第346話 いざカルカラへⅣ

「ディアン公爵は、私に共有して頂いた記憶だけでは無いんですよね?」


「ええ。恐らく――よく考えて下さい。サイスト・クローバー侯爵を自分の影武者にしていたんですよ」


 俺がそう言うとダイヤ侯爵の顔は青褪めていた。


「大丈夫か? ダイヤ侯爵」


 アーツさんはそう優しい声で、肩に手をかけていた。


「ええ……。確かに仰る通りです。人の死体でもてあそぶような人が善人な訳ありませんね」


「捻じ曲がった正義だ――。うちにもいますよ。昔のアードルハイム皇帝に大切な人を奪われて人間を駆逐しようとしていた魔族が――ベリトって名前あんんですけどね」


「ベリト――確かナリユキ様が止めたかの闇の商人、レイドラム・ゴールウォーズと手を組んでいたという――」


「そうです。元々☆が3を持っている善良な魔族が、アードルハイム皇帝という巨悪に裏切られて道を外してしまった魔族です。人は何か対して絶望を抱いてしまうと、どれだけ善良だった人間でも悪に染まってしまうのです。だから救いようがあるんです。しかしディアン公爵は違うと思うのです」


「それは何か理由が……?」


「詳しくはまだ言えません。が――強いて言うならば私達からすれば迷惑な神様に導かれたのかもしれませんね」


 俺がそう言うとダイヤ侯爵は首を傾げていたが、アーツさんは「神か……」と呟いた。


「神と呼ばれる人はワシは2人しか知らんからな」


 すると俺より先にミクちゃんが問いかけた。


「因みにその2人の名前は――?」


「ああ。オストロン連邦国の 青龍リオ・シェンランとワシ等 森妖精エルフの始祖、ミロク様――もう姿は2,000年程前に消えているがの」


 俺はそれを聞いて思わずミクちゃんの方を向いた。ミクちゃんも俺の表情を伺っていたらしく目があった。


「もう少しミロクさんについて聞かせてくれませんか?」


「何じゃ唐突に――というかお主等よくミロク様の名前を知っていたな。ダイヤ侯爵は分かるか?」


「いえ。存じておりません」


「じゃろうな。ミロク様は 森妖精エルフの始祖で、森妖精エルフを数多く反映させた後、人々がより豊かに住めるように、多くの国を築き上げたお人じゃ。しかし、そんな偉大な功績を残しているにも関わらず、自らの存在をおおやけにしなかったんじゃ」


 それはそれで珍しいな――。普通ならばそれだけ凄い事していたら情報は出回るだろうに。


「何でそれほど凄いのに認知している人は少ないのですか?」


「ミロク様は変わり者でな。情報が出回らないように徹底していたのじゃ」


「変わっていますね――でも、情報の出回りを制御するにも限界があるんじゃ――?」


「じゃから、ミロク様という名前を知っている者だけで話すのが原則じゃったな。しかし忽然と姿を消した今では、ミロク様の話題を出来る相手もおらん」


 アーツさんはそう言って嬉しそうな笑みを浮かべていた。アーツさんが様付けするくらいだ。始祖っていうのは本当だったんだな。噂じゃない――。


「やはり強かったんですか?」


「まあな。Z級じゃったからな。それよりお主達はどこでミロク様の名前を知ったんじゃ?」


「ヴェドラウイルスの件で色々調べていたのですが、その際に私の部下が不死鳥フェニックスと出会ったんです。それで3つのスキルの伝説が話題に持ち上がったようで、ミロクさんの名前が出たんです」


「成程な。確かに会ったことは無いが、不死鳥フェニックスなら知っているだろうな。で、一番気になるのがその神の導きという意味じゃ。まあ青龍リオ・シェンランはお主と交流が既にあるから、情報を知る必要はないじゃろうが、今の話の流れだと、迷惑な神様というのはもしやミロク様の事か?」


 アーツさんの言葉に、「どうなんですか?」とダイヤ侯爵が付け加えてきた。


「正直、今のところはまだ話すことができません。ディアン公爵の裏に誰がいるのか――というのはまだ憶測でしかないので」


 アーツさんは納得がいかない表情を浮かべていた――しかし俺が頭を下げると。


「仕方ない。深追いはせんでおく」


「助かります」


「なんだかとてつもない規模の話ですね」


 ダイヤ侯爵はそう啞然としていた。


「まずは先程お伝えした通り、皆の誤解を解いてスペード侯爵家を解放しなければなりません。ですので、地位の高い人とお話をしたいのですが」


「そうですね――それならばまずは法廷に行ったほうがいいかもしれません」


「王とかではないんですね?」


「ええ。王は事件関係には携わっておりませんので、カルカラで起きる事件を取り締まっているパルムス公爵と会った方がいいですね。パルムス公爵は良く法廷に出入りしているので、会う事ができなくても、所在地は掴めると思います」


「本当ですか?」


「ええ――しかし少々クセがありまして――」


 と、ダイヤ侯爵が苦笑いを浮かべていた。アーツさんも険しい表情をしている――。一体何があるのだろう――。


「問題ですか?」


 そう問いかけたのはミクちゃんだった。


「ええ。自分が一度行った事は絶対に曲げないのです。あまり大きな声で話すことはできませんが、パルムス公爵の事をよく思っていない人が多いです。爵位は我々より上なので歯向かったら殺される危険性もあるので、下手に間違いを指摘することができないのです」


「――結構歳はいっていますか?」


「いえ。そうでもありません。我々と同じくらいですよ」


 てっきり頑固爺を想像したんだけど違うのか――。


知性の略奪と献上メーティスで記憶を共有したところで、結論を変える可能性は低いと思う。ワシが言うのもなんじゃが変じゃの」


 そうか――いやでも止まっている時間は無い。


「でも会ってみるしかない。ダイヤ侯爵お願いします」


「かしこまりました」


 そうして俺達はコーヒーを飲み干してお店を出た。

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