それぞれの考え方

「もう終わりかしら?」

「まだ……、です……!」

 全員揃ってから一週間経った、午後の事。

全員修行の場に出ていて、各々修行に明け暮れていた。

「体力が無いようだけど?」

「まだ……、いけます……!」

 ディンと蓮が修行場に出てくると、まず目に留まったのはリリエルと清華だった。

 息を切らし、体を曲げながら呼吸を整えようとしている清華と、それを見ているリリエル。

攻撃を悉く避けられ、疲弊している様子だった。

「やあぁ!」

 何とか呼吸を整え、リリエルに突撃する清華。

やや単調ではあるが様々な攻撃を織り交ぜ、リリエルに本気で切りかかる。

 しかし、それをひらひらと舞う蝶の様に躱し続けるリリエル。

 当たる所か、掠りすらしない事に焦る清華。

一、二分程度時間が経過すると、焦りが攻撃を単調にさせ、剣道の型でしか攻撃を繰り出せなくなってきた。

「そこまでね。」

「……!」

 リリエルがすっと清華の懐に潜り込み、手刀を首筋に当てる。

清華は動きを止め、悔しそうに刃を収めた。

「まあ、最初よりは良くなってきてるかしら。」

「はぁ……、はぁ……。」

 その場にしゃがみ込み、ぐったりとする清華。

余程絞られたのだろうと、ディンはそう察した。

「ありゃりゃ。リリエルさん、やりすぎじゃないか?」

「そうかしら?これくらいしないと、間に合わないでしょ?」

「それもそうか。」


 次に目を向けたのはウォルフと修平だ。

 徒手空拳で戦っている二人、修平は風の魔力を何とか使おうとしている様だ。

時折風が吹き荒れ、それをウォルフが易々と回避している。

「せいやぁ!」

「まだまだだな。」

 渾身の一撃に風の魔力を乗せ、拳を振りぬく修平。

だが、ウォルフはそれを予期していたのか、軽々と避けてしまう。

「脇が甘いな。」

「なっ!」

 そして修平の懐に潜り込み、振りぬいた腕を掴み放り投げる。

「うわぁ!」

 ドサっという音と共に修平が地面に尻をつき、腰を打つ。

「ってて……。」

「ここらで一服でもするか?」

「まだまだ!」

 今度はかかと落としを繰り出す修平、しかしそれは避けられてしまう。

「そこだ!」

 かかと落としをした右足を軸に、体を回転させながら左足でハイキックを繰り出す。

「中々やるようになったじゃないか。」

 ウォルフは繰り出された左足を軽く掴み、引っ張る。

「わぁ!」

 片足を軸にしていた為、軸が不安定になりそれに思い切り引っ張られる修平。

よろけつつ何とかバランスを取り、今度はこけずに済む。

「まだです!」

「ほぅ?」

 バランスを取り直し、今度は後ろ回し蹴りに風の魔力を織り交ぜる。

砂埃があたりを舞い、ウォルフの視界をくらませる、が。

 しかし、ウォルフは流れでバク転し簡単に避ける。

「くっそぉ!」

「まあ上達はしている、そう焦ることもないだろう。」

 修平が一旦攻撃の手を止めた事を確認すると、ウォルフは楽な姿勢を取り、煙草を取り出し火を点ける。

 修平は今度こそと構えるが、一旦終わりだという雰囲気だ。


「やってるねぇ。」

 ディンが次に目を向けたのは、セレンと俊平だ。

「せい……!」

「てやぁ!」

 二人は互角の戦いをしていた。

非戦闘員であるセレンの本気と今の俊平の本気、それが拮抗している様子だった。

『ニトロバーン!』

 俊平が爆発の魔力を放ち、セレンはそれを後ろに回避した。

ニトロバーンは初級魔法に位置する魔法で、火属性に属する魔力さえあれば誰でも使えるというレベルだ。

 しかし、まだ俊平はそれ一発を繰り出すのに集中力を要する。

「甘いぞ!」

 そこにセレンが切りかかってくる。

ガキン!と刃と刃がぶつかり合い、白に赤を混ぜた火花が散る。

「っつ……!」

 魔力を使い消耗してきたのか、俊平がやや押され気味だ。

セレンが脇差を振りぬくと、それに負け後ろに飛ばされる。

