4-10

 静かに眠ろうとする街中に、足音だけが響く。

 あの頃と比べると動きは軽快ではなく、体力も落ちてしまっているので鳥居に辿り着く前からもう息が上がってしまっている。

 それでも、会いたいという気持ちだけが私を前へと走らせていた。

 かつての通学路を半分ほど戻れば、待ち合わせ場所の神社への入り口が今も変わらずに来る者を迎え入れている。

 そこへ迷うことなく駆け込み、参道を一息に駆け上がっていた。



 あの境内に行けば、きっと待ってくれている。

 早く会って、忘れてしまったことを謝りたい。

 それから再会を喜んで、卒業してからのことを話したい。

 社会人になって良かったことも、悪かったことも、全部聞いてほしい。


 あの時の告白の返事だって、ちゃんと受け止めてほしい。



 沸き上がる期待だけを胸に、まとわりつく汗も気にせず時々ぶつかってくる虫すら目も暮れず張りつめた足を無理やり持ち上げながら石段を登っていく。

 痺れそうになる身体を必死に抑えながら上がる先には、今も悠然とした佇まいで二頭の狛犬が参拝客を待っていた。



 そこから見える光景はあの時の夢と同じで、時間が止まってしまっているかのように全てが変わることなくそこに存在している。

 唯一違うとすれば、季節の関係上桜はまだ咲いていないことと——そこにコハルの姿はないことだった。


 いつも待ってくれるこの場所で、あなたがいない。

 夜遅いだとか、連絡を入れていないからだとか、そんな単純なことじゃない。

 ここにある情景が、全てを物語っている。



 私の大切な人は、もうこの世の何処にもいない。

 思い出だけを残して。





 突きつけられる現実に虚無感に襲われ、それでも身体は境内の奥へと足を進める。

 何も見えない中を歩いていると、この神社で一番の象徴であるご神木が暗闇の奥から現れ、私の行く手を阻むかのようにその巨体を大地に座らせていた。

 何百年という時間を刻んできたことを示すようにある幹は大きく、力強く地中へと根を張る様はこの付近でもそう見かけることのないもので、その名に相応しい雄大さを漂わせていた。

 ご神木がはっきりと分かる距離まで近寄るけれど、やはりどこにも人の姿は何処にもなく、私は何かを発する力もなく地面に手をつきへたりこんでいた。



 あの時、こっちにいる選択をしていれば……。

 夢を追わず、ずっとコハルのそばにいてあげたら……。



 あの時間に帰れるのなら、今すぐに戻ってもう一つの選択肢を選びたい。

 けれど、そんな都合の良い奇跡が簡単に起きるはずがなかった。

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