第52話 師匠の行方 


「うん。マルクが追放された後、代わりにルドガーが入って来たんだ! キミの師匠だって知った時にはびっくりしたけどね」


マルクの問いかけに、頷きながら答えるリタ。


「そうだったんですか。――それじゃあ、今師匠は勇者パーティに居るってことですか?」

「違うよ。ルドガー、散々パーティを引っ掻き回してボクと一緒に抜けたから!」

「師匠……お願いですからもう大人しくしててください……!」


 ルドガーのあまりに無計画な行動を聞かされたマルクは、頭を抱えた。


 しかしその後、はっとした様子で続ける。


「で、でも、どこにも師匠の姿が見当たりませんよ……? 一体どこに……?」


 マルクは冒険者ギルドの中を見回しながら言った。


「あー……うん、それはね……色々と事情があって……」


 リタは苦笑いしながら、今まで起きたことを話し始める。


「……ルドガー、一応マルクのためにお金を稼ごうとはしてたんだけど、いきなり『カジノで一発当てる!』とか言いだして……」

「……すでに嫌な予感しかしません」

「うん……マルクの予想通り、大負けして持ってたお金が全部なくなって、おまけに借金背負って……今バニーガールの格好してカジノで働かされてる」

「ししょー…………」


 マルクは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「どうして……どうしていつもそうなっちゃうんですか……?!」

「ルドガーが師匠だなんて……マルク、きっと今まですごく苦労してきたんだね……」


 リタは同情し、マルクの頭を優しくなでる。


「でも、ボクが居るからもう大丈夫だよ!」

「あ、ありがとうございます。リタお姉ちゃん」


 そのやり取りを見て対抗心を燃やしたのか、ライムは突然マルクに近づいていき、腕にしがみついた。


「むぅー!」

「どうしたんですか……?」


 『マルクに気安く触らないで!』という視線を、リタに対して送るライム。


「……あれ、キミは?」


 しかし、リタにはあまり効果がなかったらしい。


「わたし、ライムちゃん。マルクの…………ともだち!」

「そっかー! かわいいねー、よーしよしよし」

「むぐぐ……!」


 リタに頭をなでられたライムは、顔を赤くして黙り込む。どうやら、あっさり手懐けられてしまったようだ。


「それで、マルクはどうして冒険者ギルドに来たの? ……まさか、ボクに会うために……!」

「ちがいます」

「そう……」


 きっぱりと否定されたリタは、少しだけ落ち込んだ。


「実は、とある事情で報酬が沢山手に入ったのでそれを受け取りに来たんです」

「――じゃあ、もしかしてあれの受取人ってマルクだったの?」

「あれって何ですか?」

「金貨十万枚の賞金だよ。今はギルドの奥に保管してあるんだ!」

「…………! はい、そうです!」

「やっぱり! 金貨十万枚ならこの奥に用意されてるよ! ボクは、悪い奴らに奪われないように護衛をしてたんだ! ……でもまさか、マルクが受取人だったなんてね」


 リタの話をまとめると、彼女はここで多額の賞金を守る用心棒として、受取人が来るまで待機していたらしい。


「やりましたねマルクさん! これでまた一歩、目標達成に近づきました!」


 クラリスは、マルクの手を取って喜ぶ。


「……でも、一体何をしたらあんなに多額の賞金が入るの? 受付嬢の人に聞いても、部外者だからって教えてくれなかったんだけど」

「それは……かくかくしかじかで……」


 マルクは、これまでの経緯を全てリタに話した。


「ゴルドムが……子ども達をさらって……おまけにマルクにまで酷いことしてたの?! アイツ……どこまでクズなんだよ……ッ!」


 ゴルドムの行っていた悪事について知り、憤慨するリタ。


「お、落ち着いてリタお姉ちゃん。僕は大丈夫ですから」

「くっ……! あの時、変な情けをかけずにちゃんと息の根を止めておくべきだった……!」

「物騒なこと言わないでください……」

「……もし今度会ったら潰してやる!」


 マルクに宥められてもなお、リタの怒りは収まらなかった。


「――ところで、一つ聞きたいことがあるのだけれど」


 その時、唐突にカーミラが口をはさむ。


「うん? どうかしたの?」

「さっきからあなたが話しているルドガーって、もしかして<星呼び>のルドガーのことかしら?」

「……そうだよ」

「あぁ……やっぱりそうなのね……」


 カーミラは、頭を押さえながら続けた。


「つまり、マルクちゃんの師匠っていうのは……まさか、こんなところで繋がるだなんて……」

「ルドガーのこと知ってるの?」

「知ってるも何も……アタシ、あれと同じ魔法学校に通ってたの……」


 そう話すカーミラは、とても苦々しい顔をしていた。


「――思い出したわ、この国に来た理由。……今まで、マルクちゃんに気を取られてすっかり忘れていたけれど」

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