第412話 ヘキサグラム・サミットⅢ

青龍リオよ。戦力を集めていると言ったな?」


 そう問いかけたのはヴェストロさんだった。


「ああ」


「今集まっている戦力は、具体的にはどのくらいいるんだ?」


「そう言われると思ってリストを作成した。良かったら目を通してくれ」


 そう言って青龍リオさんが渡した筆で書かれたリスト。ヴェストロさんは目を通すなり、苦い表情を浮かべていた。


「これだけか――しかし、実際に戦闘値4,000以上の人物を集めるのも難しいからな」


「いつでも戦えるよう、皆にはすでにオストロンで待機してもらっている。後は、アスモデウスとナリユキ閣下の戦闘員に協力してもらうのみとなっている」


「成程な――まあ文句を垂れたいところではあるが、黒龍の強さは別次元だ。どれだけ文句を垂れようが滅ぶときは一瞬。そうならないように、青龍リオが動いてくれているのであれば何も言えまい」


「しかしそうなると、各国にこの話を広めるかどうかだな。非常に難しい選択だ……」


 そう言って頭を悩ませているのはレンファレンス王だった。確かに選択は難しい。話を発表すれば世界中が大混乱になる。話を発表しなければ、何故公表しなかったと大騒ぎなる。でもこの場合は――。


「やっぱり私は公表するべきだと思います。知っている重要な情報を開示せずに、そのまま世界で大きな被害を生んでしまった場合、絶対に後悔すると思うからです」


 俺がそう発言をすると、青龍リオさん、レンファレンス王、ヴェストロさんは苦い表情を浮かべていた。


「不服のようですね――?」


 そう恐る恐る訊いたのはルミエールだった。確かに3人は明らかに納得していない様子だ。


「準備期間はありますし、せっかくここで皆様が集まっているのですから、世界中の人にこの話を広めた上で、どのような対策をとるのか? という話まで進めましょう」


「しかしだな――話を広めてしまって世界中が未曾有の大混乱にでもなったら、我々ではカバーがしきれないぞ」


「それに勝手な行動をされても困るしのう」


「対策は何か案があるのか?」


 青龍リオさん、ヴェストロさんがそう呟き、レンファレンス王から対策はあるのか? という問いをされた。


「対策らしい対策はまだ思い浮かびませんが、黒龍の戦闘フィールドを決めることができたら良いのではないでしょうか? あくまでの一案ですが、誰も住んでいない広大な土地に我々が待機し、復活した黒龍を青龍リオさんの強制転移フォース・テレポートで、呼び寄せて戦闘を行うというものです」


「しかし、黒龍がその場に留まるとは限らないだろう?」


 ヴェストロさんがそう発言をすると、アスモデウスさんが首を左右に振った。


「ここに優秀な防衛スキルを持つ人間が一人いるじゃろう?」


 そう、アスモデウスさんが指したのはミクちゃんだった。ミクちゃんは「私ですか?」と驚きを隠せない様子だった。


「ミク・アサギ殿の力と、マーズベルの森妖精エルフの力があれば何とかなるじゃろう。しかし、あまりにも長時間じゃと結界の力が弱まってしまうので、戦闘時間は長くて六時間くらいが限界じゃろう。まあ、結界を張る森妖精エルフ達には心身ともに疲弊するから少々酷ではあるがの。勿論、妾の国の森妖精エルフも力を貸す。皆で一蓮托生となって戦えば何とかなるもんじゃ。それに青龍リオは実際に黒龍を追い払っているではないか。今回はそのパートナーがナリユキ閣下と妾という訳じゃ。何か不服かの?」


 アスモデウスさんが言って、意地悪な笑みを浮かべると青龍リオさんは「そうだな……」と強引に納得させられた感満載だった。


「魔王の妾が地上で魔真王サタンを使ってしまうと、地図を書き換えないといけなくなってしまうが、その辺りは仕方ない」


「……気になっていたのですが、魔真王サタンを使うとどれくらい強くなるのですか?」


 ルミエールがそう訊くとアスモデウスさんは「そうじゃな~」と顎をかいた。


「確実に1,000年は使っていないからのう。正直分からないのう――。まあ期待には応えられるはずじゃ」


 呑気に応えるアスモデウスさんに、本当に大丈夫かな~と心配な様子のルミエール。


「カルディアの例で言うと、創生ジェスの幹部のレガトゥスと対等に戦っていたのは相当凄い実力だと思う。実力がどのくらい上がるのかと言うと、村人から英雄になるくらいの上がり方なんじゃないかな? 何かやってくれそうなカルディアだけど、以前はマカロフ卿に負けている――しかし、今回は良い勝負をしていた。そう考えると凄くないか?」


「――確かに。マカロフ卿も強いけど、レガトゥスはさらに強かった。そんなレガトゥスとカルディアは互角に戦っていたのであれば、魔真王サタンの力は凄まじいものだね」


「そうだ。だからアスモデウスさんが魔真王サタンを使えて、うちのミクを筆頭に、防衛ラインを強固にすれば勝てる可能性はあるんじゃないかなと思います」


 俺がそう発言するとレンファレンス王が、青龍リオさんに視線を移して問いかけた。


「どうなんだ? 青龍リオよ」


「そうだな――確かに可能性はある。しかし、黒龍が厄介なのは純粋な強さだけでは無い。龍騎士を魔王へと変えてしまった一種のウイルスのような邪気だ」

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