第291話 脱出を目指してⅡ

「普通に出ることはできないから無難に見張りが来た時にチャンスを狙うくらいかしら」


「見張りがいつ来るか分からないがな」


 と、少し微妙な反応をしている。


「そう言えば飛竜ワイバーンの特性って何か無いの?」


「飛ぶ事と火をエネルギーに変えることくらいだな。飛竜であって火竜ではないからな。火竜だと特性で火を操ることができる。例えばあそこにある松明を操ってここの檻に当てるとかな」


「そうか……」


 私は肩を落としながら改めて辺りを見渡した。鉄の檻はまだ真新しいようだった。それにこの空間の石で出来た天井にすっぽりと入るような檻の高さだった。それに横幅は4mほどあるので、檻なのか牢なのかもはや分からない。


「ん? コレは何だ?」


 ランベリオンが何か見つけたようだ。ランベリオンがいるのは壁際のちょうど左隅。そこで何かを見つけたようだ。


「どうしたの?」


「この檻のちょうど角の溝があるだろ?」


「まあ檻だから当然あるわね」


 私はそう言いながらランベリオンが指している場所を一緒に眺めた。


「微妙に色が違うだろう?」


 こんな暗いところでよくそんなの見つけたなと思いつつ凝視してみた。


「ん~? もはや気のせいレベルなのによくこんなの見つけたわね」


 見始めたら分かると言う感じだろうか。確かに真っ黒な檻なのに本当に微妙に色が薄いと言った感じだ。絵具で言うところの水を気持ち多く付けてしまった――そんな感じだ。


「まあ製造するときの塗料の問題だと思うんだけど。ていうかよくそんなの見つけたね。もはやクレームを言いたいだけのクレーマーみたい」


「酷い言い草だな」


 ランベリオンはそう言いながらその箇所に触れた。すると、ガシャンと何かが外れた音がした。


「何かしら?」


「これがこの檻から出ることができる鍵になっているのか?」


「そんな都合いい事ある?」


 とか言いながら本当にあり得そうだ――。


「だとしたら脱出作戦というより謎解きになってしまうわね」


「確かに――とりあえず何箇所あるかは分からないがこれをと同じところを探してみよう」


「そうね」


 ランベリオンとそう決めて私達は檻の隅を手分けして、同じような色をした箇所を探した。体感1時間程探して見つけたのは私で3箇所。ランベリオンで2箇所だった。


 集中力が切れてぜえぜえと息を切らしてた。


「駄目だ――」


「疲れた。何個あるのかしら」


 思ったよりキリが無い――。何があるのかも分からないし、その仕掛けが何個あるかも分からない。どれだけ探しても今のところは合計6箇所しか無いのだ。


「ミユキ殿――もしかして順番があるのではないか?」


「――無音でリセットされているの?」


「そういう事も考えられないか?」


 確かにあり得る――。


「骨が折れるけど試してみる?」


「勿論だ」


 ランベリオンとそう言っていると、コツコツと足音が左の方からした。


「誰かしら?」


「ご飯だろうか?」


「何でそうなるのよ」


 テヘっと照れるランベリオン。ごめん可愛くない。寧ろちょっとイラっとする。


「起きていたか」


 そう言って近付いて来たのはRアールだった。200cmのくらいの大柄に両手の義手――殺戮の腕ジェノサイド・アームだ。


「よく出来ているわねここの檻」


「ほう――出して欲しいと懇願はしないのか」


「言っても無駄でしょ?」


「確かにそうだな。いや、閉じ込めた人間は必ず出せと懇願するものだから少し感心しただけだ」


「感心したのなら出して欲しいかな?」


「それは無理だな」


 と――あっさりと断られた。そりゃそうだ。


「ここに閉じ込めて我等を一体どうする気なのだ?」


「どうだと思う? まあ一通りの事は報告を受けているからな。まずは何故我々を嗅ぎまわっているか聞こうと思っていてな。どこで我々の情報を知ったんだ?」


 そう問いかけられたので私は一度ランベリオンと目を合わせた。小さく首を振っている。


「答える義理は無いわ」


「ほう――今ここで質問に対して正直に答えてくれれば痛め目に遭わなくて済むのだが?」


 私はそう脅された。拷問という言葉は私にとってはトラウマでしかない――。アードルハイムにいたときは他の人に比べたらまだマシだったけど、隊長になる前は何度か受けたことがある。


「どこだ? 我が行こう」


 ランベリオンはそう答えた。しかし、Rアールは首を横に振る。


「残念だが2人共だ。さあどうする?」


 仮面を付けているので表情は分からないものの、何となく口角を吊り上げて話しかけているんだろうなと思った。


「いいだろう。答えてやる」


「ちょっとランベリオン!」


 私がそう怒るとランベリオンは「大丈夫だ!」と返して来た。何が大丈夫なのかサッパリ分からない。


「どこでうぬ等の情報を手に入れた? という質問だったな」


「ああ」


「確か~」


 そう言って何やら思い出すフリをしていた。


「ログウェルの商人に聞いたのだ。あっているよなミユキ殿?」


「ええ」


 ちょっと待って正直過ぎない!? いや、ロビンさんは情報屋だからいいのかしら?


「ほう。ログウェルのどこだ? 何という名前の奴からその情報を聞いた?」


「流石に何処かは覚えていない。如何せんログウェルは土地勘が無いのだ。それに道端でたまたま会った人間からの情報だったからな。名前はヴァインだったかベインだったか――」


 ランベリオンはそう言って「う~ん」と唸っていた。どこからそんな適当な名前が思い浮かぶのよ。流石口が達者な飛竜ワイバーンだ。


「信用できないな」


 そう一蹴された。


「ペラペラと情報を話す魔物に信ぴょう性などない」


 ごもっともな意見だけど、話せって言っておいてそれは無いんじゃない? この人なかなか手強いわね――。




 

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