第52話 修学旅行最終日
「うおおお!! USNだあああ!!!」
太郎の声が空に響き渡る。
修学旅行三日目の午前十時頃。
俺たちは今回の修学旅行の最後の目的地であるUSNに来ていた。
「はい。興奮する気持ちは分かるが静かにな。午後の四時に、またここに集合。そこから学校に帰るぞ。それまでは自由時間だ」
「「「はーい」」」
先生の話が終わると、生徒たちが各自自由に動き出す。この三日目は完全に自由行動だ。
好きな人と好きなように時間を楽しむことが出来る。
「善道、一緒に行こうぜー」
やはりイリス様と回るべきか……なんてことを考えていると、太郎と次郎の二人が近付いて来た。
まあ、そうだな。イリス様は星川たちと回るみたいだし、無理にあっちに行く必要もないか。
「おう。いいぞ……って、あれ? 三郎は?」
いつもなら三郎がいるはず。だが、俺のもとに来たのは太郎と次郎の二人だけだった。
「三郎なら、前野さんに呼ばれてそっちに行ったよ。羨ましいよね」
意外……というほどでもないか。三郎は学園生活でも前野さんと一緒にいることが多かったしな。
「なら、三人で行くか。てか、お前らは愛乃さんとか星川と回りたいと思わないのか?」
「あれを見て、間に入ろうと思える奴はいねえよ」
太郎が指差す先には、楽しそうに笑いあうイリス様と愛乃さん、星川の三人の姿。
「確かに。あれは、邪魔しにくいよなぁ」
「まあ、タイミングが合えば写真の一枚くらい撮りたいところだけどね」
次郎が苦笑しながら呟く。
確かに、記念写真だけでも俺たちにとっては貴重なものだ。タイミングを見計らってお願いしてみてもいいかもな。
「とりあえず行こうぜ!」
「「おう」」
太郎の言葉に返事を返し、俺たちはUSNの中に入った。
***
「「「ひゃっほおおおお!!」」」
ジェットコースターの重力やべええええ!!
「「「ひょえええええ!!」」」
「「「きゃあああああ!!」」」
スッパイダーマンかっこいいいいい!!
***
「いやー楽しかったな」
俺の言葉に太郎と次郎が頷きを返す。
今日は珍しく人が少なく、かなりハイペースでアトラクションを楽しむことが出来た。
休憩なしでアトラクションを楽しみ続け、気付けばもう昼の十二時半。今は、USN内にある露店でホットドッグを買い、三人で並んで食べているところだ。
「この後どうする?」
俺の問いに太郎と次郎が気まずそうに顔を見合わせる。
何か予定があるのか?
「あー悪い。善道。この後、俺たち一年の頃に仲良かった奴らと遊ぶ約束しててさ、そっち行かなきゃならねえんだ。善道は、何か予定とかあるか? 無かったら、俺たちと一緒に来ないか?」
太郎が俺に問いかけてくる。
うーん。太郎たちの友達と会う、か。
悪くはないけど、たまには一人でのんびりしてもいいかもな。星川と会う約束もあるし。
「俺も一応予定あるから、遠慮しとく。誘ってくれてありがとな」
「そうか。なら、俺と次郎は行くわ。またな」
そう言うと太郎と次郎は二人で何処かへ立ち去っていった。
さて、と。
お土産でも買いに行くか。
兄貴と、戦闘員の奴ら。それと……両親。それくらいだな。
よさげなお菓子を吟味していく。兄貴には、折角だしお土産人気トップ3に入っている、千味ビーンズにしよう。
人気が高いんだ。きっと兄貴も気に入ってくれるだろう。戦闘員たちには適当なお菓子。人数も多いしな。
両親には、お菓子とペアストラップにするか。
購入するものを決めて、レジに向かう。購入したものを持って店を出ようとした時、店の中でやけに真剣な表情でお土産を見つめるイリス様を見つけた。
お! イリス様もお土産か?
折角だし、声かけよーっと!
「何やってるんだ?」
「ああ、あなたね。見ての通り、お土産を少しね」
お土産か……。誰に渡すんだろうか? 両親?
「そうだ! 丁度良かったわ。良かったら、手伝ってくれないかしら?」
そういえば、学園祭が終わった後ぐらいにそんな約束をした気がする。
ということは、これからイリス様が買うお土産はイリス様の思い人に対するお土産ということか!?
