第315話 Qとの対峙Ⅳ

「よくもやってくれたな! 龍の咆哮ドラゴン・ブレス!」


 俺が攻撃をしようとしたときだった。カリブデウスが口から赤いエネルギー波を発射した。ギイイイイイという耳が痛くなるような超高音が特徴的だ。


「何!?」


 ディアン公爵はそのまま龍の咆哮ドラゴン・ブレスにモロに直撃してしまった。殺戮の腕ジェノサイド・アームから放たれたエネルギー波と比べると見劣りするが、それでも辺りの樹々を吹き飛ばして地形を変えるほどの十分な威力だった。


 俺はそのまま次の一手に出る。


「アンタの血を見せてくれよ」


 俺は右指一本に禍々しくオーラを集中させた。このスキルを発動するときに発せられる禍々しさは不気味だが俺は好きなんだ。


死絶デスペリア!」


 そう唱えて、その禍々しいオーラが集中した右指を左から右に真っすぐ引く。すると、ディアン公爵の腹部から大量の出血をした。


「真っ二つにならんか――」


 俺は魔眼で奴の体を視ると、体内に溢れ出るエネルギーが活発に循環しているのを考えると、 身体向上アップ・バーストを使っているのが分かる。ただ、奴の体内には石のようなものが埋め込まれていた。物体の正体は分からないが、その石が体に信じられない程の パワーを与えている。そのパワーに助けられているから、格下相手ならほぼ確実に体を真っ二つにすることができるこのスキルが、ただの出血だけで留めている。


 ディアン公爵はよろめいているので、俺達の連続攻撃は成功しているようだ。


凍結フリーズ


 俺は魔眼の力を使って奴を凍結させた。今が畳みかけるチャンスだ。


「カリブデウス!」


「分かってる!」


 俺はすぐさま黒翼を展開して倒れているスカーを拾った。そしてそのまま空中に避難する。


水素爆発ハイドロ・ボム!」


悪の混沌玉アビス・カオスボール!」


 カリブデウスが放った無情のアクティブスキル。水素爆発ハイドロ・ボムは、風船程の大きさの水球が猛スピードでディアン公爵に直撃。俺の悪の混沌玉アビス・カオスボールも氷漬けのディアン公爵に直撃した。爆発に巻き込まれないよう、俺の周りと、こっちに向かって飛んでくるカリブデウスにバリアーを張った。


 アルティメットスキルは渾身の力を込めているので、俺の軟弱なバリアーでは気休め程度にしかならないので、バリアーを身に纏いつつ出来るだけ遠くへ逃げることにする。そして、魔物姿のスカーを崖の上に置いた。


 邪悪で禍々しいエネルギーの集合体と、着弾した瞬間に燃え上がる炎――。赤と紫色の不気味な色をした爆発が、周囲の樹々を吹き飛ばした。当然、逃げ遅れている魔物共は全滅しているだろうがな。


「派手にやったな。これで奴は死んだだろ」


 カリブデウスは崖の上に着陸するなり、数キロ先の巨大な爆発を見据えていた。


「いや、多分死んでいない」


「何!?」


「奴の体には特殊な石のようなものが埋め込まれている」


「そうなのか?」


「魔眼で視ているから間違いない。俺の推測では魔石だと考えている。そうそう入手できるようなものではないが、俺の死絶デスペリアで体が真っ二つにならないほど強力な パワーを与えている事を考えるとな」


「しかし、魔石を人間に埋め込むなんて芸当どうやったらできるんだ?」


「魔物や魔族が体内に魔石を宿している個体がいるんだ。人間に埋め込む事も難しくはない」


 すると、カリブデウスが珍しく目を丸くしていた。


「どうした?」


「それだと相当大規模な人体実験を行った事になるぞ?」


「だろうな。魔石は本来人間に適合しないので、体に埋め込むと拒絶反応を起こして死ぬ。他人の事は興味は無いが、奴と戦えば戦う程胸糞悪い思いをする」


「珍しい事言うな」


 カリブデウスは俺の顔をじっと見ていた。


「五月蠅い。それより奴の気配はまだ感じる。ただ体力は相当消耗している筈――様子を見に行くぞ」


「ああ」


 俺はカリブデウスと共に爆発地点まで飛んで行った。それと同時に景色を見ていたが、本当にどこか分からない。広大なジャングル。そして人の気配は全くと言っていいほどしない――。


「本当に何処だろうな?」


 カリブデウスはそう俺に問いかけてきた。


「分からないな。それより奴だ」


 爆発地点で倒れているディアン公爵に俺達は近付いた。魔眼で視る限りは心肺停止にはなっていないものの、肉体は衰弱し切っている。


「死んでいるのか?」


「いや、生きている」


 ディアン公爵の隣には割れている金色蛇の仮面がある。やっとこの男の顔を拝むことができる。


 俺はうつ伏せで倒れているディアン公爵の体を起こした。


「ディアン公爵か?」


 カリブデウスはそう問いかけて来たが俺はコイツの顔を見て頭が真っ白になった。


 前提として、ノックの記憶にあったディアン公爵は、金髪をオールバックにした顎鬚を生やした白人40代の男性だった。しかし、ここにいる男は20代の金髪の男だった。ノックの記憶にあったディアン公爵の顔とは全くの別人だ。


「一体何がどうなっている……」


「影武者か?」


 カリブデウスの言葉で俺は冷静さを取り戻した。


「コイツの心臓を喰らう。状況が全く分からない」


「そのほうがいいな」


 俺は瀕死状態のコイツのはらわたを手をナイフのようにして割いた。そしてコイツの心臓を俺はそのまま食べる。心臓喰らいカルディア・グールを発動した事によってコイツの記憶を辿ることができたのはいいが今までに無いパターンだった。


「コイツの名前と正体は分かった。しかし、使っていたスキルはコイツのものでは無いな」


 俺は珍しく心臓の鼓動が早くなっていた。それはコイツの正体がなかなか狂っていたからだ。


「もったいぶるな。話せ」


「ああ――」


 俺は目一杯深呼吸をした。


「俺達が殺したコイツの正体は一度死んだ人間――名前はサイスト・クローバー侯爵というQキューの正体を追い、Qキューに殺された男だ」

 

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