第359話 亜人の正体Ⅲ

「そもそもだけど、フォルボスがその研究施設に送り込まれて何年程になるんだ?」


「5年程前だ」


「孤児院から1度に送り込まれる人数は何人くらいだ?」


「1人ずつだ。だから皆気付かなかったんだ。原則、ダヴィツからは引き取り手が見つかったからそこで新しい人生を歩みなさいと言われていた。引き取り手が見つからなくても、15歳になったら働き口が見つかるまでは孤児院が支援するという形で家を探してくれるそうなんだ」


「面会とかは無いってことだよな? 実は研究施設に送り込まれるって話だから」


「いや。面会もしている。実際双方が良いと思ったら引き取り成立という形なんだ。だけど、いなくなった皆は施設に送り込まれていたから、実は全員引き取り手のフリをした偽物だったんだ」


 フォルボスのその話を聞いて、ミクちゃんは「酷い……」と呟き同情していた。


「て言う事は現れる登場人物は全員サクラって事か。凄い大きい詐欺集団じゃねえか」


「何が目的でそんな事をしているんだろう――?」


「ごめん。そこまでは覚えていない」


 フォルボスはそう弱々しく呟いた。確かに重要なポイントは全て忘れている。いや、何かしらの力で記憶を制御されているのか?


「マイクロチップは1つだけだったのか?」


「はい」


 リーズはそう頷いた。じゃあ単純にフォルボスが忘れているだけなのだろうか? それとも別の何かがあるのだろうか?


「いずれにせよ。俺は記憶が戻った以上は施設に行くつもりだ。あの外道どもを許さない」


「待て待て。焦るなって。それに施設に行くよりか孤児院に助けに行ったほうが、皆が助かる確率はあるだろう? 施設にいる人間はほとんどが魔物になってしまって手遅れなんじゃないか?」


「――確かにそうだ」


「だからフォルボスが単身で乗り込むのであれば孤児院に行くべきだし、施設に行きたいのであればカーネル王国の冒険者パーティーに依頼するべきだな」


「分かった。少し考えさせてもらっていいか?」


「勿論だ」


「色々ありがとう」


「いやいや、俺こそ冷たい事言ってごめんな」


 俺がそう言うとフォルボスは「謝るのは俺だ」と言っていた。気持ちとしては助けてあげたい気持ちはあるが現実的じゃない。それに今の状態で東の国に行くのはあまりにも危険だ――。


「ふと思ったけどオストロンや、ヒーティスからその国は近いの?」


 ミクちゃんがそう質問をした。確かにわざわざ俺達が行かなくても、 青龍リオさんの国に頼めばいい。でも、黒龍ニゲル・クティオストルーデの件があるからそこにリソースを割けるかどうか――。


「国が近いのはヒーティスだな。ただ俺は外の国の事なんか何も知らないから、ヒーティスにギルドがあるかは分からないぞ?」


「ああ。全然いいよ。因みにヒーティスからマルーンはどのくらいの距離があるんだ?」


「それは流石に分からない。ごめん」


「いや、別にいいよありがとう」


 どうしようかな。じゃあ初アスモデウスさんに会って来るか――。何か狙われていたから緊張するんだけど。


「アスモデウスさんに会って来るの?」


 俺はミクちゃんにそう問いかけられたので頷いた。


「そのほうがいいだろう。ヒーティスに協力してもらえるならそのほうが良い」


「――ナリユキ君狙われていたよね。何かもう色々妖しいんだよね」


「確かに――」


 俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。もう色々とヤバいんだよな。特に男を見るときの目つきが――。


「ヒーティスは魔王アスモデウスが君臨する国だったけど大丈夫なのか?」


「そこは大丈夫だ。俺達とは協力関係にある国だから問題無いんだよ」


六芒星ヘキサグラムか?」


「そういう事だ」


 俺がそう言うと「成程」と頷いていた。


「どうする? ヒーティスに行くか?」


「行きたい。ヒーティスに」


「分かった。じゃあとりあえずギルドがあるかの確認はしないといけないから、協力してもらえそうだったら、一旦戻って来て準備をするよ。確かに距離は遠いけどうちの国には航空機があるからな」


「でも本当に大丈夫かな? ナリユキ君が行ったら変な事されそうじゃない?」


「う~ん。大丈夫だろ。てかそう思うしか無いよな」


「本当かな~。まあいいけど私もついて行くよ」


「勿論だ。一人で行ったら強制的だけど浮気案件ができそうな気がするから」


「そう言ってくれるの嬉しい。ありがとう」


 俺達がそう言っているとリーズが口を開いた。


「そうなると、フォルボス君のポーションが沢山必要になりますね。1ヶ月分程あれば大丈夫でしょうか? 長年あのマイクロチップに悪影響を及ぼされていたので、長期間頭痛に悩まされることがあると思います。ですので、鎮痛剤の役割を果たすポーションが必要になってくるのですが――」


「その痛みってどのくらいの期間なんだ?」


「何とも言えないですね。早ければ3ヶ月程で無くなるとは思いますが」


「じゃあ、2ヶ月分くらい作っておいて欲しいかな? 何が起きるか分からないしな。そのくらいあれば大丈夫だと思う。すぐに準備できるか?」


「はい。6時間程頂ければ用意できます」


「分かった。じゃあリーズは早速準備しておいてくれ」


「かしこまりました」


 リーズはそう言ってこの部屋から出て行った。


「色々迷惑をかけてしまって申し訳ない」


「いいさ。痛みは今は大丈夫なのか?」


「ああ。大丈夫だ。あのポーションのお陰だな」


「そうか。じゃあ俺達はまた来るから、しばらく安静にしておいてくれ」


「分かった」


 フォルボスがそう返事したのを確認すると俺は幹部の皆にヒーティスに行くことを念話で伝えた。その後、俺はミクちゃんアイコンタクトを送ると、ミクちゃんから俺の手を握ってくれた。


「行くぞ」


「うん」


 俺達はアスモデウスさんの顔を思い浮かべて目を瞑った。

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