第270話 ナリユキVSワイズⅠ

 俺が着いた頃にはベリトとレンさんは息を大きく切らし、額からも出血をしていた。レンさんは魔眼で回復ヒールを行えるはずだが、使っていない状況を考えると、相当なダメージを負っているので、MPの消費量が激しい魔眼での回復ヒールは都合が悪いのだろう。


「ナリユキ様申し訳ございません」


 ベリトが息を切らしながら戦う姿――俺がベリトを倒した時以来じゃないのか? ここまで苦しそうな表情を浮かべて戦っているのは。


「大丈夫だ。格上相手によく戦っているよ。あとは俺に任せろ」


 俺がそう言うとワイズは気に食わない表情を浮かべていた。


「メリーザがどうなろうが知ったこっちゃねえが、イライラが止まらないぜ。仮にもマカロフは黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドの長だ。こんな人間に負けるなんてよぉ……虫の居所が悪いぜ」


 ワイズはそう言って腕を肥大化させていた。その太さはまるでゴリラのような屈強な太さだ。それに歯も鮫のように鋭くなり、たくましい足はT-REXを彷彿させる。


「おいおい潜在能力恐ろしいな」


 俺が苦笑いを浮かべていると、ワイズはニッと不敵な笑みを浮かべていた。


「俺様は常に高みを目指しているからな。あのポンコツな人間とは訳が違う」


 そう言ってみるみる巨大になるワイズは3m程の巨体へと変貌した。少々姿が変わるのはいいけど身長まで伸びるのは止めてほしい。それに戦闘値は6,800ときたもんだ。


「コヴィ―・S・ウィズダムさんの傑作という訳か」


「さん? あの爺の事をさん呼ばわりか!」


 いかにも不服そうな表情を浮かべるワイズに俺は驚いていた。自分の生みの親なのにそれほど嫌なのだろうか?


「何かあったのか?」


「殺してやる」


 俺の問いかけなどガン無視で襲い掛かって来たワイズ。正直、こんなのが部下にいたら大変だな~。そうマカロフ卿に少しばかりであるが同情をしてしまった。


 俺はAA-12を取り出して早速ワイズの顔面に向かって連射した。しかしそれらの攻撃は全て無効化されてしまった。ワイズはマカロフ卿と同様に、見た目は特に普通の体に見える鋼の体Ⅴを持っているが、さらに部分的に鋼鉄化することができる防御のアクティブスキルを持っている。体はメタリックになり、且つ戦闘では必須スキルと言える身体向上アップ・バーストを使っていることによって、体に与えられるダメージはほぼ無傷だ。さっき視た時と比べてスキルが追加されているから、相当ややこしいぞ。


 強靭な腕を振りかざして来たワイズ。まるで空間を切り裂くような攻撃は、咄嗟に危ないと感じて後ろに大きく跳んで避けた。


「ナリユキ様――何故、今の攻撃を避けたのでしょうか?」


「何や、あんさん邪眼じゃ見切れんかったんか」


「ええ」


「奴のさっきの攻撃は物理攻撃と斬撃に値する攻撃やった。それにほら? アイツが切り裂いたあたりの場所見てみ?」


「あ――成程」


 そう2人は呑気に会話しているけどこっちは必死なんだよ。ほんの数0.5mmとかの世界だけど、あいつが切り裂いた空間は何故か割けている。そんな得体の知れない攻撃をモロに喰らったらどうなるか分からん。


「魔物の国の国主様でも流石に今の攻撃は避けたか」


「悪いかよ。空間を切り裂く攻撃なんて聞いたこと無いぞ」


「ほう。流石に見えていたか」


 ワイズはそう口角を吊り上げた後、今度は俺の事を睨めつけて来た。


 俺は見事に炎に包み込まれたが、生憎、熱無効Ⅴと熱変動耐性無効Ⅴが付いているので俺に全くと言っていい程効かない。


 しかし続きは体がズタズタに引き裂かれてしまった。まあそんな攻撃は俺に効かないけどな。


「貴様――スライムのように不死身の体なのか?」


「そういうことだ」


 俺はズタズタに引き裂かれた体は元通りに再生し、念のため手をグーとパーをして動くかどうか試した。


「さっきの2連続の攻撃は怒りの冷眼コレードル・アイだな。ったく面倒臭いスキルだな」


「このスキルは俺様に一番相応しいからな」


 まあ、アンタ年中キレているもんな――とは言えない。ここで激昂されてもし俺のパッシブスキルで防ぐことができない怒りの冷眼コレードル・アイのスキル発動したら一溜まりもないからな。


「まあお似合いじゃないかのか?」


 俺はそう言いながら20m程の岩山をワイズの頭上に出現させた。ワイズの頭上に手を向ける訳でも無く、ごくごく自然に掌を返し、ワイズの頭上の方向に掌を向けていた。


「なっ!?」


 ワイズはそのまま岩山に埋もれてしまった。全く。正義のヒーローとは思えない不意撃ちだぜ。


「流石ナリユキ様!」


 ベリトはそう喜んでくれていたが、レンさんは首を左右に振っていた。あ――普通に生きているのね。


 紫色の閃光が岩山から放たれたと思った瞬間だった。岩山は粉々に粉砕されてワイズがぜえぜえと息を切らしながら出て来た。


「やっぱりなかなかの化物だな」


 俺がそう苦笑いを浮かべていると、ワイズは俺の顔をキッと睨んできた。


「随分と舐めた真似をしてくれるな」


「こっちとしたらあんな簡単に岩山を破壊されるのは勘弁なんだけど」


「ほざけ!」


 そう言われて無詠唱で飛ばして来た邪悪で巨大なエネルギー光。


 今まで見た中で一番巨大な悪の破壊光アビス・ディストラクションだった。

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