第275話 第2ラウンドⅢ

「どういうことだ?」


「そのままの意味だ。そもそも何の作戦も立てずに正面から突っ込むと思うか?」


 確かにそうだ――。そう言わざるを得なかった。ただ、しかしもしそうだとしたらいつ潜入されたんだ? そもそも敵は誰なんだ?


 俺はそう考えているとマカロフ卿が放つ鉛弾を喰らってしまった。


「流石の貴様でも動揺は隠しきれないか」


 そう言ってマカロフ卿は、コルト・パイソンとマカロフの二挺持ちデュアルハンドで俺を撃ってくる。こうなったら吐かすしか無い。


 俺がギロリとマカロフ卿を睨むと、マカロフ卿は「あ?」と睨んできた。


「この勝負に決着ケリをつけよう。もうちんたらするのも嫌だしな」


「何をする気だ……?」


 マカロフ卿はそう言って警戒をしていた。但し、その警戒は無駄だ。


 俺は転移テレポートイヤリングを使ってマカロフ卿の後ろに回り込んだ。もう何度も後ろをとっていたからだろうか。マカロフ卿は顔を左に傾けて俺の右手を避けた。しかし避けた先には俺の左手がある――。


「クソっ! どうなっていやがる離せ!」


 俺はマカロフ卿の頭を掴んだ。


 悪魔との機密契約イビル・コントラクト――。一度使用者が対象者の頭に触れると、スキルの使用者が途中でキャンセルをするか、契約を終えるまで対象者の頭を離すことはできないというスキル。当然、馬鹿力を持っていてもその悪魔的な力で対象者を離すことはない。


「まさかこれは――!?」


 マカロフ卿は知っている――。いや――魔物の国の国主がアードルハイム皇帝のスキルを手に入れたことは、全世界の新常識となったのだから。


「やられるのは初めてだよな? マカロフ卿」


悪魔との機密契約イビル・コントラクトか!?」


「ご名答だ。今からアンタと俺の間で契約を行う。勿論破った人間は死ぬ。悪魔が互いの心臓を握るスキルだからな。覚悟はいいか?」


「おのれええええ……」


 まあそう言うだろうな。俺でもそう言うわ。


「なら、契約開始だ。マカロフ卿――さっき言っていた奴等とは一体誰で、何人で、マーズベルのどこに、何の為に襲撃を仕掛けたんだ? それを答えてもらうのだが条件だ。大丈夫だ。本当に知らなければ知らないという回答でも命を奪われることは無い」


 マカロフ卿は黙ったままなので俺は続けた。


「その代わり、俺がアンタに提示する条件としてはアンタの城にヴェドラウイルスの瓶をばらまき、メリーザを重症化させたかどうかだ?」


「メリーザについて? 貴様がやったと認めるのか?


「いや、そうじゃない。あくまでメリーザ達が感染したヴェドラウイルスの真実を伝えるだけだ。俺が嘘を言ったら当然死ぬから問題無いだろ? マカロフ卿――アンタが一番知りたい情報のはずだ」


 マカロフ卿は何かを言いたげだったが――。


「好きにしろ。こうなった以上私が抵抗できないのは始めから決まっている事だ」


 そう小さく呟いた。


 その瞬間、俺とマカロフ卿の心臓は得体の知れない何か掴まれた気がした。これが命を握られるという感覚か。自分でやっといて何だが気分が悪くなるな。


 俺は呼吸を整えた。


「ではまず、マカロフ卿。アンタからだ」


「そう言えばそうだったな」


 マカロフ卿は半ば諦めていた。この口ぶりからすると悪魔との機密契約イビル・コントラクトを仕掛けている場面を見たことがあるのだろう。


「アグリオスという男が中心の巨人族が5人。亜人あじん族が10人マーズベル山脈に襲い掛かっている。目的は山脈にある鉱山と鉱脈を奪取し、そこに眠る破壊の石を奪いマーズベルを亡ぼすことだ」


 それはマズい――。それに巨人族とか亜人あじん族とかこの世界に来てまだ一度も聞いたことが無かったぞ? それに破壊の石って何だよ。そんな危なそうな鉱石があるのランベリオン言ってなかったぞ!


「て――事は」


「今頃飛竜ワイバーン共は死んでいるかもな。まあ、そうでなくとも瀕死状態だ」


 マズい。そんなヤバそうな奴等ロドベルト達の実力じゃ勝てないぞ。それにアリシア達も向かっている。


「ミクちゃん! 今すぐに飛竜ワイバーンの住処へ向かってくれ!」


「分かった!」


「無駄だ。今から行っても遅い。それにアサギ・ミクの実力で勝てるかどうか……」


 マカロフ卿がそう言っている間にミクちゃんは転移テレポートイヤリングを使って姿を消した。


「何? 転移テレポートが使えるようになったのか!? 確かに使えても違和感は無いが――」


 ――マカロフ卿ってたまに馬鹿だよな。ワイズがいたら「アホかテメェは!?」とか言われていそうだけど。


「さてな」


 こう言っておけばマカロフ卿は勝手に転移テレポートを使ったと思ってくれるだろう。いや、楽だな本当に。でも、ミクちゃんの実力はマカロフ卿も分かっている筈だ。そんなに巨人族というのはヤバいのだろうか?


「次は貴様だぞ。ナリユキ・タテワキ」


「アンタ達の所へはヴェドラウイルスを撒いていない。それにアンタ達の城へ連行される前から俺の国はヴェドラウイルスでバタバタしていたんだ。魔眼を持っているレン・フジワラがいたから、俺を含めた城へ潜入した人間が、ヴェドラウイルスに感染していなかった。つまり、意図的にも故意的にもアンタ達の城の中にいるネズミ一匹ヴェドラウイルスに感染する可能性は0%だ。アンタの記憶を、知性・記憶の略奪と献上メーティスで奪った際に知った。ほら記憶が一部欠けているだろ? どんな顔をした奴がどんな状況で城を襲ったのか……」


 するとマカロフ卿は確かにと呟いた。


「ランベリオンとミユキ・アマミヤの顔をした何者かがヴェドラウイルスが入っている瓶をスモークと混ぜて菌を拡散させたようだ。俺の命令でも無いし、扮した人間であってランベリオンとミユキ・アマミヤ本人達ではない」


 俺がそう言いきり数秒した後、互いの心臓を掴んでいた悪魔との機密契約イビル・コントラクトは終了した。どうやらマカロフ卿も嘘はついていないらしい。


「まさか……では一体誰が!?」


 俺がマカロフ卿の頭を掴むのを止めると、マカロフ卿は俺には攻撃を仕掛けず、頭を抱えて何かを必死に思い出そうとしていた。俺はこの件についての考察とマカロフ卿から奪った記憶を知性・記憶の略奪と献上メーティスで共有した。

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