第477話 生還と宴Ⅲ
俺が案内したbarは、最近日本人の転生者が開店した和の雰囲気を全面に出した「bar 花鳥風月」というお店だ。
「これまた随分と趣を感じるいい店構えだな」
「マーズベルで時折見せる和の雰囲気だね」
ルミエールはそう言って期待を膨らませていた。
俺が建造したお城のような5F建ての商業ビルの中にある1Fとなるお店は、オレンジ照明にライトアップされている通路の地面は石畳になっている。10m先に見える入り口は格子状の扉となっていた。この木はマーズベルで稀に確認できる木で、マーズベル木と呼ばれている木だ。MPが込められている事もあり、風化も劣化もしない特殊な木で、他の国へは流出させていないマーズベルの貴重な資源だ。
「開けますね」
ミクちゃんがそう皆に問いかけると、
ミクちゃんが開けた瞬間飛び込んでくる光景は、右手にはマーズベル木を使った10人掛けのカウンター席と、棚に置かれている様々なボトルのワインやウイスキーだった。そして左手の奥側には個室の席があり、部屋の奥にあるガラス張りからは日本庭園が堪能できるようになっている。
「皆さまいらっしゃいませ。お待ちしておりました」
俺達を迎えてくれたのは、白いシャツに黒のベストを着た40代前半の日本人、リョウジさんだった。
「いきなり連絡して急遽開けてもらって申し訳無いです」
「いえいえ。私はナリユキ様から連絡が来た時は飛んで喜びました。町ではお亡くなりになったという話が出回っておりましたので」
「ん? 皆、認知していなかったのか?」
「そうだよ。どうなるか分からないからとりあえず話は伏せておいたの。みんな悲しむし混乱してしまうからね」
「成程な」
「そのご様子だと話は本当だったようですね。ご無事で何よりです」
リョウジさんはそう言った後、「失礼致します。ご案内致します」と述べてテーブル席に案内してくれた。
「私も初めて来たけどやっぱり雰囲気良いよね~」
「そうだよな~。barなのに割烹料理屋さんみたいな雰囲気出ているもんな」
俺とミクちゃんは下座に着き、客人である
「凄くいい雰囲気だね。ナリユキ達が来た世界のbarは、こんな感じのところが多いのかい?」
「いや、そんな事ないよ。お店の構えの感じだと、俺達の国には京都っていう都市があって、そこは昔ながらの日本の文化を尊重している街並みなんだけど、そこの街並みと似たbarだから、内装も外装も結構珍しいタイプだと思うよ」
「そうなんだね。普段と違った雰囲気だから凄くいいな」
「そうですね。私もこのお店の雰囲気は好きです」
ルミエールもクロノスもそう言って既に満足そうな笑みを浮かべていた。一方、
「なかなか風情があって良いな。マーズベルはこういった風景が楽しめるところが多いので、見ているだけで心が安らかになる」
「気にって頂けたようですね。少し時間が早いのでそのままですけど、夜はライトアップされるようになっております」
「ほう。それではまた次の機会にも来るとするか」
「勿論いいですよ」
俺達がそう話をしていると、リョウジさんが人数分のお冷とメニューを持ってきてくれた。
「こちらをどうぞ。お飲みものが決まりましたらお声がけ下さい」
リョウジさんはそう一礼をしてカウンターの向かい側の持ち場へと着いた。
ビール、チューハイ、ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー、ジン、リキュール、果実酒――などなど割と何でもお酒は揃っている。
「選べない――」
ミクちゃんはそう言ってメニューを眺めていた。ジンベースや、ウォッカベースなどなど、お酒の種類毎にカクテルのメニューがあるので、なかなか選べないのは無理は仕方ない。
「迷ったら季節のフルーツカクテルにするのはどう?」
「じゃあ苺のシャンパンカクテルにする!」
と、目をキラキラさせて俺の方を向いてきた。いや、眩しいって。
「余はマーズベル産白ワインのキールにするか」
「私はマイラにしましょう。ナリユキ様。ワインは全てマーズベル産ですよね?」
「そうだぜ」
「ではワインの味は保証されていますね」
と、クロノスは満足気な笑みを浮かべていた。
「私はミカンのフルーツカクテルが気になるね。ナリユキはどうする?」
「俺もルミエールと同じにするよ。マーズベルのミカンって結構美味しいんだぞ?」
「それは楽しみだ」
ルミエールがそう呟いた後、ミクちゃんがリョウジさんを呼んでくれてメニューを通した。フードメニューも数種類あるので、生ハムやガーリックトーストなどの、軽い食べ物をつまみとして注文した。
待つこと5分。カクテルとお通しのナッツが配膳された。
「ミクちゃん頼む」
俺がそう言うとミクちゃんがカクテルを上げた。
「堅苦しいのは別にしなくても良いぞ。軽くでいい」
全員がカクテルを手に取った事を確認すると、ミクちゃんは軽い挨拶を行った。
「手短にいきます。ナリユキ様の復活に乾杯!」
「乾杯!」
俺はミクちゃんの挨拶で、
ミカンの果汁たっぷりのこのカクテルは、芳醇な甘みと、爽やかな喉越しだった。
「これは美味い」
俺はそう呟きながら笑みがこぼれていた。復活後のお酒は美味い!
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