第246話 プチ満喫Ⅰ

「で、どうする?」


「勿論、お願いしたい」


 俺がそう言って金貨を出そうとすると――。


「いや、俺も今までなら貰えるものは貰っておこうというスタンスだったが、アンタには色々借りがあるのでな。正直なところ、あの黒い化物はどう考えても俺では勝てなかったが、アンタは互角――いや、それ以上で戦闘の繰り広げていた。ただ、俺達が足を引っ張ってしまってしまったから、アンタは捕まってしまった。そうだろ?」


 そう訊いて来たカルディアの髪の間からは、真紅の両目が俺を真っすぐ見ていた。


「そうだな――つか、嘘ついてもバレるもんな」


 俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、カルディアは「そうだ」と一言。


「心の中と、外に出す言葉が違っていれば信用ならんからな。ただアンタは信用できるし、俺とは違った価値観を持ちながらも今の無事な姿で戻って来た。正直驚いたよ。だからその頼みは無料タダでいい。なあ?」


 カルディアはそう言ってカリブデウスとスカーにそう訊いた。


「我は少額でもいいから貰うべきだと思うぞ? そもそもこれはギルドのシステム上必要なのだ」


「拙僧はどちらでもよい。好きにせい」


 カリブデウスとスカーがそう言うとカルディアは――。


無料タダでいいそうだ」


 あれ? この人はカリブデウスの話聞いていた?


「貴様ふざけるな! 我の意見は無視か!?」


「あ? 何か言っていたか? 悪いな。最近耳が遠くてな」


「嘘つくな! 貴様、異常聴覚が付いているではないか!」


 と、突如として始まる子供のような喧嘩だ。ミクちゃん、ベルゾーグ、アリスに関しては唖然としていて、冒険者達は「いつものが始まったぞ!」と大盛り上がり。ルミエールはクスっと笑っているし。


「よさないか! カーネル王様とナリユキ閣下の目の前だぞ!」


 そう割って入ったのは1人のルミエールの護衛兵士だった。すると、カルディアは「あ?」と言って睨みをきかせていた。


「分かった分かった。めちゃくちゃ間を取って銀貨1枚ずつでどうだ?」


 カルディアは数秒考えると――。


「いいだろう。アンタがそういうなら仕方ない。カーネル王問題無いな?」


 すると話を振られると思っていなかったルミエールが体をピクリと反応させて、世話しなく答えた。


「ああ。問題無いよ」


 ルミエールはそう言って胸を撫でおろす。


「ルミエール。何で焦っているんだよ」


「いや……だって……」


 しどろもどろになっているルミエールを見ているとカルディアが――。


「俺の事が……いや、やっぱりいいか」


 カルディアはそう振り返って「じゃあな」と言ってギルドの入口へと進んでいった。その後にカリブデウスとスカーがついていく。


「今回は前払い無しという事で。ではまた」


 最後尾のスカーがそう言い残すと3人の姿は無くなっていた。結局、ルミエールはカルディアの事をどう思っていたんだ? 分からん。


「じゃあ私達もギルドでカルディアさんが持ってきてくれた疫病竜ヴェドラの頭を食べよう!」


「折角だし頂くか。頭――何か気が引けるな」


「あれ? ベルゾーグさんって元のサイズの時に怪鳥の事をバクバク食べていたじゃないですか。ナリユキ様が来る前」


「た………確かに」


 ベルゾーグはアリスの言葉に何も反論できないでいた。今は人間のサイズだからいいけど、元のサイズが体長20mくらいだから、食事量半端ないもんな。それを考えると人型化ヒューマノイドってめちゃくちゃ便利じゃね?


「じゃあ部屋を案内するよ。食事についてはその頭を貸してくれたら、コックに渡して副菜なども諸々つけて部屋に持っていくよ」


「じゃあ頼む」


 俺がそう言うと、ルミエールの護衛兵士の1人が疫病竜ヴェドラの頭を受け取った。


「じゃあこれを厨房に持って行って。これと相性が良いコース料理を作ってあげて。料理が完成したら特別ルームに持ってきて」


「かしこまりました」


 兵士はそう一礼をすると何やら奥の方へと消えていった。まあ、冒険者が飲み食いしている料理も、全てここのギルド本部の厨房が作った料理だから、聞いた話だと美味しそうだったもんな。


 ビールだけを飲んでいるパーティーもいれば、難しい任務をこなして奮発したんだろう。牛肉のステーキなどをビールのアテにしているパーティーなど様々らしい。アボカドとしらすのサラダなどもあるって聞いたから、ここの料理長は俺達と味覚が近いのかもしれない。


「それではこちらへ」


 俺達は兵士3名とルミエールの後について行った。入口のエントランスから左の方向に30秒ほど歩いたところで立ち止まった。


「こちらでお待ち下さい」


 そう案内されて開かれた扉――。


「いらっしゃいませ」


 薄暗い部屋にオレンジの電球があり、カウンター席が8席のみ。スーツに身を包んだダンディなオジサンが1人と、バックにはいくつものグラスがオレンジのライトで照らされていた。


「barじゃん」


「barだね」


「ここなら楽しんでもらえるかなと思って作ってみたんだ」


 そう言って得意気に話すルミエール。


「通う人いるの? ギルド本部の内部って」


「勿論。だから今日はお酒を飲みながら4人で堪能してほしいんだ」


 ルミエールはそう嬉しそうに話してくれた。組み合わせ的には、俺とミクちゃんはセットだとしても、そこにベルゾーグとアリスが入るという奇妙な組み合わせだ。


「いいのかな?」


 アリスはミクちゃんの後ろに隠れながら恐る恐る部屋の中に入って行く。


「楽しめそうだ。有難う」


 俺がそう言うとルミエールはニッと笑ってこの部屋から姿を消した。

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