第446話 会議Ⅰ

 あれから数日後、俺達はマーズベルに戻り地下世界アンダー・グラウンドの探索隊の部隊編成をするべく、ミクちゃん、ランベリオン、マカロフ卿の4人で会議室で検討していた。


「正直私は地下世界アンダー・グラウンドの潜入は止めた方が良いと考える」


 そう切り出したのはマカロフ卿だった。


「これまた随分と突拍子もない意見だな」


 俺がそう言うと「そんな事は無い」と呟くマカロフ卿。


「まさかあのゾーク大迷宮をクリアするとは思ってもみなかったが、実際に強くなったのはナリユキ閣下とミク嬢だ。万が一にも、コヴィー・S・ウィズダムと再び遭遇したらどうする? 今度は確実に誰かの命を失うぞ?」


 そう訊けばもっともな意見だ。


「しかし、我等も力をつけた。アリシアがマーズベルから離れることは、ユニークスキルの事もあって難しいかもしれないが、我ともう誰かを派遣してくれればよかろう?」


 ランベリオンの意見に首を左右に振るマカロフ卿。


「駄目だ」


「何故だ?」


「理由はさっき言った通り、コヴィー・S・ウィズダムと再び遭遇した際の危険性だ。加えて言うならずっと隠れていたコヴィー・S・ウィズダムが何故いきなりアヌビスと今回に限って遭遇したのだ?」


 珍しくマカロフ卿が言っている意味が理解できなかった。一体何を危惧しているのだろう――。


「それはアヌビスさんがずっとコヴィー・S・ウィズダムの手がかりを追っていたからじゃないですか?」


 ミクちゃんがそう答えるとマカロフ卿は再び左右に首を振った。


「私は思うのだ。昔からコヴィー・S・ウィズダムは警戒心が強いと聞く。そもそも出会って直接話しをしたことがある人間は限られている。そうなると考えられるのは、偶然会ったように見せかけたのではないか? とな」


 こうしてやっと言いたいことが何となく分かった――。


「成程。つまり俺達部外者が侵入したときの術を持っているか、もっと危険な可能性だと、俺達の居場所が、地下世界アンダー・グラウンドに入った時点で正確に分かるんじゃないか? って事だよな?」


「それって天眼の事?」


 そう質問を投げかけたのはミクちゃんだ。


「違う。天眼はあくまで風景と、念じた人物が視えるだけだろう? そうじゃなくて、知らない場所でも、我々の居場所を正確に突き止める方法があるのが一番マズいと思ってな。そもそもコヴィー・S・ウィズダムは様々な魔物の細胞を体内に取り込んでいるのだろう? であるならば、探知サーチ型のパッシブスキルやアクティブスキルを持っていても可笑しくは無い」


「でも、ナリユキ君の天眼があれば――」


 ミクちゃんがそう言うと「駄目だ」とまたも反論するマカロフ卿。


「天眼の千里眼オラクルアイはパッシブスキルではあるが、MPを消費しないだけで発動型のスキルだ。常時展開している訳ではない。つまり、ずっと見ていられる時間リソースが無いという事だ」


「そういう事か――」


 ミクちゃんはそう呟いて少し落ち込んでいた。


「では一体どうしたら良いと思っているのだ?」


 ランベリオンがマカロフ卿にそう問いかけると、マカロフ卿が俺を見てきた。アイコンタクトを送っている。仕方ねえ――。


地下世界アンダー・グラウンドに入る前に、幹部クラスの人間の更なる強化が必要だと言いたいのだろう。確かに未知なる魔物がウヨウヨといる地下世界アンダー・グラウンドに入るには、もっと強い人が必要だし、何なら俺と同等の実力を持つ人がもう1人必要だ」


「流石だな」


 マカロフ卿はそう呟いて満足気な表情を浮かべていた。テメェ俺の事何気に試しただろ? 別に最後までマカロフ卿が説明をしてくれたらいいじゃん! と思ったのは内緒である。


「成程――でもモタモタしていると本当に危ないんじゃない? それこそミロク並みの危険性があるかもしれない」


 ミクちゃんがそう思いつめた表情を浮かべていた。


「ミロク――創生ジェスはこれ以上目立った行動はしないだろう。優先事項は黒龍ニゲル・クティオストルーデだしな」


「そうか――色々問題がありすぎて黒龍ニゲル・クティオストルーデの事が一瞬頭から離れていたよ」


「そもそも、黒龍ニゲル・クティオストルーデに勝つ為にゾーク大迷宮に潜ったもんだしな。俺、ミクちゃん、青龍リオさん、アスモデウスさんは相当な力をつけた。特に青龍リオさんはZ級に戻ったしな」


 俺がそう言うと、「何!?」とランベリオンとマカロフ卿。めちゃくちゃ驚いている。


「あれ? 説明してなかった?」


 俺がそう言うと2人は首をブルブルと左右に振る。割と激しめに振っているので、相当動揺しているのが分かる。


「俺は素の状態で8,500。ミクちゃんは7,800、アスモデウスさんは7,500、青龍リオさんは8,000になった」


「――私の戦闘値は相当低いな。もっと強くならなければ」


「我の戦闘値も4人に比べればまだまだ低い。何とかせねば足を引っ張るだけだな」


「それに私はは闇払やみばらいっていうパッシブスキルを習得しているよ。恐らくだけど、黒龍ニゲル・クティオストルーデの攻撃も防ぐことができる」


 ミクちゃんがそう言うとランベリオンが「凄いではないか!」と満面の笑みを浮かべていた。しかし、マカロフ卿に関しては険しい表情をしている。


「どうしたんですか?」


 そう問いかけたのはミクちゃんだ。


「そのパッシブスキルも今のままでは黒龍ニゲル・クティオストルーデには通用しないかもしれないな」


「実は俺もそう思っている。黒龍ニゲル・クティオストルーデはZ級で、ミクちゃんはS級――ZとSでは格が全く違う。故に格下相手のミクちゃんでは、そのパッシブスキルすらも無効化されるって事が言いたいんだろ?」


「そうだ。正直なところ、マーズベルで一番Z級に近いのはミク嬢だ。残り200はカルベリアツリーのダンジョンの最終層までいって戦闘値8,000にするべきだと思う」


 マカロフ卿はそう言っていたが、どこか不安がある発言だった。その懸念点は俺も予測できる。単純に時間が無いという事だ。俺とミクちゃんがいない間に黒龍ニゲル・クティオストルーデがマーズベルに訪れた場合、この国はたちまち火の海と化すだろう。そもそも黒龍ニゲル・クティオストルーデと戦ってから数週間経っている。奴がそろそろ動き出しても不思議ではない。

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