第15話 約束

夏休みに入った数日後。


部屋の掃除をしていると、マリおばさんが、この日に来るお客さんの話を切り出してきた。


この日は日曜だったから、使う部屋は3部屋。


家族連れが1組と大学生のお客さんがグループで来て、2部屋使うようだった。


「みんな新規のお客さんだから、ちょっと大変かもね。 家族連れのお客さんが、釣り道具一式レンタルを希望してたから、あとで準備してくれる? 家族連れのお客さんは2泊だけど、大学生さんたちは3泊だから~~」


掃除をしながら流れを聞き、言われたとおりに準備開始。


準備をしている最中、なぜか無性にチョコパフェが食べたくなってしまい、自転車を借りてスーパーへ。


買い物を終えた後、民宿に戻って少しすると、家族連れのお客さんが、狭いフロントに置かれているソファに座り、チェックインをしていたんだけど、小さな男の子がこちらを見て、かわいらしい声をかけてきた。


「こんにちわぁ~」


思わず顔がほころび、挨拶をしたあとに部屋へ案内。


部屋に案内した後、マリおばさんに言われ、お風呂掃除をしていた。


さっき買ってきた、棒付きの飴を口に入れながら掃除をしていると、廊下を歩く大勢の足音が聞こえてくる。


何も気にせず、風呂掃除を終えた後、水着の上にパーカーを着て、ドンちゃんの散歩に向かっていた。


水着といっても、デニムのショートパンツがセットになった、黒いスモッキングビキニだから、パーカーを着込んでしまえば、言わなきゃわからない。


海とは反対方向に少し歩き、山道を抜けると、小さな滝壺が見えてきたんだけど、ドンちゃんは『待ちきれません』と言わんばかりに、暴れまわる。


「わかったわかった」


ドンちゃんに声をかけながらリードを外してあげると、ドンちゃんは一目散に駆け出し、大きな水しぶきをあげながら滝壺の中にダイブ。


ドンちゃんにつられるようにパーカーを脱ぎ、躊躇なくドンちゃんと水遊びをしていた。



しばらく遊んだ後、民宿に戻ると、手を砂だらけにした小さな男の子が、外にある蛇口の前で困っているようだった。


「お水でない?」


男の子はドンちゃんに軽くおびえ、少し後ずさりしながら頷く。


ドンちゃんを連れたまま、元栓を開けると、水が出てきたんだけど、水を見るなりドンちゃんがはしゃいでしまい、私と男の子もずぶ濡れ状態に。


声をあげながら2人と1匹で水遊びをしていると、マリおばさんと男の子のお母さんが中から出てきた。


「何してんの?」


「一緒に水遊びしてるんだよねー!」


「ねー!」


男の子は満面の笑みで私にそう言い、お母さんは申し訳なさそうに謝罪の言葉を並べてきた。


「本当にすいません… ほら、カケルも謝って!」


「あ、いいんですよ! カケル君、また水遊びしようね!」


「うん!」


「…娘さんですか?」


「いえ、姪っ子なんですよ。 繁忙期だけバイトに来てもらってるんです」


マリおばさんとカケル君のお母さんが話す中、しっかりと指切りしていた。


このことがきっかけになったのか、カケル君は廊下で私と会うとにっこりと笑いかけ、何かを言いたそうな顔をするように。



夕食を食堂に運んでいると、カケル君家族が食堂にやってきたんだけど、カケル君は私の隣にぴったりとくっつき、話しかけてきた。


「おねえちゃん、おなまえなんていうの?」


「ん~? 内緒」


「え~ おしえてよぉ~!」


「どうしよっかなぁ~? おしえちゃおっかなぁ~~?」


笑いながら冗談を交えて話していると、廊下を歩く大人数の足音が聞こえてくる。


「あ! お客さんいっぱい来ちゃった! ごはんいっぱい食べたら、あとで教えるね!」


「えー… あとでぜったいやくそくだかんね!」


カケル君と再度指切りをし、急いで食堂を後にしていた。

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