「くっそ!」

 それを持ち前のフットワークで態勢を立て直し、構える。

 修行を始める前では考えられない程、俊平は成長していた。

修行を始めた頃だったら、もう心が折れて構えられなかっただろう。

「やるじゃねぇか。」

 それだけ覚悟が決まったと言う事か、セレンはその成長を喜ぶ。

「まだまだぁ!」

 今度は俊平から攻めにかかる。

勾玉の力でブーストされた力を存分に発揮し、一気に詰め寄る。

 そして薙ぐように刀を振るい、セレンの腹を狙う。

「っとアブね!」

 それをセレンは間一髪の所でガードする。

二人の実力がいかに拮抗しているかが、良く伺える戦いだ。


「お兄ちゃん、竜太君達も凄いよ?」

 そこに蓮が声をかけて来る。

そちらを見やると、竜太に翻弄されている大地の姿があった。

 竜太のスピードになんとか食らいつこうとしている大地だが、しかしパワー型である為か攻撃が当たらない。

 空振りしては地面を抉り、大地の周りは小さな穴が沢山空いている。

「大地さん、点じゃなくて線で捉えないと。僕には当たりませんよ?」

「わかって、おる……!」

 大地のすぐ近くに着地した竜太が、トンファーを振るう。

大地はなんとかという反応速度でそれを防ぎ、攻撃に転じようとするが、やはり当たらない。

「くぅ……!」

「こっちです!」

 続けざまに竜太が攻撃を繰り出し、大地はそれをギリギリのところで防ぐ。

しかし竜太が消えたかと思うと、反対側から攻撃を繰り出していた。

「くっ……!」

 気配をギリギリのところで察した大地がそれを防ごうとする、が。

一歩遅く、竜太のトンファーが大地の腹の直前で止まる。

「ふぅ、大地さんの動きもだいぶ早くなってきましたね!」

「そ、そうか……?」

「はい!最初に比べたら段違いですよ!勾玉の力もうまく引き出せてるみたいだし、これなら一か月で間に合いそうです。」

 竜太が大地を褒めると、高揚からか少し口元が緩む大地。

竜太相手にだけではあるが、少しずつコミュニケーションも取れる様になってきた。


「じゃあ蓮、俺達も始めようか。」

「うん!」

 そんな四組の修行を見ながら、ディンと蓮も修行を開始する。

「蓮、今日からは四属性の魔法剣を使える様になる為の修行だ。」

「四属性?」

「蓮が今使ってる雷咆斬は雷、他には氷属性の瓦解撃、風の翔破閃、火の爆塵波があるんだ。蓮にはそれを使える様になってもらうぞ。」

「わかった!」

 と言っても、どのような魔力を発現すればそれを使えるのかがわからない。

「まずは雷咆斬と似てる翔破閃からだな、これは雷の魔力を風に変えたものと考えてくれればいい。蓮、頭の中で風が吹き荒れるイメージをして、それを剣に流すんだ。」

「やってみるね!」

 そういうと蓮は目をつむり、剣を抜いて集中する。

ディンに言われた通り、風が吹き荒れるイメ―ジを頭の中に浮かべ、それを剣に投影する。

 すると、剣から微量の風が吹き始め、徐々に徐々にそれは大きくなっていく。

「わぁ、出来た!」

「まだだ、それを相手に向けてぶつけなきゃならない。今度はそれを鋭く、薄くするんだ。」

「うーん……。」

 再び集中する蓮、イメージしようとするが中々うまくいかない。

このままではただの風をぶつけるだけになってしまう、ディンはどう考えさせたものかと思案する。

「……。そうだ、剣だ。蓮、沢山の風の剣がそこにあると思うんだ。」

「剣……?」

「そうだ。沢山の剣が自分の周りにある、それは風によって形成されている。そうイメージ出来るか?」

「……。」

 沢山の剣が自分の周りにある、風でできた剣が。

そうイメージを固めると、蓮の周りの地面が少しずつ抉れ始める。

「そうだ、それを一気に押し出せ!」

「……、えい!」

 蓮が剣を前へ振るう。

すると、無数の真空の刃がディンに向け飛来し、荒れ狂う風があたりに埃を舞わせる。

「上出来だ!」

