第344話 いざカルカラへⅡ

「アーツ様。そちらの方はもしかして?」


 そう申し訳なさそうに話に入って来たのは赤い髪をした中年男性だった――。年齢は40前後くらいだろうか。


「こちらは、マーズベルの国主、ナリユキ・タテワキ殿だ」


 すると、男は「おお!」ととてつもなく驚いていた。男と言ってもステータスを視るとペリデニス・ダイヤという名前らしい。クローバー侯爵と言い、スペード侯爵ときて次はダイヤだ。


「彼はペリデニス・ダイヤ侯爵だ。どうか仲良くしてくれ」


「どうか宜しくお願い致します」


「こちらこそ宜しくお願い致します」


 俺とダイヤ侯爵はそう言って握手を交わした。


「私はミク・アサギです、宜しくお願い致します」


「ミク・アサギ殿――確か聖女様と呼ばれているミク・アサギ殿ですよね?」


「そうなっているらしいですね」


 と、ミクちゃんちょっと苦笑い。聖女という呼び名が定着しているが、ミクちゃんはまだ慣れていない様子だ。2人はそう言って言葉を交わすと握手をした。


「いや~・それにしてもお会いできて光栄です。まさか、あのアードルハイム帝国の恐怖政治に終止符ピリオドを打った英雄と出会えるとは」


 そうダイヤ侯爵は喜んでいた――。けど、正直ディアン公爵が創世ジェスだったことがキッカケで、貴族という人間をどうも信用できなくなってしまった。


 心の底から笑えているだろうか――。何か久々に作り笑いをしてしまっているな。


「それにしても今日はどういう要件できているのだ? ヴェドラウイルスは大丈夫なのか?」


「色々分かったことがあるので、今日は誤解を解きにきました。ヴェドラウイルスの件に関しましては、色々とトラブルが起きましたが最終的には落ち着きました」


「そうだったのか」


「ええ。要件に関してはアーツさんの力も必要です。まずは人気ひとけの少ないところに場所を変えたいのですがお時間大丈夫ですか?」


 俺がそう言うと、アーツさんとダイヤ侯爵は顔を見合わせた。


「問題無い。それにここで断ってはお主の顔が丸潰れじゃないか」


「確かに――」


 俺がそう言うとアーツさんはフォフォフォと言って笑みを浮かべた後、ダイヤ侯爵に案内役を要請した。


「私について来てください」


 そう言って入ったのはラウンジのようなオシャレな内装をした喫茶店だった。


「結構人いるな」


「ここは貴族と同等以上の人だけが踏み入れることができる喫茶店です」


「確かにいい匂いですね。それに皆、革靴がピカピカだ」


 ミクちゃんの感想通り、見渡す人々の靴はピカピカに磨かれていた。それに皆、豪華絢爛な中世ヨーロッパの貴族を彷彿させる服を着ていた。カーネル王国で会った時とはまた違った印象だ。


「二階席は個室となっております。どうかご安心ください」


 そんな事より視線が痛い。この人も恐らく有名人なのだろう。それにアーツさんを引き連れているから、「あの2人何者だ?」と小声で話しているのが分かる。それはそうだろうな――服装が明らかに異国の人間だもんな。だってカルカラの貴族の正装? 着ていないし!


 入口から数十歩先の右手にある黒を基調とした階段を上がっていくと、確かに喫茶店なのに、半個室の部屋が14部屋程あった。席が空いている所は黒のカーテンが開いている。


「あそこにしましょう」


 ダイヤ侯爵がそう言って指したのは奥から3つ目の席だった。ゆったりとした快適なソファの上座に俺とミクちゃんは「どうぞ」と声をかけられて着席させられた。


「これ、因みに飲み物はどうやって頼むんですか?」


「特殊な結界が張られておりますので、時期にスタッフが来ます」


 スタッフって言い方――何かものすごく親近感あるんだけど――。


 とりあえず店員が来るまではアイスブレイクで、本題とは関係ない話をしていた。勿論、一番色々と質問をしてきたのはダイヤ侯爵だ。どうやって国を短期間で築き上げたのかとか諸々だ。


「失礼致します」


 そう柔らかい口調で店員は語りかけて来た。


「ご注文はいかがされますか?」


「少し、待って下さい。御二人は何されますか? もしよろしければ、この辺りで採ることができるコーヒーを一度味わって頂きたいのですが」


「じゃあそれでお願いします」


「私もそれで」


 俺とミクちゃんがそう言うと、ダイヤ侯爵は満足気な笑みを浮かべた。


「アーツ様はどうされますか?」


「ワシもトルボラじゃな」


「ではトルボラ4つで。ミルクと砂糖は念のために人数分ずつ用意しておいて下さい」


「かしこまりました」


 そう言って店員は一礼をして去っていた。まあ一番驚きなのはメニューが無いから、何があってどれくらいの値段なのかってのが分からないところだな。


「トルボラはどんな味がするのですか?」


「簡単に申し上げますと深いコクにスパイシーな味わいの中に、ほんのりと滑らかな舌触り――正直説明が難しいですね」


 と、ダイヤ侯爵は申し訳なさそうに、後頭部を手でかいていた。確かに、スパイシーなのに滑らかな舌触りってよく分からん。


「で、来た理由は何があったのじゃ?」


「その前に1つだけダイヤ侯爵に確認があります」


「何でしょうか?」


「サイスト・クローバー侯爵が殺害された事についてどう思いますか?」


 ダイヤ侯爵は「なかなか困ったな質問だな~」と困惑した様子だった。もし敵意があるのであれば、ここで眉をひそめるなりの行動をとるはずだから、ひとまずある程度話しても大丈夫そうだとは思った。けど、まだ信用してはならない。話せるところまで話そう。

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