第300話 脱出を目指してⅣ
「何でこの地下空間にメルム・ヴィジャがいるのよ!」
「我等のニオイを追って来たのだろう」
「呑気に言っている場合じゃないでしょ!」
檻から出れたことは素直に嬉しい――けど助けてくれたのがまさかの親のメルム・ヴィジャだった。私達のニオイを辿って来たのか後ろの壁から、突如として現れて檻をいとも簡単に破壊してド派手な登場だった。檻の外にさえ出ればスキルは使えるのでそれはいいんだけど。
「喰らえ!
と、ランベリオンが口から勢いよく炎を噴射しても、アクティブスキルがオートで跳ね返されるのだ。恐らくというのは、
「待て貴様等! よくも我が息子を殺してくれたな!」
と――まあめちゃくちゃ怒っているんですよ。あの親のメルム・ヴィジャがとうとう来ちゃった――何て可愛いもんじゃない。体表は変わらないけどサイズも違うし、目が6つから8つに増えている。しかも人間の言語を理解できる知的生命体だ。怖すぎて私は半泣き状態だった。
「アクティブスキルが微塵も効かないなんて反則よ!」
「それにミユキ殿の
「それもあるけど、何で私達走って逃げるしかないのよ!」
「特殊な磁場で我が飛べないんだから仕方ないだろ!」
「しかも何で一本道なの!? 有り得ないわ!」
自分でも驚くくらい文句ばっかり出てくる。でも言い訳したいっ! だって本当に逃げる事しかできない――!
「貴様等が止まらないというのなら――」
「ちょっと待って! 何をする気!?」
「ヤバいな――何やら攻撃を仕掛けようとしている! 口元に物凄いエネルギーが集中している!」
「逃げ場無いじゃん!」
「ミユキ殿いつに無く慌てているな」
「逆に何で貴方はそんなに呑気なのよ!」
「そう怒ってばかりだと肌に悪いぞ」
「五月蠅いわね! 何か打開策考えてよ」
「あ――ヤバい来る」
ランベリオンが私の話をガン無視してそうポロっと声を漏らしていた。何がヤバいのか言ってほしいし、ランベリオンの顔が一気に青褪めた。え? ちょっとどうしたの!?
「ミユキ殿! もっと走って上に大きくジャンプして天井を突き破るぞ!」
「え? 待って天井突き破れるの?」
「逃げ場はそこしかない!」
もう一か八かでやってみるしかない!
「
「今だ!」
後ろからとてつもなくひしひしと感じる巨大なエネルギーに赤い光が私達を包み込んだ。
耳をつんざくような轟音と共に私達は巨大シェルターのような鍾乳洞の天井を突き破って見事に地上に出ることに成功した。
それと同時にランベリオンは飛行可能になったようだ。瞬時に空中で
「有難うランベリオン」
「構わない。それよりこのまま一旦ヴァース島から離れよう。任務は中止だ」
「そうね。思った以上にヤバいわ」
私はそう眼下を見下ろすと、禍々しい黒の雷を纏っている赤いエネルギー波は、森の木々を破壊していた。驚くべきなのはその攻撃範囲だ。横幅だけでも50m程ある破格の攻撃範囲。それに攻撃自体は数キロ先の木まで破壊しており、地下にあった鍾乳洞は丸見えになるほどを地上を抉っていた。
「凄い威力だな」
「桁違いの威力だわ。あと、タテワキさんには悪いけど戦力不足ね」
「そういう事だ。別にナリユキ殿は無茶を望んでおらんからな」
「そうね」
そう話をしていると地上から怒号が聞こえて来た。
「おのれ人間! 逃げるな! 飛ぶな!」
地上にいるメルム・ヴィジャは全長およそ70m程ある巨体だった。あんなに巨大な虫は本当に嫌だ!
「何か言っているがアクティブスキルが効かん魔物は流石に勝ち目が無い」
「次来た時にまた会ったら
「そうだな。その状態なら我の炎でも焼き尽くせるだろう。さあ行くぞ!」
ランベリオンのその言葉で私達はこの場所から離れた。巨人族がいた海岸は避けて違う方角として島の隅に行った時の事だ――。何故かランベリオンの体が、またしてもクッションのように跳ね返った。
ランベリオンは必死に何度も出ようと試みたが――。
「出れない」
そう涙声になりながら私に訴えて来た。
「どうなっているの?」
「もしかしたら我等はこの島に閉じ込められたのかもしれない」
「笑えない冗談を」
「そうだな」
そう言って2人で呑気に笑っていたけど、次第に悲しさが爆発しそうになってきた。
「ピンチじゃない? 私達」
「うむ――そうだな。とりあえず安全な場所を確保する必要があるな。あと、あのメルム・ヴィジャは一生追いかけてくるだろうな」
「嫌な事言わないでよ――合ってるけど」
もう何か嫌だ。何でこんな任務を受けたんだろう。別にね? 普通に戦闘はいいんだよ? ただね? メルム・ヴィジャみたいな虫がランベリオンの背中に乗って下を見るとまあ結構いるのよ。
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