第11話 後悔
井口君が私を庇って怪我をした放課後。
苛立ちながら自宅に帰ると、マルが仰向けになり、ベッドの上でイビキをかいている。
『ブヒー…』とも聞こえるイビキを聞き、八つ当たりをするように、マルのおなかに顔を埋める。
『ホント最低… まだって何よ… これからお世話にって、普通、本人を目の前にしてあんなこと言う?』
マルのおなかに顔を埋めながら考えていると、お礼を言っていないことを思い出した。
謝罪はしたけどお礼はしてないし、あんなに顔を歪めるくらい痛がっていた場所を、思い切り叩いてしまった。
『お礼、言ったほうがいいよね…』
マルのおなかから顔を離し、机の引き出しから雑に折られたメモを取り出す。
“マジうまかった! お礼言いたいから、これ見たら連絡して”
あれからメモ自体を机に封印していたから、ずっと連絡をしていなかったんだけど…
いざ、こっちから連絡をしようとすると、全くと言っていいほど手が動かない。
『どうしよう… メールがいい? 電話? それともライン? 連絡したら、私の連絡先もバレるし…』
スマホと紙を並べてしばらく考えていると、スマホが震え、見知らぬ番号から着信が…
不思議に思いながら電話に出ると、懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、若菜ちゃん? 健太だけど覚えてる?」
声を聴いただけで、思わず息が詰まり、手が震えそうになってしまう…
「あ、うん… 覚えてる… けど…」
必死に声を絞り出すと、健太君はごくごく普通のトーンで切り出してきた。
「いきなりごめんね。 今大丈夫?」
「うん…」
「実はさ、兄貴がバンドやってて、週末にライブがあるらしいんだけど、もし良かったら一緒にどうかなって思ってさ」
「…愛子と行けばいいじゃん」
「別れたよ」
「え? なんで?」
「高校入学してすぐ、『他に好きな人ができた』って言われちった… 俺自身、愛子のことは何とも思ってなかったし、やっぱりなぁって感じ」
「そうだったんだ…」
「で、週末、予定ある?」
「あ、ごめん。 週末はおばさんの家に行かなきゃいけないんだ」
「連休じゃなのに?」
「う、うん… 釣り客の団体さんが来るみたいで、どうしてもって言われて…」
「そっか… んじゃまた誘うよ。 ごめんね」
その後も少しだけ話、電話を切ったんだけど、大きなため息が零れ落ちた。
『なんであんな嘘ついたんだろ… 週末の予定なんか何にもないのに… 健太君、愛子と別れてたんだ…』
健太君との会話を思い出すと、どんどん気持ちが沈んでいく…
『なんでこんなに凹んでるんだろ? 断っちゃったから? 嘘ついたから? それとも、別れたって知ったから? なんでこんなに虚しいんだろ…』
考えれば考えるほど、虚しさの正体がわからなくなり、再度、大きくため息をついた。
すると、机の上に乗っていた、雑に折りたたまれてる紙が床に落ちる。
『お礼、ちゃんと言わなきゃ…』
何も考えないまま紙を拾い上げ、ラインに電話番号を入力。
トーク画面を開き、メッセージを送っていた。
“ありがと”
短すぎるメッセージを送った後、“既読”がつくと同時にハッと我に返り、すぐにブロック。
『だあああ!! やっちゃったあ! 何送ってんのバカ!!』
後悔しても時すでに遅し。
瞬時にブロックをしたから、井口君から連絡が来ることはなかったんだけど、後悔ばかりが押し寄せてきていた。
ラインの名前は『わかな』にしてあるし、アイコンもマルの写真だから、井口君は瞬時に誰が送ってきたのかわかるはず。
『お礼なんか言わなくてもいいじゃん! なんであんな最低最悪のド変態ナンパ師に、ライン送ってんの? 本当にバカだ…』
後悔ばかりが押し寄せる中、再度マルのおなかに顔をうずめていた。
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