 ディンはそれを手刀でかき消しながら、蓮を褒める。

「やったー!」

 蓮は、初めての技を成功させられた喜びで飛び跳ね、はしゃぐ。

 ディンはそれを見ながら、これなら一か月で間に合いそうだと考えていた。


「はぁ、疲れた……。」

「俊平君、セレンさんと良い戦いしてたよね。」

「そうか?」

 外園邸の風呂場にて。

どうせだから一緒に入って来いと言われた男子組が、揃って湯船に浸かりながら話をしていた。

「俊平さん、早いもんね!」

「そ、そうかぁ?」

「……。」

 蓮が俊平を褒めると、俊平は嬉しそうにはにかむ。

 現状一番強い蓮に褒められる事は、例え年下だったとしても嬉しいようだ。

「修平さんも凄いよね!風の魔力をあんな風に使えるなんて!」

「そ、そうかなぁ?蓮君の方が強いと思うよ?」

 謙遜するが、しかし吝かではない様子の修平。

やはり、強くなっている実感というのは、他人に褒められて初めて感じる物だ。

「大地君はパワーが凄いよね、地面抉れてるし。」

「そうだな。大地はパワーファイターって感じだな。」

「……。」

 褒められるが、疲れているからか元々からなのか、あまり反応しない大地。

眉間に皺を寄せながら、湯船に浸かっている。

「大地君はあんまり喋らないんだね。」

「無口ってやつか。」

「……。」

「でも、竜太君とは良くおしゃべりしてるよ?」

 蓮が引っかかりを覚え、疑問を口にする。

 確かに、竜太相手には無口ではあるが喋っている。

なのに、何故自分達の前ではこうも黙っているか?と。

「……、儂は……。」

「お、喋った。」

「……。」

 何かを言おうとしたが、俊平に口を挟まれ途中でやめてしまう大地。

 修平がフォローを入れようと、口を出す。

「俊平君、多分大地君は口下手なんだよ。あんまり口挟んじゃうと、喋れないんじゃない?」

「……。」

「そっか、ごめんごめん。」

「……、いや……。」

 俊平が申し訳なさそうに手を合わせ、湯がぴちゃりと跳ねる。

 大地はそこまで気にしていないというのか、それとも言葉が見つからないのか、それだけしか言わなかった。

「大地さん、怖い顔してる……。」

「……、そんなことは……。」

 少し怯える蓮。

 眉間に皺を寄せている大男、それだけでも十分威圧感はある。

加えて糸目なのが、蓮の誤解を深めてしまっている様子だ。

「もっと笑顔で、ね!」

「……、うむ……。」

 意識して笑ったことなど生涯であったかなかったかの大地には、難しい注文の様だ。

不格好に笑おうとし、難しい顔に戻ってしまう。

 蓮を怖がらせたくは無いからか頑張るが、しかしそれも難しそうだ。

「すっげぇ顔してたぜ、今。」

「まあまあ、こういうのは練習いるから。」

「大地さん、怖くないよ!」

 思ったことを口にしてしまう俊平と、必死にというのも少しおかしな表現だが、フォローを入れる二人。

 大地の眉間の皺は更に深くなっていき、これは仲良くなるには時間がかかりそうだと三人は思ったのだった。


「それで、お話というのは?」

 場所は移り夕食後、四神の使い達だけが食堂に残っていた。

外園の淹れた紅茶を飲みつつ、話がしたいと修平が言い出したのだ。

「いや、俺達全然話も出来てなかったでしょ?これから一緒に戦うんだし、少し交流を持ってた方が良いと思うんだ。」

「成る程、それで私達だけでという事なのですね。蓮君はどうしました?」

「蓮は夜遅くなるかも知んねぇから先に寝かせた、ガキに夜更かしさせるもんじゃねぇからな。」

 成る程と頷く清華。

確かに、まだ11歳の蓮に夜更かしさせるのは宜しくはない。

「それで、清華ちゃんは剣道をやってたんだっけ?」

「ちゃん……。えぇはい、幼少より剣道を嗜んでおります。」

「俺は空手やってたんだ、小っちゃい頃から。」

 ちゃん付けされたことに若干イラっとしつつ、清華は答える。

