第289話 やり遂げるⅡ
ナリユキ君達の戦闘がどうやら終わったようだ。あとはこのアグリオスのみ! 数で言うと圧倒的に有利だ。だからここから負けることはまずない。何かあっても最悪ナリユキ君が倒してくれる。けど、それはただの甘え。何よりせっかくの強敵なんだから、私としてはこのアグリオスを倒して戦闘値を上げたかった。それにスキルも私に適合するものがあるはずだ。やってやる!
「ハア……ハア……」
アグリオスは大分弱ってきたようだった。それもこれもアリシアさんが足を集中的に攻撃をしていたからだ。
「おのれ……」
もう何度も「おのれ」って聞いているな~とか呑気に思いながら、私はアグリオスにレイピアを向けた。
「覚悟しなさい。もう貴方達の野望は終わりよ」
「五月蠅い!」
そう言ってアグリオスは私に向かって槍を振り回して来た。攻撃がもはやパターン化していてMMOのボスのように思えてきた。別にゲームじゃないのに。
私はアグリオスの連続攻撃を避けながらレイピアを鞘に納めた。目を瞑りながらアグリオスの連続攻撃を避けて精神統一をしていた。そして居合抜刀――。
私の風林一閃は見事にアグリオスの右腕を斬り落とした。アグリオスの断末魔が響いている。
「アリシアさん!」
「はい!」
アリシアさんは大きくジャンプしながら
「な――何をする!」
アグリオスのあの慌てよう――もうスキルが無い状態だ。私は掌に光のエネルギー集中させた。
「残念だけどもう何もできないわ」
すると、アグリオスは私の方へ振り返るなり、私に対して「止めてくれ!」と強く主張していた。
「命乞い? 残念だけど貴方に関しては信用できない――」
「止めろ!」
ここまで恐怖している人を見るのも久々な気がする。少し心苦しいけど暴れられたら手が負えないもんね。
「
私の掌から放たれた極大で美しく輝く光――その光は見事アグリオスの上半身を吹き飛ばした。勿論首も跡形もない。ただ、アグリオスの下半身が虚しく倒れるのみだった。
私が倒した事で下にいる皆は大いに盛り上がった。それに――。
「ミク様! 今の
と、目をキラキラと輝かせながら私の手を持ってブンブンとアリシアさんが振り回していた。何この喜びっぷり――アリシアさん可愛い。
ちらっとナリユキ君を見た。するとサムズアップをしてくれた。
「そんなに大きかったですか?」
「ええ! あんなに巨大な
と――もう大興奮。確かに自分に
「さあ皆の所へ行きましょう」
「かしこまりました!」
私がそう言うとアリシアも後ろからついてきた。これで一件落着だ!
私がナリユキ君の胸にそのまま飛び込むと、ナリユキ君は私の事を優しく抱きしめてくれた。そして皆は私とアリシアさんを拍手で迎えてくれた。やっと終わったんだ――!
そう思うとものすごい達成感を感じることができた。本当に良かった!
◆
「うっ……」
頭がぼっ~とする。それに頭痛が酷い――。
寒気も少しするし、目をゆっくりと開けると目の前には廊下があり、鉄の檻に閉じ込められているようだった。何で鉄の檻――?
そうだ! 私はあの
「起きたようだな。ミユキ殿」
ふと、声のする右の方を見た。ランベリオンは私の顔を見るなり様子を伺っている。
「少ししんどそうだな」
「ええ――状況が分からなくて」
「なあに。単純な話だが絶望的な話だ」
「単純で絶望的? どういうこと?」
「手は自由だろ?」
「確かに」
私は手枷も足枷も付けられていないことに違和感を覚えた。本来であればスキルを出せなくするのが――あれ? 全然出ない。
私が呆然としているとランベリオンはコクリと頷く。
「どうやら気が付いたようだな。そう――我等はスキルが発動できない檻の中に閉じ込められてしまったのだ」
私はそれを聞いて思わず苦笑いをしてしまった。
「ランベリオンの力じゃこの檻どうにかなるんじゃないの?」
「どうにもならん。できるだけ廊下側に近付いて檻に触れようとしてみるんだな」
そう言われたので私は廊下側に近付いては手を差し伸べてみた。すると、ぷにっとした柔らかい感触だった。まるでマシュマロみたいだ。何だろうこれ――。
「そういう事だ。一度殴ってみるとよい」
「ええ」
私は言われたまま見えない壁を殴ってみた。するとクッションのように私の拳は包み込まれるだけだった。
「これって――」
「ものすごく固いより
「そうね。完全に運頼みって事か」
「そうなるな。まあ見ての通り何もない空間だからな」
ランベリオンにそう言われて檻の中を見渡すと本当に何も無い空間だった。ドラマとかでよく脱獄を試みるシーンがあるけど、そんな事ができそうではなかった。勿論、私の小太刀もランベリオンの刀も奪われている。私は小太刀に強い思い入れは無いけど、ランベリオンの刀はタテワキさんから貰った刀らしく、何やら炎が出てくるらしいのでさぞ貴重な物だと思う。奪われてしまったと思うと残念でならない。
外の廊下は松明があるのみ。そしてこの異様な空気の冷たさは地下のままだろう。とすると、あの鍾乳洞のどこかになるのだろうか――。
「寒そうだな」
私は気が付けば体をブルブルとシバリングをさせていた。それを見ていたランベリオンが私に真紅のロングジャケットを貸してくれた。
「いいの?」
ランベリオンは黒いインナーシャツに、竜のネックレスという出で立ちだった。他の人から見れば若くて格好いい青年だと改めて思う。
「我は別に良い」
「そう――ありがとう」
ランベリオンも
暖かい――。
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