第34話 存在
結衣子ちゃんの家に泊まった翌日。
電車に揺られ、帰路についていたんだけど、自宅最寄り駅に着くと同時に、愛子と健太君が並んで歩く後姿が視界に飛び込んだ。
自然と歩く速度を落とし、なるべく距離をとるように歩いていたんだけど、二人は楽しそうに笑いあいながら愛子の家へ消えていった。
『バカバカしい…』
ため息を飲み込みながら歩く速度を上げて歩き続け、自分の部屋に入ってすぐ、マルのおなかに顔を埋めていた。
マルのおなかに顔を埋めていると、健太君と愛子、そして昨日会った井口君の元カノと、井口君の顔が頭をよぎる。
~康太は長い黒髪だったら誰でもいいんだもんね~
井口君の元カノの言葉が頭をよぎり、悔しさと苛立ちの中に、小さな寂しさを感じてていた。
数日後の昼休み。
結衣子ちゃんとお弁当を食べに行こうとすると、井口君が私の前に立ちふさがった。
「ちょっといいか?」
聞こえないふりをし、廊下に出ようとすると、井口君は大きなため息をついていた。
黙ったままその場を後にし、他愛もない会話をしながら結衣子ちゃんとお弁当を食べていたんだけど、結衣子ちゃんは何かを言いたげな表情を浮かべていた。
屋上の手前にある、立ち入り禁止ラインギリギリの場所でお弁当を食べようとすると、誰かが走る足音が聞こえてくる。
足音がどんどん近くなってきたと思ったら、階段下から愛子が顔を覗かせた。
愛子は無言のまま私の目の前に駆け寄ると、無言でお弁当の入ったポーチを奪い取る。
「ちょっと!何すんの!!」
「もらうわ」
「はぁ!?何言ってんの!?返し…」
愛子は言葉の途中で駆け出してしまい、慌てて追いかけようとすると、結衣子ちゃんが引き留めてきた。
「若菜ちゃん待って!私ので良ければ、半分こしよ」
「でもさ」
「次体育だし、追いかけて授業に遅れたら大変だよ?」
結衣子ちゃんは苦笑いを浮かべたままそう言い切り、渋々結衣子ちゃんのお弁当を分けてもらった。
放課後、お弁当箱だけでも返してもらおうと、愛子の教室に向かうと、教室の中にいた愛子は私を見るなり駆け寄り、いきなり私の腕をつかんで、少し離れた場所に連れ出した。
「明日はハンバーグでよろしく」
「は?何言ってんの?」
「彼がハンバーグ食べたいって言ってたのよ。ってことでよろしく~」
「彼って…自分で作ればいいでしょ?」
「めんどくさい。んじゃよろしく~」
お弁当箱の入ったポーチを、押し付けるように手渡した後、愛子は手をひらひらさせて教室へ。
お弁当箱を返してもらったまではいいんだけど、今までにないほどの怒りがこみ上げてくる。
『だれが作るか!!』
かなり不貞腐れたまま帰宅し、マルのお腹に顔をうずめていた。
『ん? ちょっと待てよ? 愛子、彼って言ってたよね? もう新しい彼氏ができたの? 同じ学校ってことだよね? 誰だ?』
『誰だ?』とは思ってみたものの、他クラスのことなんて全然わからないし、名前を言われたところでピンとこない。
『考えるだけ無駄無駄…』
マルのお腹に顔をうずめたまま、大きくため息をついていた。
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