第49話 感謝

「いちまんまい……? じゅうまん……? え……? え…………?」

「い、いけません! 一気に説明されたせいでマルクさんの理解が追いついていないみたいです。顔がとろけています!」

「だって……たいきんですよ……? あれ、ちがうのかな……? ……じゅうまんって、なんだっけ……?」


 虚空を見つめながら放心状態で呟くマルク。


「……これはこれで可愛いし、別にこのままでも良いんじゃないかしら」

「何を言ってるんですかあなたはッ! ――確かにそうかもしれませんけど」

「マルク、ライムちゃんみたい!」


 その様子を見て、三者三様の意見を述べる一同。


「もう……何が何だかわかりません……」


 マルクは、目をぐるぐると回しながらそう言った。


「大丈夫ですよ、落ち着いてくださいマルクさん。あなたは目的を達成したんです」


 クラリスはさりげなくマルクのそばへ近寄り、背中をさする。


「それじゃあ、これでお姉ちゃんを治すための薬が買えるってことですか……?」

「ええ、その通りよマルクちゃん」

「そうですか……僕は……ついにやったんですね……!」


 カーミラの言葉に、マルクは涙ぐんだ。


「それもこれも、全部皆さんのおかげです。本当にありがとうございます! クラリスさん、カーミラさん、ライム……!」

「正直なところ、ワタクシは……礼をされるほどお役に立てていない気がしますけどね……」

「……僕がこうして生きているのも、皆さんが助けてくれたおかげなんです」


マルクはクラリスの手をぎゅっと握りしめた。


「へっ!? ま、マルクさん!?」

「……だからそんなこと言わないでください。クラリスさん!」

「はぅぅっ!?」


 不意打ちを食らったクラリスはよろめきながら後ろへ二、三歩下がり、感激のあまり涙を流す。


「マルクさんのおててが……ワタクシの手を……! おまけに感謝の言葉まで……! ――もはや思い残すことはありません、ここで死んでもいいですっ!」


 よくわからない反応に、マルクは苦笑いした。


「……僕はクラリスさんが死んじゃったらすごく悲しいです。だから、絶対に死なないでくださいね」

「ああ、天使が……ワタクシに微笑みかけています……っ!」


 クラリスは最後にそう言い残したきり、ベッドに倒れ込んで動かなくなった。


「……あ、あれ? 大丈夫ですかクラリスさん?」

「まったく、それは反則よマルクちゃん。聖女様には刺激が強すぎるわ」

「反則って言われても……意味がよく分からないです……。――それより、カーミラさんも、本当にありがとうございました。すごく感謝してます!」


 マルクは、クラリスと同じようにカーミラの手も握りながら、感謝の言葉を述べる。


「――――ッ!?」


 あまりに突然味わった両手の温もりに耐えきれず、カーミラは立ったまま気絶した。


「カーミラさん? …………もしかして、お礼を言われて恥ずかしがってるんですか? カーミラさんって意外と照れ屋さんなんですね!」

「あ――――――――」


 マルクの追撃によって、とどめの一撃をさされたカーミラは、心臓を停止させる。


 こうしてクラリスとカーミラは、二人ともマルクに落とされたのだった。


「マルク、つよすぎ」


 その様子をじっと眺めていたライムは、ぼそりとそう呟く。


「……そんなことありません、僕なんてまだまだですよライム。僕にもっと力があれば……今回の件で皆さんに迷惑をかけることもありませんでしたから……」


 それに対し、自らの力不足を嘆くマルク。


「マルク、にぶすぎ」


 ライムは、再びぼそりと呟いた。


「それは……どういう意味でしょうか……? みんな揃って、僕にわからない話をしないでください」


 少しだけ不服そうな顔をしながら、マルクはゆっくりとライムに近づいて行く。


「…………! ら、ライムちゃんのことまで、手にかけるつもり……! マルクのえっち……!」

「人聞きの悪いこと言わないでください。僕はただ、ライムにもお礼が言いたいだけですよ」

「お、おれい……? ――――んっ」


 マルクは、ライムのことをゆっくりと抱きしめる。


「心配かけてごめんなさい。僕……ライムがあんなに強くて頑張り屋さんだったなんて、知りませんでした。……本当に、ありがとうございます」

「はわ、はわあわあわ……っ!」


 身動きが取れず、顔を真っ赤にしながら手をわさわさと動かすライム。


「僕、ライムのこと、大好きです」


 それは、どちらかと言えば家族愛的な意味合いが強かったが、ライムはそれどころではなかった。


「ぴきーーーーーーっ!」

「い、いきなりどうしたんですかライム?!」


 こうして、三人ともマルクの毒牙にかかってしまったのである。

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