第454話 魔王ルシファーとの交渉Ⅲ

「と、言う事で其方の力を借りたいのじゃが」


 妾はマーズベルに訪れると、ナリユキ閣下に来賓室に招かれた。そして持ちかけた相談内容は、ルシファーをどう攻略するかというもの。そしてここの部屋にいるのは、妾とナリユキ閣下以外ではミク殿のみとなっている。


「これは無理だろ」


 ナリユキ閣下から放たれた言葉はあまりにも残酷だった。知性・記憶の略奪と献上メーティスで妾が知っている限りのルシファーの情報を与えたの上でのこの結論じゃった。


「そんな――せっかくアスモデウス様が来ているのに!?」


「いや、だってこのルシファーって奴、相当な曲者だぞ!?」


「そ――そんなになんですか――?」


 そうチラッと妾の顔を見てきたミク殿。


「そうじゃのう。まあ凄く変わった奴じゃな。ナリユキ閣下でも作戦が思い浮かばないのは仕方ないのう」


「と、言うよりタイミングが今ではない」


「どういう事じゃ?」


 ナリユキ閣下は何か思いついているのだろうか?


「必要が無い時に、これを買ってください! ってどれだけ素敵な紹介をしても、今は必要無いってなるだろ?」


「確かにそうじゃな。しかし、戦況が不利な状況で交渉を飲んでくれないとは――」


「ルシファーはプライドの塊。だから例えどれだけ不利な状況になろうとも、ルシファーは合意するとは思えない。ルシファー本人に交渉を持ち掛けるのは困難って訳だ」


「じゃあ一体どうすれば良いのじゃ?」


「パイモンに交渉を持ち掛けるんだ」


「パイモン――? しかし奴はルシファーの意思と、ルシファーが生き残る事を重んずる。妾が行ったときはパイモンに断られたしのう」


 パイモンはルシファーに忠実な一番の家臣。決して物凄く頭がキレるという人物では無いが、ルシファーが危険な策を実行しようとしたとき、ブレーキをかけるのがパイモンじゃ。ルシファーは他の配下の事はどうでも良いと思っているが、パイモンだけは唯一厚い信頼を置いている――。


「しかしどうやってパイモンを攻略するのじゃ?」


「共有してもらった記憶だと、パイモンは配下に対してある程度の情を持っている。このまま不利な状況が続けば、ルシファーの意思を尊重するパイモンでも流石に黙ってはいないはず。そこで改めてアスモデウスさんが登場して交渉を持ち掛ける。あとは、配下達にアスモデウス軍の力を見せつけてやるのもアリだな。部下からたくさんの声が集まれば、パイモンも強気にルシファーに助言をするだろうな」


「さ――流石じゃ。そこまで想定する事はできなかった――。妾はルシファーばかりに交渉を持ち掛けようとしていた――」


「盲点だったな」


 ニッと笑みを浮かべたナリユキ閣下。眩しいのじゃ――。何じゃそのキラースマイルは――。


「限りなく0に近い交渉がいけるような気がしてきたのじゃ!」


「あ――でも」


 と、ナリユキ閣下は何か言いたげだった。


「まだ他に何かあるのかのう?」


「そうだ。部下にアスモデウス軍の力を見せつけるってどうするんだ? って話になってくるだろ?」


「確かに……てっきり、早い段階で交渉せずに兵を何千人か送り付けるもんじゃと思っていた」


「それだと少し惜しい。最初はサービスみたいな感じで兵を送り付けて、アスモデウス軍の力を見せつけるのはいいけど、サービスで戦い続ける気だろ?」


 ――え? 違うのか!? 


「そうじゃないのか? 戦い続けていれば妾達の力を見たルシファー軍が妾の交渉を飲んでくれる確率が上がると言ったじゃないか?」


「そうだけど、それだと戦況がかなり有利になってしまい、ルシファー軍だけでもベリアル軍を撤退させる事が可能になる。アスモデウスさんからの記憶と知性で、ベリアル軍が魔族のオールスターのような兵力というのが分かった。ルシファー軍はベリアル軍に対して個々の戦力が負けている。だから、今のような戦況になっているようだけど、問題はルシファー軍をどれだけ助けて、どのタイミングでアスモデウス軍を撤退させるかだな。これは単純な話で、アスモデウス軍が、1、2部隊ほど壊滅させて一度撤退させれば良いと俺は考えている」


「それだけで良いのか!? 1、2部隊と言ったら、500人程の兵力じゃぞ!?」


 本当にそんな作戦でルシファー軍の兵どもは妾達の強さを納得してくれるのだろうか?


「してくれると思うぜ。雑兵からすればそれだけで十分な話。援軍が来た事によって士気も高まる。そんな援軍がそれだけを壊滅させて、嵐のように過ぎ去ってみろよ。雑兵共はアスモデウス軍の力を欲するに決まっている。そして、もう一度手助けして欲しければ、地上の黒龍ニゲル・クティオストルーデ討伐に、魔王ルシファー一人だけの力で十分なので貸してほしい。お互いに協力しよう。と条件を提示するんだ」


「な――成程」


 流石にそこまでは想定していなかったのう――。


「ほら、あと少しのところで戦況が大幅に変わって勝利するって分かっているのに、手が届かないってなるとどうしても欲しくなるだろ?」


「確かにそうじゃ。欲しくなる」


「その心理を突けばいけるはずだ! まああくまで想定の話だし、俺が言った撃破する部隊数はあくまで目安。その辺りはアスモデウスさんのさじ加減で決まると思う。戦況も目まぐるしく変わるからな」


「そうと決まれば早速作戦を立案せねば!」


 妾がそう言って立ち上がると、ナリユキ閣下が「ちょっと待って」と引き留めてきた。一体何なのじゃろう?


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