1-3

 しばらく道なりに進んでいくと、山の傾斜に沿うように建つ校舎が姿を現す。その場所こそが私たちが新たに通う中学校で、町内では随一の規模を誇っていた。

 目の前には新一年生たちが止むことのない桜吹雪に祝われ、その先には新しい生活の場所が待ち構えている。

 それらが並ぶ瞬間に閃きを感じ、列から外れて遠のいていく。

 十分距離を取ったところでこっそり鞄に忍ばせていたカメラを取り出し、手早く一枚撮って仕舞う。式の案内に不要物の持ち込みは禁止となっているけど、こういったチャンスを撮り逃したくなくてこっそりと入れておいていた。

 誰かに見られたりしないかと緊張しながら見回して、通学路に戻ろうと歩き始める。

 

「何してたの?」


 背後からいきなり声がかかり、心臓が飛び出そうなぐらいに驚いて一気に振り返る。そこには、私より身長が高く黒い髪を後ろで一つに纏めてポニーテールにしている同じ制服を着た女の子が好奇心の視線を向けていた。

 

「写真撮ってたみたいだけど、何か映ってた?」

「え?! えっと……」


 どうやらさっきまでの行動のほとんどを見られていたようで、余計に返事に困ってしまう。何とか誤魔化そうと都合の良い言葉を探すが、下手なことを言えばすぐにバレてしまうので意味がなかった。


「実は……」


 時間が経てば経つほどに興味に満ち溢れた純粋な瞳が直視出来ず、隠そうとすることに私の心に罪悪感が芽生えてきそうになる。それには流石に耐えれそうにないので、今までの経緯を簡潔に伝える。

 相手の子は私の話に相槌を打って頷き、時々感嘆な声を上げていた。


「そうだったんだ」

「あくまで趣味でやってることだけどね」

「でも、そういうのがあるのって羨ましいな」


 姿をみた時は驚いたけれど、気さくに話してくれる彼女に親近感が次第に湧いてきて、慌てていた気持ちも大分落ち着きだしていた。

 少し打ち解けてきて雰囲気も少し和やかになってきたところに、学校のある方角からチャイムが鳴り響く。おそらく定刻を知らせるものなのだろうけど、それは私たちに入学式が始まるまでの時間が迫っていることも意味していた。


「そろそろ行かないとだね」


 確かめるようにそう呟くと、彼女は隣に立ちにっこりと微笑んでくる。


「じゃあ、一緒に行こうよ」


 いきなりの誘いで一瞬耳を疑ったけれど、その子は私に純粋な好意を向けてくれていた。

 会ってまだ間がないないのにこれだけ近い距離にいてくれることに不快感はなく、むしろ心地良さすらあり彼女の優しさが初めての場所に行く今の私には嬉しかった。


「私、桜庭 ミノリ。これからよろしく」

「私は吉田 ケイ。こっちこそよろしくね」


 進学して初めて出来た友達と一緒に、中学校までの道筋に戻っていく。

 祝福の花吹雪は勢いを増していき、私の住む街を春一色へと染め上げていた。

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