修平は自己紹介のお返しだと、自分がやってきたことを伝えた。

「俺は忍者の家系、中二くらいからサボってたけど。」

「……。」

「大地君はお寺の家に生まれたんだよね?」

 さらっと答える俊平と、黙ったままの大地。

清華は大地はここまで無口なのかと、ある意味感心している。

「それで、これから一緒に戦う訳なんだけど……。」

「私は慣れ合うつもりはありません。戦いに勝ち、帰るだけです。」

「うっわマジかよ……、つれねぇなぁ。」

 つっけんどんな態度の清華に、思わず声を出す俊平。

仮にもこれから一緒に戦う仲間なのに、という感じだ。

「……。」

「こっちにもつるむ気がなさそうな奴がいたなそういや……。」

 大地の方を見やり、ため息をつく俊平。

 こんなパーティでやっていけるのだろうか、という不安ばかりが強くなっていく。

「つるむ?俊平さん、貴方そんな軽い気持ちでこの戦場にいるのですか?」

「いや、そういう訳じゃねぇって……。睨むなよ、委員長さん……。」

「私は委員長さんなどという名前ではありません!」

 清華が大声を上げながら立ち上がり、紅茶を残し去ってしまう。

「あーあ。俊平君、やっちゃったね。」

「俺、なんかわりぃこと言ったか……?」

「……、儂は部屋に戻る……。」

「あ、大地君!はぁ……、こんなんで大丈夫なのかなぁ?」

 不安げな声を上げる修平と、何をやらかしたのかわからないという風な俊平。

不穏そうな空気の中、二人は今後の戦いについて少し語ってから、それぞれ部屋に戻った。


「はぁ……。」

 ため息をつき、怒りに身を任せ部屋を退室したことを、少し悔やんでいる清華。

 廊下に月明りが差し込み、清華の深い青色の瞳を優しく照らす。

 委員長というのは、元居た世界で清華の真面目さを馬鹿にした男子達がつけたあだ名で、清華が忌み嫌っている名だった。

 俊平は深く考えずに発言しただけなのだろうが、しかし怒りを感じてしまう。

「私もまだまだ子供、ですね……。」

 世界存亡の危機の前に、そんなことで目くじらを立てていても仕方がない。

協力し、戦わなければならないというのはわかっている。

 が、どうしても俊平の口調や仕草がその男子達に被り、イライラしてしまう。

「考えても答えは出ませんね……。」

 もう一度深くため息をつき、清華は部屋に戻った。


「全く……。」

「どうしたの?お兄ちゃん。」

「いやなぁ、みんな仲良く出来ねえもんかなと思ってな。」

 同時刻、ディンと蓮の部屋にて。

寝る支度をしていた蓮は、ディンがため息をついたのを聞いて問いかけた。

 ディンは「飛眼」という魔法を使い、四人の会話を覗き見ていたのだが。

芳しくない雰囲気を見て、ため息をついたのだ。

「あ、みんなの事覗いてたんでしょ!」

「そうだよ、心配でな。」

 蓮はその飛眼の効果を聞いたことがあり、それを使っていたのだろうと察する。

「だめだよぉ?のぞき見はいけないんだよ!」

「わかってるよ、ごめんよ蓮。」

「僕じゃなくてみんなに謝らないと!」

「そうだな、ばれた時にでも謝るさ。」

 ハハと笑いながら、ディンは部屋を出ていこうとする。

「どこ行くの?」

「ちょっと、な。」

「遅くならないようにね?」

 蓮の後ろ髪引くような声に送られ、ディンは部屋を出ていった。


「お、集まってるな。」

「なんだよディン、用事って。」

「まあ待てよセレン。外園さん、紅茶貰える?」

「はい、少々お待ちを。」

 ディンが向かった先は茶室、指南役と外園が勢ぞろいしていた。

「さて、集まってもらったんだが。みんな、難儀だな。」

「難儀ってどういう事かしら?」

「仲良くなるのに時間がかかりそうって事だよ。」

 リリエルがいつもの勿体ぶりかと呆れていると、さらりと答えを出すディン。

「仲良くする必要があるのかしら?戦争でしょう?」

