第65話 女神祭 開幕!!

 日曜の朝。

 清々しいほどの快晴。

 タマモという邪悪を討ち払うには、これ以上ないほどの天気だ。

 今日は、イリス様と星川二人との約束を果たさねばならない。そのために、俺は悪道として今日は学園に行く。

 そして、どこかのタイミングで薬を服用し善道へと姿を変える。完璧な計画だ。


「お母さん。こんなにお外晴れてるのに傘いるの?」


「午後からの天気予報が怪しいの。念のために用意しといたほうがいいでしょ」


「そっかー」


 学園へ向かう途中、道を歩く一組の親子の会話が俺の耳に入る。


 雨か……。

 でも、こんだけ快晴だし大丈夫だろ!


 その会話の内容を特に気にすることなく、俺は学園へと急いだ。


***


 午前中の間に映像機材に不具合がないかを確かめる。

 万が一映像が撮れなかった場合、あの理事長にどんな目に合わされるか分からない。これだけは最新の注意を払う必要がある。


 問題ないことが確認できたところで、適当に学園内をぶらつくことにした。

 当日の運営は黒田先輩たちに任せている。つまり、今日の俺は時間にゆとりがあるのだ。

 とはいえ、今の俺は悪道としての姿。誰かに声を掛けられることは無いし、気軽に誰かに声を掛けることも出来ない。


 仕方ないので、各宗教の教徒たちがここぞとばかりに布教活動を兼ねてやっている露店を回ることにした。


 「アカリンの一番星くじ」、「カノッチ焼き」、「タマタマ様のタマタマドリンク ※タピオカドリンクです」……。


 ダメだろ。特に最後のやつ考えたの誰だよ。名前から邪な思いしか感じられないぞ。


 他にも色々な露店があったが、普通なものから馬鹿すぎるものまで多種多様だった。そして、全ての露店に各宗教の入信書が置いてあった。


 端から見たら完全にヤバイ集団だな。せめて入信書を置くのはやめさせるように黒田先輩にお願いしとくか。


***


 時間をある程度潰し終え、午後の一時になった。

 外にいた人は続々と体育館の中へ向かっていく。日曜ということもあり、学園生だけでなく、近所の人も何人か来ている。

 校門付近に今回の目玉イベントに出る四人の顔が出ていたのが良かったのだろう。体育館の中はかなりの人の数になっていた。


 一応、一般参加枠も設けたらしいのだが、イリス様たちが参加することを知ったら辞退する人が続出したらしい。


 そして、その時が来る。

 体育館内の光が消え、アナウンスが響く。


『美しきものはこの世に一つではない。美しさとは、可愛さとは単純に競えるようなものではない。場面が違えば、見る人が変わればそれは全て変わっていく。だが、この世に美しいものは確かに存在する! その美しさを互いに認め合い、互いに讃え合う! 今日の主役の登場だああああ!!』


 その言葉と供に、ステージの幕が上がる。


『エントリーナンバー1番! その笑顔は夜空に輝く一番星が如く明るく我々を照らしてくれる! 星川明里!!』


「「「アカリーン!!」」」


 ビシッと決めポーズを決めた星川にスポットライトが当たる。


『エントリーナンバー2番! 普通ではない可愛さ、だが、溢れ出る親しみやすさ! 慈愛の心はまるで聖女! 愛乃花音!!』


「「「カノッチ~!!」」」


 苦笑いを浮かべながらペコリと頭を下げる愛乃さんにスポットライトが当たる。


『エントリーナンバー3番! 正しく高嶺の花! 手が届かないと分かっていても手を伸ばすことをやめられない! 白銀イリス!!』


「「イリス様ー!!」」


 前の二人に比べると、小さな声が体育館内に響く。イリス様の現状を考えれば仕方がない。

 数で勝てないならば、一人の力で頑張るだけだ。


「イリス様は今日も美しいいいいい!!」


 全身全霊で放った俺の声が体育館内に響き渡る。その声に気付いたイリス様が俺の方を向いて、クスリと口元に手を当て笑った。


 ひえっ。可愛すぎる。


『エントリーナンバー4番! 遊ばれているのかもしれない。手のひらの上でコロコロと転がされているのかもしれない。でも、いい! この人の手のひらの上でなら、コサックダンスでもワルツでもいくらでも踊り続けよう! その色気は高校生とは思えない! 前野環!!』


「「「「タマタマ様ー!!!」」」」


 一際大きな歓声が体育館内に響き渡る。それが今のタマタマ教の勢力のでかさをそのまま表していた。

 スポットライトを浴びたタマモは観客たちに投げキッスをする。

 その瞬間、地鳴りのように会場が沸き上がった。


 現状で、男たちを手玉に取る技術は四人の中でタマモが一番だ。特に、男が気に入るような仕草を自発的にするのはイリス様が最も苦手とするところだろう。

 それでも、イリス様の素は果てしないポテンシャルを持っている。打算や駆け引きなど一切ない純粋な思い。

 その一点において、イリス様は絶対にタマモには負けない。


『それでは早速参りましょう! 先ずはこれだ!!』


 アナウンスの言葉と供に、イリス様たち四人が経つステージの奥にあるスクリーンに文字が浮かび上がる。


『手作り料理は男の夢! ファーストステージは手作りお弁当作りです!!』


 その言葉と供に観客席から歓声が沸き上がった。


***


 手作り料理というのは特別なものだ。

 そもそも料理というものは手間がかかる。自分で料理をしたことがある人なら分かると思うが、おかず一つ作る、いや、お米を炊くことさえ面倒だ。

 ましてや、数多くのおかずが要求される弁当であれば、それを作る面倒くささは言うまでもなく分かることだろう。

 そんな弁当を手作りで用意する。

 それはとてつもない手間であるとともに、それを作ってきた相手の思いがこれ以上ないほど伝わる魔法の道具である。


『さて、それではくじで決まった通り順番は、愛乃さん、星川さん、前野さん、白銀さんでいきます! 早速と言いたいところですが、お弁当はやはり見た目もそうですが味も大事! 味を審査する殺したいほど羨ましい三人の審査員を紹介しましょう!!』


 アナウンスの言葉と供に、ステージの右端にいつの間にか用意されていた三つの椅子に座る三人の審査員が姿を現す。


『一人目! 電車オタクたるもの駅弁は欠かせないと豪語する、学園一の駅弁マニア! 駅田えきた弁座衛門べんざえもん!』


「電車の中で食べて美味しいか。それが問題でござる」


 一人目は丸眼鏡をかけ、額にバンダナを巻いた男だった。


『二人目! 昼時は毎日、先輩との張り込み! そのせいでアンパンと牛乳しか食せない! 出方でかた啓二けいじ!』


「やった! 今日は先輩のためにアンパンと牛乳を買いに行かなくて済むんだ!!」


 二人目はコートを身に付けた、ややイケメンの平凡そうな男だった。


『三人目! 料理研究部部長! 味見澤あじみざわ四太郎したろう!』


「てやんでい! 上手そうな飯の香りがするぜ!」


 三人目は、草を口にくわえ、ボロボロの帽子を被った男だった。


 一癖も二癖もある審査員たち。

 彼らが四人の弁当をどのように審査するか。それ次第でイリス様の印象も大きく変わる。


『それでは、ファーストステージ! 先ずは愛乃さんに手作りお弁当を披露していただきましょう!!』


 イリス様の運命を大きく分けることになる戦いの第一ラウンドが幕を開けた。

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