第13話 相談

週末。


夕方過ぎに結衣子ちゃんと駅で待ち合わせをし、お弁当を買ってから結衣子ちゃんの家へ。


『豪邸?』と思うくらいに、大きくて豪華な家には、結衣子ちゃんが一人で留守番をしていたようで、4人で勉強をする時に、頑なに拒んでいた理由もわかったような気がしていた。


お弁当を食べた後に交代でお風呂に入った後、結衣子ちゃんに切り出した。


「で、相談って何?」


結衣子ちゃんは少しだけ黙った後、思い切ったように切り出した。


「あのね、朋美ちゃんのことなんだけど…」


「やっぱりそうかぁ…」



というのも、何かを決めるときは、朋美ちゃんが仕切ってしまい、誰かが発言をしても、自分が気に入らないと即却下。


私の唐揚げを、井口君と鈴本君が取り合いした後、「ガキクサ…」と呟いた時に違和感を感じていたようで、ずっと黙っていたようだった。


先日、どこで勉強をするかを相談した時、『猫アレルギー』を理由に、全員の集まる場所を変えたことで、苦手意識が生まれてしまい、寝たきりのおばあさんの話も、咄嗟に出た嘘だったとのこと。


ずっと我慢をしていたけど、とうとう限界が来てしまい、私に相談してきたようだった。



「私が気にしすぎなのかなって思ってたんだけど… 最近、特に酷いんだよね。 ほら、クラスの大半が無期停食らったじゃん? あの後から、徐々に頭角を現したっていうかさ…」


「なんかわかる… 気づけなくてごめんね」


「仕方ないよ。 若菜ちゃんは井口君に付きまとわれて手一杯だし… くだらないことで相談してごめんね」


「ううん。 解決はできないかもだけど、聞くだけならいつでもするからさ」


「ありがと。 スッキリしたらおなかすいちゃった! コンビニ行こっか!」


結衣子ちゃんに切り出され、近所のコンビニに行ったんだけど、コンビニにはまさかの中尾君の姿が…


嫌な予感がしつつも、棚に隠れるように動き回っていたら、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ? 若菜ちゃんだ」


何気なく振り返ると、そこには佐伯君の姿。


から笑いを浮かべながら逃げようとしたんだけど、中尾君に捕まってしまい、逃げることができずにいた。


「何してんの?」


中尾君の言葉に、結衣子ちゃんが答える。


「相談したいことがあって、泊まりに来てもらったんだ」


「え? おじさんとおばさんは?」


「出張だよ」


「ふーん… 相変わらず忙しそうだな」


中尾君と結衣子ちゃんはごくごく普通に話し続け、違和感ばかりが募っていた。


「…仲いいの?」


「幼馴染なんだ。 幼稚園からずっと一緒なの。 小学校の高学年くらいから、話さなくなったんだけど、学校以外では普通に話すよ」


初めて聞く言葉に、苦笑いしか出てこないでいたんだけど、3人は当たり前のように買い物を続け、レジに向かう。


買い物を終えた後、コンビニを後にすると、佐伯君が切り出してきた。


「そういやさ、若菜ちゃんに聞きたいことあったんだ。 ちと付き合ってくんね?」


思わず結衣子ちゃんのほうを見ると、結衣子ちゃんは苦笑いを浮かべながら何度も頷く。


『行かなきゃいけないんすか… わかりましたよ… 行けばいいんでしょ行けば…』


卑屈になりながらも公園に行くと、佐伯君はブランコに座り、切り出してきた。


「H組の渡辺愛子、あいつなんなの?」


「え? 愛子?」


佐伯君の話によると、学校にある自販機でジュース買おうと思って並んでると、愛子はいつも前のほうにいる男子に話しかけ、どさくさに紛れて割り込み。


それが何度もあったため、注意をしたんだけど、愛子は男子生徒の陰に隠れてしまうそうで、佐伯君が悪者になっているとか…


『最近話してなかったけど、さらにパワーアップしたんだなぁ…』


そんな風に思いながら話していると、背後から足音が聞こえ、振り返ると、真っ赤な顔をし、ふらつきながら笑顔で歩み寄ってくる井口君と鈴本君の姿が…


井口君は私の前に来るなり、いきなり抱き着いてきた。


「わかなぁ~…」


驚きのあまり、声が出ないでいると、耳元で囁く声とアルコールの匂いが漂ってくる。


「クサ!」


体を離そうとすればするほど、井口君は腕に力を籠め、強く抱きしめてくる。


「酒臭いから離して!!」


「ブロック解除しろよぉ~…」


周囲が大爆笑する中、呂律の回っていない甘えた声で言われたけど、酔っ払いの言う通りにできるわけがない。


「つーかなんで酔ってんの? 未成年でしょ!?」


「ん~… 解除しろよぉ…」


「嫌だ! 離して!」


「若菜ぁ…、マジあったかい…」


「臭いから離れてよ!!」


はっきりとそう言い切ると、井口君は少しだけ腕の力を緩め、顔をまじまじと見て、ニッコリと笑顔を作った後に切り出してきた。


「ちゅーしたら離れてあげる」


「はぁ!? するわけないでしょ!?」


「んじゃ離さない」


井口君はそういった後、すぐさま腕に力を籠め、私の体を左右にブンブンと振りまくる。


『なんなんだよこの酔っ払い… 通報するぞ…』


そう思っていたら!


井口君は腕の力を緩め、急ぎ足で公衆トイレへ。


『アホだ… あんなに振り回すからだよ…』


心配そうに駆け寄る3人の後姿を眺めながら、完全に呆れ返り、苦笑いを浮かべる結衣子ちゃんと二人でその場を後にしていた。

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