「そりゃ、仲が良いに越したことはないよ。一緒に戦う仲間なんだから、仲が悪いより良い方がね。」

「そうかしら。」

 常に一人で戦ってきたリリエルには、その重要さは理解出来ないといった感じだ。

「いや、リリエルちゃんよ。バディとしての相性というのは大切さ。」

「そういう事だ、それがあの子らは噛みあってない。これは由々しき事態だって訳だ。」

「それで、なんで俺らが呼ばれたんだ?」

 いまいち、ここに集められた理由がわからないという風なセレン。

 竜太は何か察したような顔をし、口を開いた。

「つまり、僕達が仲良くする手伝いをすればいいって事?」

「そういう事だ、みんなが仲介役になってほしいんだ。」

「無理ね、私人と関わる事なんてわからないもの。」

「まあそういわずに、さ。」

 つっけんどんなリリエルを宥めるディン、しかしまあ難しいだろうなと考える。

 確かにリリエルは戦場においては心強いが、しかし対人関係は難しいだろう。

逆にウォルフや竜太、外園は対人能力が高いから上手くいくだろう、とも。

「私は加わった方が宜しいので?」

「ああ、外園さんも頼むよ。」

 紅茶を運んできた外園が口をはさむ。

ディンは受け取った紅茶に砂糖とミルクを入れ、一口飲んでから話を続けた。

「まあ、焦っても仕方はない。ゆっくりやっていこう、気長にしてる暇は無いけどな。」

 そう締めくくり、ディンと竜太以外は解散した。


「父ちゃん、ちょっといい?」

「なんだ?」

 場に残った竜太が、ディンに向け問いかける。

「蓮君、なんで戦場に連れてきたの?デイン叔父さんの力を借りてるからだけじゃないんでしょ?」

「そうだなぁ……。竜太、一年前のあの出来事を覚えてるか?」

「一年前?」

「あぁ、デインが闇に飲み込まれたあの時だ。」

 竜太は思い出す、デインが闇に飲み込まれ巨大な蛇になった時のことを。

 それは、元居た世界では魔物が現れた最後の時であり、最後の戦いだった。

大量の魔物と竜神達と自分、ディンともう一人の戦士の戦い。

「それがどうかしたの?」

「もしも蓮にデインが与えた力が、あの時の再来を防ぐ為だとしたらどう思う?」

「どうって……。もしかして、蓮君の中の闇が溢れ出すって事?」

「そうだ。デインがそれを危惧して力を与えた、俺にそれを防いでほしいから。そう考えたら、ここにいる理由にもなるだろ?」

 確かにそうかもしれない、と竜太は考える。

 しかし、それならなぜ力を与えたのか?という疑問が残ってしまう。

「力を与えたのはきっと、きっかけを俺に教える為だったんだろうな。そうでもしなきゃ俺が動かない、そう思ったのかもしれない。」

「かもしれないって、デイン叔父さんからは何も聞いてないの?」

「聞いてないな。聞いても答えるとは思わなかったし、何より蓮の事はデインも知ってただろうから。放っておけなかった、きっとそうだと思う。」

 それは希望的観測に近い。

 もしも違う理由、例えばあの時の再来を防ぐ為だけだとしたら。

少し悲しいなと、ディンは考える。

「そっか……。わかった、じゃあ僕寝るね。」

「おう、お休み。」

 竜太は一人納得したように頷くと、茶室を出ていった。

残されたディンは紅茶を飲み干すと、蓮が待っているであろう部屋へと戻っていった。


 次の日。

 全員が揃っての朝食だったが、少し空気がギスギスしていた。

 それは、清華が昨日怒りを発した事により、俊平と修平が変に気を使ってしまっているからだ。

「あのー、清華ちゃん。」

「なんでしょう?」

「いや、その……。昨日はごめんね?」

「いえ、気にしておりませんので。」

 嘘だろう、事実として清華が纏っている空気はピリピリしている。

そういったものに基本鈍感な修平が、そう感じてしまうほどには。

 昨日委員長発言をしてしまった俊平は、申し訳なさそうに朝食のパンとサラダを食べている。

「まあそうギスギスしてても仕方が無いだろう、仲良くやってくれよ。」

