第361話 いざヒーティスへⅡ
町に着くと建物はレンガ造りとなっており、他の国とはそれほど大差が無かった。しかし、唯一の違いを挙げるとすれば――。
「本当に女性ばっかりだね」
「そうだな――でも、まあ男もちらちらといるみたいだけど」
「男はほとんどが観光客じゃ。まあここの居心地が良くて住み着く者は大勢いるがの」
「アスモデウス様」
と、町の人から声をかけられていた。当然、エリゴスの名前も呼ばれているが、アスモデウスさんを見かけた人は全員一礼をしていた。しかし熱狂的なファンもいるようで、「アスモデウス様~!」と黄色い声援を飛ばす住民もいた。まあ綺麗な女性だし、アスモデウスさんを好きになる女性がいてもおかしくはないだろうな。それに国のトップだし。
ヒソヒソ話が聞こえる。アスモデウスさんが男性を連れているのは珍しい事なのだろうか? 俺とミクちゃん――特に俺に向けられる視線は好奇心に溢れていた。
「すげー視線。町を歩くの恥ずかしいな」
「仕方ないじゃろう。其方はこの国では珍しいオスなのじゃ。魔族、人間、獣人、ドラゴノイド――選び放題じゃぞ? まあ最も其方には必要無いかと思うがのう」
「分かってるなら別に言わなくてもいいですよね――」
俺がそう言うと、アスモデウスさんは悪戯な笑みを浮かべた。
「最も、妾でも良いぞ? 夜は特に寂しいのじゃ」
そう、指をツンツンさせて俺の事をちらちらと見てきた。こんな色気を出せれたら普通の男ならユニークスキルの
「は――ハグでも良いぞ!?」
アスモデウスさんがそう俺の方に振り返って来た。
「いいわけないでしょ!」
と、ミクちゃんが横に入ってアスモデウスさんの服を引っ張る。
「そ――其方に怒られるとは思わなかったから吃驚したではないか。しかし妾には今は子供がいなくてのう。妾は魔族じゃろ? 例え、良い殿方と出会って縁があっても相手が先にいなくなってしまうのじゃ」
「魔族や
「妾は魔王じゃからな――一人の女性としてはなかなか見てくれないのじゃ。其方は国主という立場ではあるが、妾の事を魔王とも思っていないし、妾がヒーティスの国主という事もあまり気にしておらんようじゃ。どちらかというと一人の女性として接してくれている。そういう男性が良いのじゃ」
「まあ言いたいことは分かった」
「じゃろ? しかし、其方等二人の関係を見ていれば、こうなんかきゅんきゅんするのじゃ。妾が入る隙が無いのは把握しているつもりじゃ」
アスモデウスさんがそう言うとミクちゃんが案の定得意気な笑みを浮かべていた。
「そう言えばあのドラグーンタワーみたいな場所は何ですか?」
「あそこには、東の国でも有名な料理屋や武器屋があるのじゃ。まあ似ているのは
そうアスモデウスさんは開き直っていた。要はパクったのだ。
「着きました。ここがヒーティスのギルドです」
そう案内されたのは木造建築の3,000㎡程のギルドだった。そして建物自体は3階建てとなっていた。
中に入ると、冒険者パーティーの視線が一気に集まった。当然、アスモデウスさんがいるからだ。ギルドの受付をしている女性も驚いている様子だった。
俺達がカウンターに行くなり、メイド服を模したような衣装を着た受付嬢は全力で頭を下げた。
「これはこれはアスモデウス様。ご苦労様です」
「ギルドも女性ばかりだね?」
「だな。男は確かにいるけど少ないな」
俺達がそう小声で話をしているとアスモデウスさんが口を開いた。
「ここにいるナリユキ・タテワキ閣下がギルドに依頼を投げたいようじゃ。しかし難易度が高いので、妾とゼパルを交えて会議を行いたいのじゃ」
「は――はい。少々お待ち下さい」
そう言って受付嬢は急いで部屋の隅にある階段に上がって行った。3分ほど待っていると受付嬢が戻って来るなり「ご案内致します」と声をかけてきた。
「ゼパルってもしかしてギルドマスターですか?」
「そうじゃ。せっかくの機会じゃし顔も合わせておいてほしいのじゃ。奴もナリユキ閣下には会いたがっていたからな。そんなに強い男がいるのですか!? とな――」
アスモデウスさんがそうニヤニヤとしていた。何か悪い予感しかしないのは気のせいだろうか――。
「何かどんどんライバルが増えていくの疲れちゃうよ……」
ミクちゃんはこの通りぐったりとしている。大丈夫だ。問題無い。タイプと好きは全くの別物。アスモデウスさんは正直タイプではあるが別に何とも思わないから大丈夫だ。
「こちらへどうぞ」
いつの間にか部屋の前に着き、受付嬢が部屋の赤い扉をコンコンと3回ノックした。
「いいぞ」
声色からするとギルドマスターも女性らしい。受付嬢はドアを開いて待ってくれている間、一番最初にアスモデウスさんから入って行った。その次に、俺、ミクちゃん、エリゴスという順番での入室だった。
「邪魔をするぞ」
「失礼致します」
中に入ると、席を立って待っていたのは胸元が大きく開いた黒のチャイナドレスのようなデザインをした服を着ている女性だった。特徴的な赤色の髪は腰くらいまであり、左目には眼帯をしている。
「珍しいですねアスモデウス様」
「今日は客人がいるのでな。マーズベルのナリユキ・タテワキ閣下とミク・アサギ殿だ」
「宜しくお願い致します」
俺達がそう一礼をすると、彼女は目をキラキラと輝かせてこっちに向かって来た。
「お会いしたかったです! アスモデウス様から話は伺っております!」
と、凄い勢いで話しかけられて、俺の両手を強くぎゅっとに握ってきた。
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