第250話 ボスとQⅡ

「対策? それはどういう対策だ?」


「それは企業秘密というものだ」


「真似をされたら困るというものか?」


「いや違う。単純にこの話を誰かに盗み聞きされていては困るからな。重要なところは隠しておきたい」


 盗み聞き? もしかして私の存在がバレている――? そう思うと心臓の音がどんどんと大きくなってきた。冷や汗も流れてくる。


「盗み聞き?」


「ああそうだ。マカロフ卿は転生者なんだろ? 監視カメラとやらは便利らしいからな」


「うちの部下にスパイがいると言いたいのか?」


「そういう訳ではない。必殺技は隠すものだろ?」


 すると煙草を大きく吐いて舌打ちを鳴らした。


「分かった。もういい。それより少し聞きたいことがある」


「聞きたいこと?」


「お前なら次はどう打つ? ナリユキ・タテワキに対してだ」


「何故私に訊く?」


「お前は狡猾な男だ。皆を騙して陰で暗躍している。それこそ知能だけなら私と同等レべルだと思っている」


「そうだな」


 Qキューはそう一呼吸置いた。


「シンプルにヴェドラウイルスが蔓延するのを待つだろう。そして森妖精エルフの結界が弱まったところを、アヌビスに先陣を切ってもらう」


「それだと私と考えている事は同じようだな」


「ああそうだ。現状ではどう転がってもそれが最善策だろう。だから我々とアンタ達は共依存ということになる」


「特にお金のやり取りもしていない協力関係とは泣けるな」


「それだけ敵が強大ということだ。アンタ達の失敗は大きい」


「それは私を責めているのか?」


 コードボスの声が急に低くなった。


「そうではない。これからどうするかがポイントという訳だ。次は失敗は許されない」


「そうだな」


 コードボスはそう言いながら煙草を灰皿に押し付けているようだ。


「とりあえずまた手を打つのでそれまでは待っていてくれ」


「分かった――が、いちいちここに来るのは不便じゃないか?」


「確かにな」


「これを買ってくれ」


 そう言って見せた物は一体何なのだろう?


「ほう――遠くまで声が聞こえるアーティファクトか」


「マカロフのツテを使って最近完成させた代物だ。あまり出回っていないので、持っている人間はごく僅かで、お前が連絡できる相手はそのアーティファクトを持っている人間同士なければならない――つまり、お前は私にしか連絡ができないということになる」


「それでお金はどれくらい取るんだ?」


「金貨5枚だ」


「アンタとしか連絡できないなら寧ろ高く感じるが物はいいからな――しかし私の人脈なら拡販できそうだ。私が仕入れて他の顧客に売ってもいいのであれば契約はするぞ?」


 すると、コードボスは相変わらず食えない奴だと言い捨て「いいだろう」とQキューの要望に応えた。


「金貨6枚で売るがいいな?」


「金貨5枚をうちに払ってくれるならそれでいいさ。では契約書にサインをしてくれ。お前の要望も追加で記入した。そして一番重要なのは声が聞こえたらお金を払うことだ」


「いいだろう」


 Qキューが紙に毛筆でサインをしている音が聞こえた。


「これでいいだろ?」


「ああ。間違いない。お前の本名だな」


「私の本名はごく僅かしか知らないんだ厳重に保管しておいてくれよ」


「分かっている。マカロフの言葉を借りるとお前とは秘密保持契約書NDAを結んでいるからな。個人間のやりとりではなく、あくまで組織として動いている」


「そういうことだ。もし破ったのであれば法廷であうことになる」


「面倒ごとはゴメンだ」


 コードボスはそう言っていた。いつものクセなら両手を大きく広げてリアクションを取っている事だろう。


「画期的な発明だからロングセラー商品になりそうだな。このフォンというアーティファクトは」


「そうだろ? 我々のように財力がある者なら必ず欲しがるだろう。最も、念話のスキルが無い人間に限るがな」


「それでこそマカロフ卿やナリユキ・タテワキのような化物の転生者ではないのだ。こういったアーティファクトに頼るしかないだろう」


「それもそうだ。では上手くやってくれよ」


「ああ」


 どうやらQキューコードボスと一緒に部屋を出たようだ。今回の話でナリユキ・タテワキに報告をしなければならない事が沢山出て来た。しかし、ナリユキ・タテワキがこの国にいなければ意味が無い。念話を試みて無理ならば、この森の魔物に頼むしかない。


 肝心な事は念話をする場所だ。あの小屋に行くしかないか――。


 私は転移テレポートを使ってこの城の近くの小屋に移動した。部屋の中にはテーブルと四脚の椅子と紙と筆しか無い10畳ほどの小屋だ。椅子の配置が少し変わっている事を考えると、ナリユキ・タテワキ達が使っていた可能性が高い。兵士5人は戦力外になるから途中でここに逃がしたのだろう。ここは私が1人になりたいときにひっそり作った小屋だから目の付け所はいいと思う。


 私はナリユキ・タテワキの顔を思い浮かべて必死に話しかけてみた。残念ながら応答が無かったことを考えると、今はログウェルの国にはいるが出られない状況なのか、ログウェルにはいないかだ。


 仕方ない――。


 私は筆を取って報告しなければならない事を紙に綴った。勢力は私達とQキューと名乗る男の組織。そしてその組織とコードボスは協力関係を結んでいること――マカロフ卿が知っているかどうかは分からないことも付け加えておこう。そして最後にはヴェドラウイルスの対策を講じる事ができる幻幽蝶げんゆうちょうの効果を打ち消すことができる効果を発揮できる何らかの対策をQキューが考えている事。そしてナリユキ・タテワキの情報が漏れている事――。近辺にスパイなり諜報員なりがいるはずなので炙り出すことが先決だ。


 これでいいでしょう。


 しかし、私は迷った――。伝えるのはいいけど肝心なナリユキ・タテワキの所有物がない――。


 あるのは――この小屋にある幼少の頃の私とアリシアが写ったあのペンダントだ。 

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