「……、そう仰りますがディンさん。私達は戦いに来ているのでしょう?お友達ごっこをする為にここにいるわけでは無いはずです。」

「Umm、それもそうだが、バディとの相性というのは大事だぞ?清華ちゃんよ。」

 ディンとウォルフが空気を読まない体で横やりをいれるが、清華の気持ちに変化は見られなさそうだ。

 二人は少しため息をつき、朝食に戻る。

「あのさ……、この戦い終わったら、俺達帰れるんだよな……?」

「ああ、帰れるよ。無事に済めばの話だけどね。」

「そう、だよな……。」

 俊平がふとした疑問をディンにぶつけると、当たり前の回答が帰ってくる。

俊平は項垂れると、パンを口に放り込み、紅茶で流す。

「帰ったら、綾子にいっぱいお土産話出来るかなぁ。」

「修平さん、物見遊山では無いのですよ?」

「いやでもさ、旅は楽しまないと勿体ないと思わない、かな?」

 どうも、戦うために来ているという清華や大地と、いまいちまだ実感の湧いていない俊平や修平の中で溝が出来てしまっている様だ。

「まあまあ清華ちゃん、旅を楽しむってのは大事だぞ?俺も楽しまなきゃ損だと思ってるから。」

「それは貴方は神なのですから、私達人間とは感性が違うでしょう。」

「そういう事じゃないんだけどなぁ……。」

 ディンに対してもつっけんどんな態度を取る清華。

 これは難攻不落そうだなと、ディンは心の内でため息をつく。

 セレンに目線を投げるが、おいおい俺にも無理だよと顔に書いてある。

「僕は楽しみだけどなぁ、清華さんは楽しみじゃないの?」

「蓮君、私達は戦争を止める為にここに居るのよ?楽しめる状態ではないのですよ。」

 蓮がトマトを頬張りながら言うが、それでも清華の意見は変わらないらしい。

「そっかぁ……。」

 しょげる蓮、それを見て清華は少し心が揺れる。

こんな子供にがっかりされてしまうほど、頑なになってしまっていいのだろうか?と。

「……、わかりました。少し、楽しむ努力をしましょう。」

「ほんとぉ!?」

「えぇ、蓮君の気持ちを駄目にはしたくないわ。」

「やったぁ!」

 それを聞いて喜ぶ蓮と、ホッとする一行。

色々と画策はしていたが、結局蓮が言うのが一番早かったか、と。

「さ、早く飯食って修行行こうぜ。」

「それもそうだな。みんな、覚悟しておきなよ?」

 セレンが急かし、ディンがそれに賛成する。

 一行はそそくさと食事を済ませ、修行場へと出ていった。


「さて、今日は蓮との組み手をやって貰おうか。」

「マジかよ……。」

「ああ、そろそろ組み手で実力を図って、自分に何が足りないかを確認するべきだと思うからね。」

 俊平がいやそうな声を上げるが、しかしディンはそれを拒否。

 そんな調子だといつまでも上達しないぞと、それをオブラートに包んで話す。

「じゃあ俺!最初に行きたい!」

「お、修平君やる気だねぇ。」

「俺も頑張ってるからね!どれだけ成長したのか確かめたい!」

 まず最初に相対したのは、蓮と修平だ。

修平はグローブ、蓮は木刀を二本携えている。

「では、はじめ!」

 ディンの掛け声とほぼ同時に、二人は動いた。

二人揃って駆け出し接近する、その距離20メートル。

「えい!」

 5メートルを切った所で蓮が右手の木刀を振るい、修平に先手を仕掛ける。

「っとぉ!」

 それを見た修平は駆け寄ることを止め、後ろにバク転し回避する。

「今度はこっち!」

 蓮はそれを予期していた様に詰め寄り、左手の木刀を振るう。

「っ!」

 それを更にバク転し回避する修平。

「まだまだ行くよぉ!」

 蓮の攻撃は止まることを知らない様に見える。

次々に連撃を繰り出し、修平に攻撃する隙を与えない。

 回避するので精一杯だ、と修平は紙一重でそれを回避しながら思ってしまう。


「はぁ、はぁ。」

 たった二分の攻防、というよりも蓮の連撃。

それを回避している間に、修平は息を切らす。

