第403話 龍・魔との戦いⅣ

 俺の中であともう一つだけ試したい能力があった。この能力と一瞬で移動することができる能力と、MPを吸い取ることができる能力があれば――。


 俺は最後に試したい能力で自身の姿を透明化させた。


「消えた!?」


「大丈夫だ。ナリユキ殿のニオイまでは消えていない」


 そう冷静な分析を行う青龍リオさん。青龍リオさんはもしかして嗅覚もいいのか? そうだとするとものすごく面倒くさい相手だな。


「俺は龍じゃない。嗅覚は人間と変わらないからな――仕方ない」


 マルファスさんはそう言ってふうと深呼吸した。そして数秒すると――。


 カラスのような魔物が5頭出現した。これが魔妖烏クロウなのだろうか? 骨で出来た鳥の足の形をしたような兜を被り、ルビーのような真紅の瞳。グアアアと威嚇している口の中にある鮫のような鋭く恐ろしい歯。背中から尾にかけて生えている漆黒の棘は合計10本あり、羽ばたいた時に時折落ちる羽は、虹色に輝いている。体長はおよそ2.0m程。思った以上に大きい。


「いけ!」


 マルファスさんはそう合図をすると、魔妖烏クロウが俺の方へ襲い掛かってきた。俺は透明化していて見えない筈だけど、もしかして見えているの?


 俺はとりあえず瞬時にあちこち移動した。それをしながら、魔妖烏クロウのステータスを確認。1頭辺りの戦闘値は5,500――!? これが悪魔と呼ばれている人型の姿をしていない魔族か――強すぎないか?


 案の定スキルを確認すると探知系のスキルが沢山あった。故に何で透明化になっている俺を見つけ出したのか分からない。俺が移動する度にこの魔妖烏クロウ達は付いて来る。


そして一番驚きなのは、1頭1頭が邪眼を持っている事だ。あの真紅の瞳の正体はどうやら邪眼らしい。まあ魔眼がじゃないだけ良しとするか。


「そこだ!」


青龍リオさんの声が後ろからした。当然攻撃を受けた俺は透明化が解除される。ダメージを受けてはいないけど、何で先読みされていたのか不思議だ――攻撃を避けることができなかった。


「不思議そうな表情をしているな? ナリユキ殿」


「それはそうでしょ。何で動きがバレたのか不思議なんですよ」


「経験値ってやつだよ。お主にも癖があるようだったからな」


 そう言って青龍リオさんは上と跳んだ。まあ空中戦だから、跳んだというより高度を上げたというほうが正しいか――。


 青龍リオさんがそうした行動を取ったのはすぐに分かった。マルファスさんが放ったイークスの弾丸が飛んできた。俺は咄嗟に殺戮の腕ジェノサイド・アームでガードを行ったが、青龍リオさんをブラインドにしての連携攻撃は流石だなと感心した。


 妙にマルファスさんの視線を感じるなと思った瞬間だった――俺は氷漬けにされてしまった――油断した。でも何でだ? 俺とマルファスさんの距離は20m前後離れている。魔眼の凍結フリーズが発動する距離じゃないはずだ。


 もう訳分からん――。


「何か困っているようだな」


 青龍リオさんがそう見透かしたように話しかけて来た。


「強い2人と戦うと理解するまでに時間がかかる事が多すぎるんですよ」


「成程な」


 そう言いながら、短刀で遠慮なく斬りかかってくる青龍リオさん。そしてバサバサと鳴る翼の音。気付けば俺は魔妖烏クロウの群れに囲まれていた。


 魔妖烏クロウが開けた大きな口にはエネルギーが集中している。


「確かにアクティブスキルは効かないと言ったけど同時攻撃が効かないとは一言も言っていないな」


「そういう事だ」


 青龍リオさんがニヤリと笑みを浮かべた瞬間、魔妖烏クロウから放たれるエネルギー波が発射された。この攻撃は腐るほど見ている悪の破壊光アビス・ディストラクションだ。


「どうだ? 動けまい」

 

 青龍リオさんは避けずに俺の身体をがっしりと羽交い締めで拘束してきた。戦闘値に差があるのに、何て馬鹿力だ! 引き離すことができない――。


 刹那、目の前が紫色の光に包み込まれた。腕を完全に封じられたので、所有スキルのスキルリターンや、スキルバリアーも使えない。勿論殺戮の腕ジェノサイド・アームのバリアー機能使えないという状況――攻撃を喰らわざるを得なかった。


 勿論痛覚無効が作用している。しかし、右手や左足の感覚が無くなっていた。そう思っていると、即座にパッシブスキルの自動再生が発動した。吹き飛ばされた身体のパーツが再生されたようだ。どうやら本当に右手と左足が無くなっていたらしい。


「ったく無茶するよな青龍リオさん」


 青龍リオさんも自分の身を犠牲にして魔妖烏クロウ悪の破壊光アビス・ディストラクションを喰らったんだ。タダでは済まない筈だ。


 と――思っていたが。


「流石にあの程度の攻撃ではピンピンしているか。流石だなナリユキ殿」


 そう言って煙の中から俺の前に現れたのは、服に付着した汚れを振り落としながら、まるで空中にベルトコンベヤーか何かがあるように、宙を滑って近づいて来る青龍リオさんだった。チャラヘッチャラって顔をしていやがる。俺なんて手と足を吹き飛ばされたんだぞ!?


「何でそんなピンピンしているんですか?」


「ん? 余には硬質化とスキルバリアーがあるからな。前はナリユキ殿で後ろはスキルバリアーをすると大したダメージを負わないだろ?」


「あ――勉強になります」


 俺がそう言うと「褒めても何も出ないぞ」と呟く青龍リオさん。確かに俺を盾にすれば前からの攻撃は防御できるし、後ろはスキルバリアーをすればいい――だからあんな無傷なのか――。


 かく言う俺はダメージが大きかった。それこそ、今まで喰らったことが無い威力の悪の破壊光アビス・ディストラクションだった。最近本当に思うんだよ――戦闘値ってあくまで目安だ。数字だけを見ていると痛い目を見るってな。どこぞの漫画の悪の帝王の手下が戦闘力で振り回された気持ちが異世界に来て分かるとはな。

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