第16話 喜ぶ顔


 私の大きな声の後、お店の中はずっと音がしなかった。それは私が箱の中にあった物をじっと見つめていたからだった。

しばらくしておじいちゃんが


「ハハハ、お前がそんな風だったって話したら、きっと喜ぶだろう」

と言ったけれど、私はその声に答えることもしないで、箱の中身をじっと見つめていた。


「物を見て感動する」


という経験は、ないことはない。

欲しかったものがクリスマスのプレゼントだったり、誕生日にもらったりすることはあったけれど、考えれば、それが「感動か」と言われたら、ちがうように思う。


 箱の中身、それは指輪だった。


ふかふかとした中に入った指輪、そして指輪だけじゃない。入っていたのは、小さな小さなお皿、それはクッションに縦に埋もれていたけれど、何だかすぐにわかった。

私はまずはそのお皿から取り出して、そのお皿の上に指輪の置いた。なぜならそれは小さなカップついた指輪だったからだ。するとおじいちゃんはまた笑って


「ああ! これは想像通りだったな、まずは指輪をはめないでソーサーの上にくだろうって話していたんだよ」


「これ! このソーサーのカップだね! ああ!可愛いね! どうしたの? 本物を見つけてミニチュアをつくったの? 」


「いやいや、何でも息子さんがシール関係かんけいの仕事をなさっているそうでね、ソーサーのデザインを元にしてカップのがらを考えて、それをシールにしてっているそうだよ。何せこのカップを何度か使ってくれた人だから。これを作るために熱心熱心に写真を撮っていたのかな? 」


「じゃあ、このソーサーのカップがあったらいいのにって言っていた人はおしゃれ名人だったんだね」

「そうだよ、誰かまでは言っていなかったかな? 」


私はもう一度ソーサーとカップを見た。ソーサーはほんとうに「そのまま」だった。きっと写真で撮った物をそのまま小さくしてシールにしているのだろう。でも私は気が付いた。ソーサーの回りは金色のペンで細く塗っている、カップの飲み口もそうだ。だから


「ああ、このカップで「飲まないでくれ」って言われたよ。カップの縁は金色のマーカーを使っているそうでね」


「うん、わかった」


 指輪の先にあるとても小さなカップ、横にはあの薄い紫色の花があって、金色のマーカーの下にはソーサーと同じような木の葉と木の実がある。でも数は少ないような気がした。小さいためなのかもしれない。

私はゆっくりと指輪をはめてみた。そして気が付いた


「あれ? 陶器じゃないね」

「陶器みたいにみえるけれど、素材が違うらしい。これは内緒って言っていたよ。もう一人の息子さんの会社で開発中だそうでね」


 コーヒーカップの可愛い指輪。まあ、指輪だから本物のカップと違うのは持ち手の部分が真横に、水平になっていること。でもそれを除けば、本当にそっくりのミニチュアだ。カップは上が少し広くて下は少し狭まっている。そしてスカートのひだのような波打つ表面、ソーサーも本物そっくりで、そうなっている。しかもカップのためのちいさなくぼみもある。


「ああ! きっと喜ぶよ!! すごく喜ぶと思うよ!!! 」


「え? 誰が? 」

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