 汗が頬を伝い、顎から落ちる。

「まだまだ行くよぉ?」

「まって……、ちょっと……、たんま……!」

「えー、もう終わりぃ?」

 ぜーぜーと息を切らし、その場に倒れ込む修平。

胸で息をしていて、もう一歩も動けないといった風だ。

「俊平君に足りないのは判断力だな、回避ばっかりしてたら攻撃出来ない。攻めに転じれないと、勝てないからね。」

「はぁ……、はぁ……、はい……。」

 何とか立ち上がり、修行場から退く修平。

 まだまだ呼吸は乱れたまま、修行場から離れるとドサっと尻もちをつき休憩する。

「次、誰が行く?」

「俊平、行って来いよ。」

「お、俺かよ!?」

「じゃあ俊平君、頑張れ。」

 行くしかない空気を作られてしまい、渋々修行場の中央に立つ俊平。

「次は俊平さんが相手だね!」

「手加減してくれよ……?」

「駄目だぞー。蓮、ちゃんと相手してあげろー。」

「うげぇ……。」

 俊平が恐る恐る言うが、外からセレンの野次が飛んでくる。

覚悟するしかない、そう考えながら俊平は木刀を握りしめる。

「いっくよぉ!」

 宣言と同時に、前へ跳ぶ蓮。

俊平は持ち前のフットワークの軽さと、動体視力でそれを目で追う。

「くっそ!」

 蓮が振り上げた右の木刀を防ぎ、払う。

そして払った木刀を返し、蓮へと攻撃を仕掛ける。

「あっぶなあい!」

 それを左手の木刀で防ぐ蓮、力としては俊平の方がやや上の様だ。

左手の木刀がはじかれたのを確認すると、一旦距離を取る。

「やられてばっかじゃ、ダセェ、よな!」

 自身の素早さを生かし、強襲を掛ける俊平。

袈裟に切りかかり、蓮を思い切り叩こうとする。

「負けないもん!」

 それを両手の木刀で受ける蓮、衝撃で少し後ろに下がる。

「それぇ!」

 両手に力を加え、俊平を跳ね返す蓮。

「うぉ!?」

 力では勝っていたと思っていた蓮に、力で跳ね返されたことに驚く俊平。

「こっちから行くよ!」

 連撃を繰り出す蓮、俊平は攻撃する暇もなく防御に徹するしか出来ない。

素早さを売りにしている俊平でさえ、攻撃する隙が無いのだ。

 修平よりは早い動きや反応力で対処しているが、しかし攻撃に転じるまでは行かない。

スタミナを奪われるばかりで、攻撃することが出来ない。


「そこまで!」

「はぁ、ふぅ。」

 一分半が経った。

一分半で、俊平の体力は尽きてしまった様だった。

「俊平君の課題はスタミナだな、素早さや反応力は及第点だ。後は無駄な動きが多い、そこを削っていかないといつまでも上達しないな。」

「ち、っくしょぉ……!」

 膝をつき、悔しそうに地面に手をつける俊平。

実力差があるのはわかっていたが、まさかこんなにも実力に差があるとは思わなかった。

 呼吸を乱しながら、悔し気に呻く。

「次のチャレンジャーは誰だ?」

「いや、このくらいでいいだろ。大地君と清華ちゃんはもう蓮と一戦交えてる、自分の足りない所はわかってるはずだ。」

「そうですねぇ、皆さん精進してください。」

 見物していたウォルフと外園が口を出し、ディンが止める。

 全員、今の実力では蓮に勝てないことは理解出来たはずだ。

ならばここからどうするか、それを見物という訳ではないが、見定めたい。

 そんな思惑が、ディンの中にはあった。

「これからどうするべきか、良く考えるんだ。自ずと、答えは見えてくるはずだよ。」

 四神の使い達を諭す様に、ディンは話す。

強くなれとそう言っている訳なのだが、しかし強くなるだけではだめだ。

 どう強くなるべきか、そこが重要なのだと。

「じゃあ、それぞれ今までの事を踏まえて修行開始だ。」

 ディンがそういうと、各々修行へと入っていった。

これからどうするべきなのか、それを考えながら。

「頑張ってくれよ?」

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