第37話 タフガイ
「自業自得……ってことでいいですよね……」
マルクは、生気を失ったゴルドムの顔を覗き込みながらそう呟く。
「はやくにげよう、マルク」
「そ、そうですね。――皆さん、もう出てきても大丈夫ですよ!」
マルクの呼びかけに応じて、姿を隠していた子供たちが再び集まってくる。
「お兄ちゃん……やったの?」
「はい。悪い人はライムがやっつけてくれました」
「お姉ちゃんすごい!」「ししょーとよばせてください!」
子供たちはライムの周りにあつまってわいわいと喜ぶ。
「とにかく、皆さん急いでください。のんきにしていると、また悪い人が目を覚ましちゃうかもしれません!」
マルクは倒れているゴルドムのことを指さしながら、子どもたちにそう言った。
「――ライムはみんなのことを誘導してあげてください。僕は逃げ遅れた子がいないか探してきます」
「うん、まかせて!」
こうして、ライムの誘導の元、子どもたちは階段を上り始め、アジトを脱出していく。
マルクは、手早く通路脇にある部屋を見て回り、逃げ遅れた子供がいないか確認する。
「大丈夫そうですね……」
両脇の部屋を一通り見終わり、ライムの元へ戻ろうとしたその時だった。
「ぐすっ……ひっく……!」
ついさっきまで自分が確認していた物置部屋の中から、突然少女のすすり泣くような声が聞こえてきたのである。
「――誰かいるんですか?」
不思議に思ったマルクは、再び部屋の扉を開けてそう問いかける。
すると、置いてあった木箱の中から一人の少女が姿を現した。
「おにいちゃん……」
「そんなところに隠れていたんですか、あやうく置いていっちゃうところでした。……気付けてよかったです!」
「こわかった……こわかったよお……っ! うえええええええん!」
少女は泣きながら、マルクに駆け寄り抱き着く。
「もう大丈夫ですよ。悪い人はライム――お姉ちゃんがやっつけてくれました!」
「ほんとぉ……?」
「はい! …………一撃のもとに。だから一緒にここから逃げましょう!」
「…………うん」
そう返事をして、マルクの手を握る少女。
こうして、マルクは逃げ遅れた少女を連れてライムの元へと戻った。
「――マルク! みんなにげおわった!」
「ありがとうございますライム。後は僕たちとこの子だけですね」
「……………………ほおー」
ライムは、マルクの腕にぴったりとくっついている少女のことを見て、複雑そうな顔をする。
「どうかしましたか?」
「う、ううん、なんでもない。はやくにげよう。――――あなたも、もうちょっとだけがんばって!」
ライムに励まされた少女は、涙を拭ってこくりと頷いた。
「それじゃあ、行きましょ「Kill you!!!!!!!!!!!!!!」
なんと、いつの間にか目覚めていたゴルドムが、三人の背後に迫っていたのだ。
「きゃああああああああああああっ!」
ゴルドムは太い腕を伸ばし、悲鳴を上げている少女へ掴みかかろうとする。
「――プロテクトシールドッ!」
マルクは振り向きざまに魔法で障壁を展開し、それを防いだ。
「F**k you!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しかし、ゴルドムの攻撃はそれで終わらない。
全力で体当たりして障壁を破壊し、強引に突破する。
「Go to hell!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、一番近くに居た少女へ殴りかかった。
「クソガキがああああああああああああああああああああ!」
「――――っ!」
マルクはとっさに少女を後ろへ引っ張り、自らが身代わりになる。
しかし、魔法の詠唱が間に合わずゴルドムの攻撃を直に喰らってしまった。
腹部にゴルドムの拳が入り、マルクの体がふわりと宙に浮く。
「ごほぉッ!?」
口から血を吐き出し、今まで経験したことのないような痛みがマルクを襲った。
「おにいちゃん!」「マルクっ!」
しかし、ゴルドムの攻撃はそれで終わらない。
膝をついたマルクの頭を鷲づかみにし、壁へ叩きつける。
「がぁッ! げほっ、げほっ!」
「死ねぇ……死ね死ね死ね死ね死にやがれぇえええ!」
そして、そのまま両手で首を締め上げた。
「う……ぐっ……!」
マルクは、苦しさのあまり手足をじたばたとさせてもがく。
「マナ……ドレインっ!」
とっさに両手でゴルドムの腕を掴み、反撃に転じる。
その時、マルクはゴルドムの持つ魔力が明らかに異質であることを感じ取った。
「――――――?!」
「ぐおおおおおおおおおッ!?」
苦痛から、マルクのことを手放すゴルドム。
「ファイアーボールッ!」
マルクは間髪入れずに魔法を放ち、ゴルドムの顔面に直撃させた。
「ぐあああああああああああああ!? あづいあづいあづいッ!」
ゴルドム、熱さのあまりのたうち回る。
「まるくぅっ!」
ライムは、涙目になりながらマルクに駆け寄った。
「しっかりして! マルク……血が……! ライムちゃんどうすればいい!?」
「逃げてくださいっ!」
ゆっくりと起き上がりながらそう告げるマルク。
「え……?」
「……外まで……走ってっ!」
「でも……!」
「助けを……呼んできてくださいっ!」
マルクは、壁に手をつきよろめきながらそう言った。
「この人……魔人化しています……このままだと、町が危ないんですっ!」
「ら、ライムちゃんもたたかうっ!」
「お願いです……ライム。僕の言うことを聞いて……」
身につけていた魔力制御用の手袋を外した後、マルクは続ける。
「――このままだと、巻き込んでしまうかもしれませんから」
「…………!」
ライムは、マルクの周囲に圧倒的な量の魔力が渦巻いているのを感じとった。
「――ごめんね、マルク」
「お、おねえちゃん?!」
「ライムちゃんがいても、じゃまになるだけ……」
ライムは、小さな声でそう言うと、少女を抱き抱えてその場から走り去った。
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