第5話 5万円彼氏から抜け出せない

--放課後--


 おれは、後輩から屋上に呼び出されていた。


 とっても素敵な笑顔で出迎えられた。早速、いじり倒される予感がする。


 「せんぱーい、遅いですよぉー。美人で可愛くて思いやりのある彼女こと、私が呼んでるっていうのにぃ」


 「あの、その事なんだけどさ。その場の雰囲気というか、流れというか」


 「えぇ〜、5万円もかけた彼氏としての自覚が無さ過ぎですよ」


 あのメッセージは、今朝の通学路の話を意味していた。


 そう、俺は5万円で後輩の彼氏を名乗ってしまったのだ…


 「では、早速なんですが、お支払いの説明に移りたいと思いまーす。まずは支払い期限は今週末ですがー」


 「あのさ、あいつとの口喧嘩の勢いで、言っちゃっただけで取り消したいんだけど…だめかな?」


 「そうですか…美人で可愛い思いやりのある彼女を1日も立たずに捨ててしまうんですね…」


 う…良心が痛む。勢いでいったことはいえ、後輩を勝手に振り回したのは俺だ…


 「幼馴染さんとの恋愛がワスレラレナイ、もとのそそっかしくて、セクハラな隠キャで変人童貞2割増しせんぱいに戻りたいんですね…」


 「もう、それでイイです…あと童貞とは誰も言ってないでしょ…?」


 「分かりました。私も頼りになる彼氏が欲しかったんですが、強制は好きじゃないですし。取り消してもいいですよ」


 助かった。やはり、からかわれているだけで、本気でお金を取ろうとしているのではないようだ。


 「うん…ありがとう、振り回してごめんね」


 「いえいえ、セクハラな隠キャで変人童貞根暗2割増しせんぱいに、オススメの動画があるんですけど、いくらで買い取ってくれますか?」


 「属性が増えてるよ…根暗だけどさ。なんの動画でしょうか」


後輩がスマホで、動画を再生させる。そこに映されたのは、朝の教室。


 …『はぁ?彼女ならいますけど?』


 『なっ!?』


 『お前がさっき見ていた後輩と付き合っているんだ』…


 再生されたのは、朝の幼馴染との口喧嘩で後輩を彼女だと宣言していた映像だった。


 「この後、私は放課後にふられちゃったんですよね…本当に都合の良い女だったってだけですよね」


 「う…」


 「でも、しょうがないですよね。本人にその気がないんだから。傷心の私はうっかりSNSにアップしちゃうんだろうなぁ」


 傷ついた演技をする後輩。あからさまな脅しだったが、元々の原因は俺にある。


 「そしたらかっこいい彼氏でもない、セクハラな隠キャで変人童貞根暗で小心者の2割増しせんぱいは、いろんな人から嫌われちゃうんだろうなぁ」


 「小心者だけどさ…。お、おいくらでしょうか?」


 「6万円からです…私の心は満たされませんが」


 思わず、眉間を抑えてしまう俺。


 彼氏役を続けてしまった方が安くつきそうだ…というか、このまま彼氏役を取り消しても6万円じゃすまなそうだ。


 「やっぱり、彼氏でいてもいいですか…」


 「えぇ!?いいんですかぁ?セクハラな隠キャで変人童貞根暗で小心者の日和見2割増しせんぱいじゃなくって」


 「はい、日和ましたとも…いい加減その呼び方やめてくんない?俺だって傷ついちゃうよ…?」


 後輩は振られて傷ついた演技から、一転してとっても素敵な笑顔で話を続ける。


 「じゃあ、改めてお支払いの説明なんですが。せんぱいって、甲斐性なしじゃないですかぁ」


 「はい、隠キャで変人、日和見の甲斐性なしです…」


 「んん?足りないですよー?あ、記憶力も無いんでしたか。支払い期限を延長したいですよね!そこで、私と週末デートしましょう!」

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