……めちゃくちゃ嫌だ。だが、イリス様のために俺は涙を呑もう。
「……分かった」
「何か嫌そうね。もしかして、何か予定があるのかしら? なら、無理はしなくていいんだけど……」
イリス様が不安そうに尋ねる。その表情を見て、俺は必死に手を振ってフォローする。
「あ、いや! 何の問題も無いぞ! 俺、お土産選び大好きなんだよなぁ! お土産選びたくて仕方ないぜ!!」
「そう? なら、いいんだけど」
イリス様が安堵の表情を浮かべたところを見て、ホッと一息つく。
あ、あぶねえ。つい嫌な気持ちが顔に出ちまってた。
イリス様の幸せのために、今は自分の気持ちは押し殺そう。
「その、あれだよな。手伝うってことは、男の人へのプレゼントなんだよな?」
「え、ええ。そうね」
念のために確認したが、イリス様は少し照れ臭そうに肯定した。
ちっ! その男のSNSアカウント炎上しちまえ!
「そっか。とりあえず、その男がどんな男か教えてもらえないか? やっぱり、その人がどんな人かでプレゼントの種類も変わると思うし」
気を取り直してイリス様に質問する。
あわよくば、この質問からその男を特定する作戦である。
「そ、そうね……。えっと、バカね」
なるほど、バカか。
つまり、相手は中学生以下の学力しか持たず、将来的にイリス様に迷惑をかける可能性が高く、イリス様の寄生虫になってしまう存在ということか。
許せんな。イリス様に愛されているんだから、せめて大学に行けるだけの学力は身に付けてもらわないと困る。
1アウト。
「それと、とんでもないバカね」
とんでもないバカか。
つまり、相手は小学生以下の学力しか持たず、もしかすると将来的に無職になってしまう恐れがあるということか。
それはダメだ。イリス様に愛されているなら、イリス様を幸せにするためにもせめて将来的に年収一千万円はいってもらわないと困る。
これで2アウト。
「後は……信じられないバカよ」
信じられないバカか。
もしかすると相手はミジンコ並みの知性なのかもしれない。ミジンコにイリス様は任せられん。
はい。3アウト。チェンジだ。
イリス様には申し訳ないが、その男とつるむのはやめておけと言わせてもらおう。
「白銀さん……言いにくいんだけど、そんなバカはやめた方が――」
「でも、凄く愛に溢れていて、真っすぐな人。私に、愛を教えてくれた人。私を……幸せにしてくれた人」
グハァッ!!
思わず膝をつく。
勝てない……。確かに、イリス様の思い人は知性の欠片もないミジンコのような男だ。いや、これを言うとミジンコに失礼かもしれない。そう思わせるほどの男だ。
だが、その男はイリス様に愛を教え、イリス様を幸せにした人だ。こんなにもイリス様に幸せそうな、嬉しそうな表情をさせられる男だ。
俺はイリス様にほっぺにチューをされて、調子に乗っていた。だが、あれは部下である俺がタマモのものになりそうだったからされたことだ。
この程度じゃ、イリス様の思い人には勝てない……!
「ちょ、ちょっと! 何で泣いてるのよ」
「いや、凄く……いい人なんだと、思って……」
静かに涙を流す俺を見て、イリス様はドン引きしていた。
「と、とりあえずプレゼントを選びましょう。これなんて、どうかしら」
そう言ってイリス様が手に取ったのはペアストラップ。
ゴハァ!!
「こっちもいいわね」
そう言ってイリス様が手に取ったのはペアマグカップ。
ゲボラァ!
いっそ殺してくれぇええ!!
「でも、お菓子とかの方がやっぱりいいのかしら?」
三つのモノを手に取り、悩むイリス様。
既に俺のメンタルはボロボロ。
「あなたはどう思う?」
イリス様に問いかけられる。
メンタルはボロボロだ。でも、その質問には答えないといけない。
「白銀さんが良いと思うものにするべきだと思う……。白銀さんの話を聞く限り、そいつはバカだけどいい奴なんだろ。なら、きっと白銀さんが真剣に考えて選んだものなら何でも喜ぶに決まっている」
俺の言葉を聞いたイリス様はハッとしたような表情を浮かべる。
どうやら自分で気付いてくれたらしい。
プレゼントにおいて最も大切なものは真心ということに。
もう俺は必要ないな。
俺はクールに去るとしよう。
イリス様に背を向け、歩き出す。
「善道君。ありがとう」
その俺の背中に、イリス様が感謝の言葉を送る。その言葉に、クールな俺は片手を挙げて答えた。
だが、その顔は涙と鼻水でびしょびしょだった。
ひっぐ……。
泣いてなんかないから……! クールな俺は、泣いたりなんてしないから!
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