第308話 南の守護者Ⅰ

「それでここがそうなの?」


「この辺りにあるはずだ」


 フーちゃんに連れられたところは、変わらず森の中で樹々と草木が生い茂っている場所だった。獣道をかきわけながらフーちゃんの後をひたすらついていく。


「あった!」


 フーちゃんがそう言ったので私もその光景を見てみた。まるでマヤ文明のような石造りのピラミッドの古代文明が現れ出てきた。樹々の葉が屋根のようになって空を覆っていたので、確かにランベリオンの飛行で直接ここに降り立つのはうろ覚えだったら厳しそうだ。


「私についてくるがよい」


 高さ10m程のピラミッドの階段をフーちゃんが登って行ったので、私とランベリオンもそのあとについていく。登っていくと上には屋根があって中央には台座があった。そして、その台座の上にはジャッカルの頭を持つ魔物が、右手に杖を持っている30cm程の石像が飾られていた。この石像を見た私の感想としては、アヌビスと瓜二つで違いは一体何なんだろうという事だ。


「この石像――アヌビスと似ているな」


「違いが分からない程にね――」


 ランベリオンと私でそう言っているとフーちゃんが怪訝な表情を浮かべながら私達を見ていた。


「知っているのか?」


「ああ――ちょっとな」


「そうだったか――では始めるぞ」


 フーちゃんはそう言って石像に触れた。説明も無しに始めたもんだから何が何やらサッパリだ。


「一体何が始まるの?」


「見ていれば分かる」


 そう言われて待っていると、まず地面が揺れた。その後は石像の目が赤色に光り始めた。


「この石像から出てくるとかそういうノリか?」


「いや? 呼んでいるのだ」


 フーちゃんが言っていることはイマイチ分からないが、辺りは昼の明るさは消えてしまい、夜のように暗くなってしまった。


 どうやら結界が張られたらしい。しかし特殊な結界のようだ。私も数回した見たことがないけど、結界内と結界外を完全に遮断する効果があるものだ。外との干渉が全くできない――言ってしまえばバトルドームのようなものだ。その結界の大きさは目測で半径300m程だった。


「汝達は何者だ? 余の石像に触れるとはこの国の者ではないな?」


 そう後ろから声がしたので振り返ってみると、そこには灰色の毛をしたジャッカルの頭をした金色の杖を持っている魔物がプカプカと浮かんでいた。そして目は赤色だった――。真紅ではないので魔眼は持っていないかもしれないけど要警戒だ。毛の色が違うだけでアヌビスと何ら変わりない。


「アヌビスと色しか変わらないな」


「私も同じこと思った」


 すると、アヌビスに似たこの魔物が首を傾げた。


「余はアヌビスという名前ではない。サウスだ。それにアヌビスというと――」


 どうやら名前はサウスらしい。南ってそのまま過ぎて驚きなんだけど。


「うぬと同じ顔をした体が黒い魔物だ。金色の杖も同じだな確か」


「――アヌビス様を呼び捨てにするとは万死に値する」


 サウスはそう言ってただならぬ殺気を放ってきた。どうやら私達を殺す気みたいだ。金色の杖には漆黒の光と、緑色の邪悪なオーラが集中していた。


冥光の安楽死インフェルーメン・ユーサネイシャ!」


 そう言って突如として放たれたエネルギー光からはただならぬ邪気を感じた。これは避けないとマズイ――!


「皆!」


 私の言葉に2人は既に反応してくれていた。0コンマ何秒の世界だったけど無事に避けることができた。それほど大きくはなかったので、光はそのまま石像の上を通過して、50m程先にある一本の樹に直撃した。


 スキルの威力はどんなものなのかと見ていたら、驚くべきことに樹が灰のような姿と化して消えてしまったことだ。50m級の巨大な樹が、あったその場所からスッポリと無くなってしまった。一体どんなスキル効果なのだろう――。


「ランベリオン。あのスキル知ってる? 冥光の安楽死インフェルーメン・ユーサネイシャだっけ?」


「我も聞いたことないスキルだ。樹がすっぽりと無くなってしまったのは恐ろしいな」


 だそうだ。ランベリオンも分からないのは非常に珍しい。


「確かあのスキルは地下世界アンダー・グラウンドの一部の魔物が使うスキルだ。このサウスは冥魔めいま族と呼ばれている種族だからさっきの技を得意とする種族のはずだ。効果としては、直撃した生命体の命を瞬時に奪う。なので、痛みすら感じないままあの世に逝くという事だ。植物も例外では無い」


「恐ろしいスキルだな」


「避けて正解だったわね」


 私達がそう話をしていると、サウスは目を細めて私達の事を見ていた。


「今の攻撃を避けるとはなかなかの実力者らしい。全力で殺すことができる。愚かな人間と魔物達よ」


 サウスはそう言って口角を吊り上げた。


 私はサウスの表情を見て背筋に悪寒が走った。条件反射だったのだろうか、私は瞬時に顔をガードしていた。攻撃して来るという予測は的中していたようだが――。


 脇腹――!?


 顔では無く脇腹を蹴られて私は横に吹き飛んだ。


「ミユキ殿!」


 ランベリオンがそう言って飛竜ワイバーンの姿となって私を空中で受け止めてくれた。


「ありがとう」


「いやいや。問題はない。それよりなかなか手強いな。戦闘値は本当に5,000前後なのか?」


「分からないわね。3人まとめて戦ったら勝てると思ったけどさっきの攻撃物凄く速かった。目では捉えきれなかったもん」


「よくガードしたよ。殺気を感じて条件反射でガードしたんだろ?」


「そうよ」


 私はそのままランベリオンに下ろしてもらった。その間にもフーちゃんがサウスと戦っている。剣と杖で空中戦を行っているのだ。この中で唯一飛べないのは私だけ――。


 なら出来ることは――!


「いつも通り。タイミングを見てアレを行うわ。私達も、サウスのスキルは究極の阻害者アルティメット・ジャマーでステータスは視えないけど、それはサウスも同じ事だと思うの」


「何故そう思う?」


「あの戦い方を見ると様子を伺っている気がするの。だから、隙を見て私がサウスを拘束するから、ランベリオンとフーちゃんで畳みかけて」


「分かった」


 そう言ってランベリオンは飛竜ワイバーンの姿のままサウスの方へと突っ込んだ。






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