第64話 決断の時は……
週明けの月曜日、四人の許可を得たこと、更に理事長から再来週の日曜日に学園の体育館を使う許可を得たことを教徒たちの前で公表し、俺は教徒たちからの協力を獲得した。
そこからは、準備に追われる日々。
準備の間は、タマタマ教徒たちを手伝いに参加させられたため一時的とはいえイリス様への誹謗中傷が減ったのは嬉しい誤算だった。
そして、瞬く間に時は流れ、いよいよ本番の二日前となった。
「理事長、ここまで出資並びに準備を手伝って頂きありがとうございました」
俺の前にいる理事長に頭を下げる。
理事長は、紳士服にシルクハットを身に付けており、杖を片手にパイプを加えた俺の中の英国紳士のイメージそのままのような格好をした人だった。
「はっはっは! 気にすることは無い。未来ある若者のためなら数百万なんてはした金さ。ところで、例の件なんだがね……」
「安心してください。本番はカメラを回して映像をきっちり残します。理事長が一番いい映像機材を用意してくださったおかげもあり、素晴らしい映像を提供できるかと」
「それならいいんだよ。それならね! それじゃ、本番は頼むよ! はっはっはっは!」
俺の言葉を聞いた理事長は上機嫌に笑いながら学園を立ち去っていった。
理事長のおかげであらゆるお金の問題が解決された。感謝しかない。
周りを見ると、もう日が落ちて暗くなっていた。さっきまでチラホラ残って作業していた他の生徒たちも皆帰ったようだ。
カバンを持って、俺も学園を後にする。
校門から出ようという時に、校門の前に星川の姿を見つけた。
「星川? こんな遅くまで何してんだ?」
「あ! 終わったんだ。あっくんと一緒に帰ろうと思って、待ってたんだ!」
笑顔を向けながら、星川が俺の隣に来る。
「それは、悪かったな。こんなに遅くなっちまったし」
「ううん。寧ろ丁度良かったよ。だって、こんなに遅くなったらあっくんはもう私を放って帰れなくなるでしょ?」
意地の悪い笑みを浮かべる星川。
星川の言葉通り、流石に日が落ちた道を星川一人で返すほど俺はバカじゃない。
それに、星川を見ると約束したからな。イリス様関係なく、ちゃんとこいつと関わらないといけない。
例え、その結果が変わることが無いものだとしても。
「はあ。今日は仕方ないけどよ、あんまり遅くまで残るなよ。星川の親も友達も心配するだろ」
「あっくんも?」
「ああ」
「ふーん。そっか」
俺の返事を聞いた星川は嬉しそうにそう呟いた。
そこから星川と他愛のない話をしながら歩く。
そのうち、話は家族の話になっていった。
「あっくんの家族は何してるの?」
「両親は俺が中学生の頃に亡くなったんだ」
「え……あ、ごめん」
星川の表情に影が差す。
誰だって、そういう反応するよな。
「気にすんなよ。中学生の頃は俺もガキだったから立ち直れなかったけどな。でも、今は仲の良いクラスメイトもいるし、星川みたいに俺を好きでいてくれる人もいる。それに、自分の人生を変える出会いもあった。両親の死はめちゃくちゃ辛いけど、結果的にその別れがあったから今の俺がいるんだよ」
「そうなんだ……。あっくんは強いね」
「俺からしたら、星川の方が強いけどな」
「え? 私が?」
星川は意外そうに自分を指差しながらそう言った。
「ああ。だって、たくさんの人を守るために戦ってるんだろ? できねえよ。大切な人だけじゃなくて、自分とは関係ない誰かのために命かけて戦うなんてこと、普通の人には出来ない」
自分の大切な人の為なら、命をかけられるっていう人はいるのだろう。だが、自分とは関係ない誰かのために命かけられる人なんてそうそういない。
「……皆のおかげだよ。私が頑張れるのは、皆のおかげ。私たちが守りたいと思えるほど、素敵な皆のね」
星川はそこまで言うと、俺の手を握った。
「それと! あっくんのおかげ。私もあっくんと同じだよ。ただ、好きな人のために頑張ってるだけなんだよ」
星川の言葉に、ドキリと心臓が跳ねる。
「そ、そうか……」
「あ! もしかしてあっくん、照れてる?」
「て、照れてねえから! ほら、さっさと帰るぞ」
その後も星川に揶揄われながら、二人で歩いて家に帰った。
星川と別れた後、一人でゆっくりと歩いて帰る。
星川は俺のことを強いと言ったが、俺は自分を強いなんて思えたことは一度もない。
両親が死んだ時、俺は半年近く無気力な生活を送っていた。周りの友人の言葉も一切耳に入らず、この世で自分が一番不幸なんだと思い込んでいた。
自分の運命を恨んで、幸せな奴らを逆恨みして、俺を無責任に置いていった両親を恨んだ。
そんな俺を変えてくれたのが、あの人だった。
「そろそろ、決着を付けた方がいいのかもな」
タマモとの戦いが終わったら、星川の俺への思いと俺のイリス様への思い。この二つの思いにケリをつける。そう決めた。
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