイトから帰ってくるの?」


「ん~。年末年始はずっと向こうだし、始業式直前くらいかなぁ…」


「えー… 一緒に初詣行って、勉強教えてくれたお礼したかったのに… 結衣子も用事あるっていうしさぁ」


「ごめんね。 新学期始まったら期待してる」


その後も青山さんたちと話した後、自宅に帰ろうとすると、近所の公園で井口君がマルを撫でていたんだけど、マルは私を見た途端、鳴きながら駆け寄ってきた。


『げ…』



マルの行動のせいで、井口君に気づかれてしまったんだけど、井口君はゆっくりと歩み寄ってきた。


「よぉ。遅かったな」


「あ、うん… まぁ… つーか何してんの?」


「ん?マルにクリスマスプレゼントあげてた。これ、残りな」


井口君はそう言いながら、袋に入った猫用のおやつを手渡してきた。


「あ… ありがと?」


猫用のおやつを受け取ってすぐ、井口君はポケットに手を入れ、小さな紙袋を手渡してきた。


「こっちは飼い主のな」


「え?なんで?」


「なんとなく?やっべ!バイト遅れる!!じゃあな」


「え?あ、ちょっと!!」


少し赤い顔をした井口君は、急ぎ足で自転車にまたがり、颯爽とその場を後に。


マルを自転車のかごに乗せ、自宅に帰った後、井口君からもらった紙袋を見ると、中にはラインストーンで縁取られた、黒いシンプルなシュシュが入っていた。



『なんで急に?ずっと会話もしてなかったのにおかしくない?』



突然手渡されたクリスマスプレゼントに、どうしていいのかわからないでいた。


少しすると、おじさんが迎えに来てくれたんだけど、助手席に乗り込んだ時に、左手首に井口君からもらったばかりのシュシュを、つけっぱなしにしていることに気が付いた。



『持ってきちゃった… 大掃除するし、付けてたら汚れちゃうかな… 最悪、落として無くしちゃうっていうのもあり得るかも… あとでお礼のラインしなきゃ…』



外の景色を眺めながら、井口君のことばかりが頭の中を駆け巡っていた。

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