第9話 そして彼女は…

 気がつくと、彼の大きくて暖かい背中。子供の頃、追いかけたあのちっちゃな背中からは想像もつかないくらい。


 また、迷惑かけちゃった… 。ごめんね?ありがとう?大きくなったね?かける言葉が見つからない。


 でも、今はただこうしていたい。後輩の子には悪いけど、離したくない…!


 「ん?起きたのか。大丈夫か?」


 自然と彼につかまる腕に力が入っていた。


 「怒ってる?」


 ちがう、そんなことを聞きたいんじゃない…


 「ん?あー、自分の親くらいには連絡しろよな」


 なにそれ、あたしはあんたを振ったんだよ?それに今朝も馬鹿にしちゃったし...


 「うん、でもそうじゃなくて。あなたに。ごめんなさい…」


 やっと出た、ごめんなさいの言葉。でも、もう遅いよね…?


 「...怒ってるって?...なんだよ、別にお前は重くないぞ?」


 声のトーンが高い...? 誤魔化したつもりなのかな?


 でも、重くなくて安心した。


 なんか、バカバカしくなってきたなぁ。


 「ありがとう、でもそれってセクハラよ?」


 あ、いつもの調子でまた馬鹿にしちゃった…


 「そうそう、おれってセクハラで変人で甲斐性なしで…続きってなんだっけな?それに記憶力も悪いらしい」


 「そこまでは言ってないけど…ごめんなさい」


 「なんだ、お前らしくないな?あ、そうだちゃんと飯食えよ?こんなに軽くなっちゃって」


 それも、セクハラ…確かに記憶力はそうかも。ダイエットしてたの教えたっけ?まぁ、いっか。


 「あと、なんだ。その、そんなになるまでお前が思い詰めるなんて思ってなくてさ…」


 「…あたしってさ。変わらなきゃいけないよね…?」


 「…ん?なんの話?」


 まだ、あたしは頭が回ってないみたい。突然そんなこと言われてもわかんないよね。


 「ううん、なんでもない」


 「そうか。…じゃあ、続きなんだけど。今朝、後輩と付き合ってるって言ってたのあれ嘘なんだ、正確には契約中?みたいな?」


 「…嘘?契約中?」


 彼なりの慰めの言葉なんだろうか?それでも、付き合っているのか嘘って言葉に胸が弾んだ。


 「あぁ、深くは話せないけどさ。...はー、後輩も巻き込んで、めちゃめちゃかっこ悪いよなー」


 まだ、あたしにもチャンスがあるのかな…?


 「...あとさっき言ってたことなんだけど、変わらなくていいんじゃないか?今のしおらしいお前もいいと思うけど。まぁ好きにしたらいいけどさ」


 そっか…そうなんだ!


 あたしは変わらない、この思いは変えちゃいけない。


 あんたが、大好きだから。


 「...決めたわ!付き合っているのが嘘でも契約中でも、本当だって構わない。あんたを絶対に振り向かせるわ」


 「…は?え?」


 「自分勝手でごめんなさい、でもこれは宣戦布告。今の彼女がいても、いなくてももう一回付き合いたいって思わせるわ」


 あたしは変わらない。絶対に、絶対に...!

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