3-6
「じゃあ、一緒にいられるのはあと半年もないんだね」
困惑の表情を隠しきれないコハルの後ろでは、七色に光る花火が夜空を虚しく彩っている。彼女の言葉に、私の胸は余計に締め付けられるばかりだった。
「たまには帰ってくるし、連絡もするから」
落ち込む彼女に慰めの言葉をかけるが、その声も隣で打ち上がる破裂音で無慈悲に小さくなってしまう。
やがて、打ちひしがれていたコハルが俯いた顔をゆっくりと上げる。
「…………やっぱり、忘れられてしまうんだね」
そう呟く彼女は一瞬落ち着いたかのように見えたが、顔は普段のにこやかなものからは程遠い無感情なものになり、瞳からは冷たさすら感じていた。
今まで聞いたことのない悲観的な台詞に背筋が張り詰め、優しい雰囲気からかけ離れた姿の親友に思わず身震いしそうになる。
「そんなことないよ。離れていたって、私達は友達なんだから」
その空気に負けないように、気丈に振る舞って彼女を励ます。
そんなコハルは、落ち込んでいるというよりも何処か達観しているように遠くを見つめ、それが私の動揺を大きくさせていた。
「……みんな、そう言うんだよね。忘れないから、心はすぐ側にいるからって。でも、時間が経つとどんどん離れてしまって、姿すら見せてくれなくなって。お母さんもお父さんも、最近は会いにすら来てくれなくて」
言葉の節々に妙な違和感を覚えてしまうものの、初めてみる彼女の負の感情に返す言葉を失っていく。
コハルの過去に何があったのか、一緒に住んでいるご両親とどういった関係になっているのか、疑問は尽きないけれど真っ直ぐ貫く視線が私の憂う気持ちを口から出すことを封じ込めていた。
「……ねぇミノリは、小学校を卒業した子と今も連絡を取り合ってる?」
突然の質問に、けれど本質を突いたような問いが胸の奥底にまで響き心臓を抉ってくる。
「それは……」
多少しどろもどろになって、そのまま声が萎んでしまい再び沈黙が流れてしまう。
ここで素直に『連絡してるよ』と言えないのが悔しい。
けれど、ここでコハルに嘘をついたのでは意味がない。
夏の終わりと一緒に消えてしまいそうな彼女との関係を、どう繋ぎ止めれば良いのか。
なんて声をかけたらいいのか分からないまま、背景の花火はいよいよフィナーレを迎えようとしていた。
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