2-6
「ところで、進路はどうするの?」
コハルについてあれこれ考えていると急に声をかけられ、隣から一時間も経たないうちに二度も訊ねられた台詞を聞かされてしまう。
今日のことは思い出さないように封殺していたのだが、早速話題を蒸し返されてしまい胸がチクチクしていた。
「それ聞き飽きたよぉ……。そういうコハルはどうするの?」
話題を逸らすために質問で返すと、苦笑いをしていたコハルは顎に手を当てて考える素振りをして、それから茜色の空を一度見上げてから話してくれた。
「まだ決めた訳じゃないけれど、すぐ近くの高校か隣町の学校にしようかで迷ってるんだ。どっちも学力としては足りているから、両方受けても問題ないとは言われたよ」
「じゃあ、今よりちょっと遠くなるぐらいでそんなに変わることはないんだね」
しっかりしているコハルらしい進路に、感心して思わず息が漏れ出る。
高校のことを話しているコハルの目には、期待の二文字が宿っていた。
「それで。ミノリは進路どうするの?」
そのまま押し切って有耶無耶にしようとしていた矢先に、再度同じ質問を返されてしまう。
さっきの意図に気づいているのか、今度ははっきりとした口調と大きい声で聞き逃さないようにこっちを向き、しっかりと捉えた上でもう一度訊ねていた。
「…………実は、まだ決まってなくて」
言い淀んだ末に観念して、冗談交じりに笑ってそう答える。
目の前にいるコハルは、心底呆れた表情をしていた。
「せめてどの辺りに進みたいとか、絞り込みぐらいはしてるんだよね」
「…………全然」
せめてもの頼みとして聞かれたことも全くしておらず、親友は言葉すら失っていた。
「……あれだけ今学期末までには決めなさいって言われてたのに」
ふくれっ面で咎めてくるコハルに返す言葉はなく、笑って誤魔化してみるがそんなことで機嫌が良くなることは当然なくて、静かにだけど怒っているのが目に見えて分かっていた。
「ごめん。先のことだから漠然としてるし、いまいち想像もつかなくて」
「気持ちは分かるけど、もう少しで中学校も終わるんだから真剣に考えないと駄目だよ。環境は変わらないかもしれないけど、そろそろ先のことも見ていかないといけないんだから」
「善処します……」
難しいことを後回しにしてきたことが仇となってしまい、コハルに不安感を与えて心配させてしまっている。そんなつもりはなかったと顔が映る度に口にしたかったが、既に後の祭りなので言いだすことは叶いそうになかった。
不要な心配をさせたことにしょんぼりしていると、小さな息が聞こえて離れていた手を取って胸の前にまで掲げる。
「何か迷ったり悩んだりしてるんだったら、ちゃんと相談してよ。出来ることなら力になるから」
「……ありがとう」
私の手を両手で包み、慈愛に溢れる笑顔で優しく接してくれるコハルに嬉しさと申し訳なさが入り混じり上手く返せなくなる。それでも、心は幾分か落ち着きを取り戻していた。
「さぁ、この話はこれでおしまい。そろそろ帰ろう」
「そう言ってくれると助かるよ」
「もう。都合が良いんだから」
話が終わらせてくれるや否や、すぐにけろっとして足踏みをし始める。
調子の良い態度にコハルの顔がまた呆れているのを示しているが、次第に何だか可笑しくなってきて最後は二人揃って笑いながら帰路へと着いていた。
コハルの言う通り、先のことを見ていかないといけないのは本当のことで、悠長に構えていられる時間はもう残されていないことも薄々勘付いてはいる。
人生の大きな選択をこんな短い間に迫られることが、理不尽に思えてしまい近づいてくる現実に目を背けたくなってしまう。
それでも、私と一緒にいてくれていつも優しくしてくれる親友には伝えておかなければならないことが、先延ばしには出来ないことがあった。
一緒に居られる時間が、短くなっていることを。
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