第353話 噂を広げろⅤ

 本日の結果は98人と昨日に比べて落ち込んだが、結局リリーと、もう1人ディアン公爵に興味の無い人間がいたので、ディアン公爵が殺人犯だという情報を共有した。しかしリリーのように質問してくるような事はなかった。むしろ事件の事を俺が共有して、「もう大丈夫」と言った途端逃げたのだ。まあ仕方ない――。


 昨日が127人で、今日が98人という結果にはなったが、事件の真相を共有できたのが2日間で14人。ディアン公爵が真犯人という情報を与えることができたのが2人となった。


 つまり情報共有できたのは約6%。ディアン公爵が真犯人と伝えることができたのは0.8%と1%にも満たない。俺が今までにやった課金ゲームと言われていたスマホアプリのURが当たる確率がおおよそ3%だった。つまり課金ゲームのガチャより酷い確率となる。


 俺が1週間でこの噂を広めようとしている目標は100人だ。これはディアン公爵が真犯人だと伝える人数。これを営業をやっていたときのKPIシートを作ったとしたら地獄のような数字になる。まずは100人が真犯人を知っておかなければならないという事は、11,250人と会わないといけなくなる。今日のを除いて残り11,025人だとして、それを後5日しか無いと計算すると、1日で2,205人と会わないといけないという計算だ。朝の9時から夜18時まで、休憩1時間の勤務時間8時間としよう。1時間に会わないといけない人数は約275人。地獄だ――。


「ナリユキ君また凄い顔しているよ? そんなに電卓叩きながら嫌そうな顔をしているナリユキ君初めて見たよ」


 そう言われたのでミクちゃんに電卓を見せた。


「275.625――何の数字?」


「これは明日から1時間で会わないといけない人数」


 俺がそう言うとミクちゃんは顔を引きつらせながら――。


「ナリユキ君悪い冗談だな~」


「マジだぞ。予定だった後5日という納期に間に合わせるためにはな」


「――ブラック企業ですか?」


「本当にそうだな。体力的に無理だ。そりゃ無茶なノルマだな~とか会社で働いている時に思ったけど、まあ何とくなくいけていたんだ。普通に粗利1,000万円の大型契約取れたことあるしな」


「す――凄いね」


「運が良かっただけだな」


 俺がそう言うとミクちゃんが再度「すご――」と声を漏らしていた。


「これは物理的に無理な数字だな。だからとりあえずリリーには協力してもらおうと思う。人を増やせば宣伝力もアップする。後は俺が捌き切るだけなんだけど――」


「ナリユキ君は1人大体どれくらいで捌くの?」


「話とかもするからな。1人1分はみておきたい。でもまあリリーみたいなのが特例があると少し変わってくるけど」


「じゃあ1時間で60人が限界じゃない?」


「そうなんだよ~。逆算すると1日で480人がMAXになるな」


「ということは11,025人÷60人で180時間くらい必要って事だよね?」


「ミクちゃん暗算早いな。あと183.75時間だな。だから1日8時間労働をあと23日間続けていれば物理的に目標達成できる最短時間労働日数という訳だ。だから合計25日だな」


「ナリユキ君、悪魔の分身イビル・アバター使えないもんね」


「別に何でも使える訳じゃないからな俺」


復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムは使えるのにね」


「そうなんだよ。スキルの習得に関しては本当に謎だよな。多分、悪魔の分身イビル・アバターの適正なんだろうな。やり方は分かるのに」


「出来ないのは仕方ないよ――あ、そろそろ時間だね」


 ミクちゃんがそう言っていたので意識をすると体内時計では20時45分となっていた。


「そうだな」


 俺とミクちゃんは急いで準備に取り掛かった。とは言っても俺がささっと着替えるだけだ。


 そうして約束の場所に向かうと人が行き交う中、リリーが1人で佇んでいた。


「すまない。待たせてしまったようだな」


「いえ。大丈夫よ。さっき来たばかりだから――お弟子さんも一緒なのね」


「ああそうだ」


「私は椿と申します。宜しくお願いします」


 そう言ってミクちゃんは適当な名前を言って挨拶をした。


「こちらこそ宜しくお願いします」


 リリーはそう言ってミクちゃんに一礼をした。


「2人共変わった名前ね?」


「我々の出身国は少し特殊でな」


「そうなの」


 と、言っていたけど、そもそも国に和名の人なんて存在するのか? いないと思うけどそこはまあいいか。とりあえず誤魔化すことができれば。


「で、来たという事はそれなりの覚悟があるということでいいか?」


「覚悟?」


「ああ。俺達は訳あって素性を明かすことができないのだ。しかしある条件を飲み込んでくれれば君の質問に答えよう」


 リリーはしばらく考えた後――。


「どういう条件なの?」


「今から君に教える情報を他人に話さない事だ」


 すると、リリーはキョトンとした表情を見せていた。


「そんなの簡単じゃない」


「ただし、嘘をついてもらっては困るから、俺のスキルでルールを作る。君が守るルールは、俺と椿の情報を誰かに聞かれない事だ。なので、教える情報を誰にも話さなければいいだけだ。勿論、独り言とかで漏らして聞かれてもアウト」


「それを破ればどうなるの?」


「死ぬ」


 俺がそう言うとリリーは目を丸くしていた。


「でも事件の真相を知ることができるのであればいいもの。情報を誰にも聞かれなかったらいいんでしょ?」


「そういうことだ。まあ安心してくれ。このスキルは俺が一方的なルールを君に押し付けるスキルでは無い。俺にもルールを課して、命を懸けなければならない」


「それはまた随分リスキーなスキルね」


「いや? 軽いルールで良いんだけど、君にはこれからやってもらいたいこともあるから、俺は君を故意で殺害しないことを誓おう。勿論、今回君に課すルールで俺が君を殺してしまうのは別の話だ」


「いいでしょう。その条件を飲む」


 リリーはそう言って俺の瞳を真っすぐ見てきた。



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