第244話 密告者Ⅲ
「でもまあ、少し睨んでいる連中がいる。ルミエールには悪いけどな」
「ん? 私に悪い?」
ルミエールはそう言ってキョトンとした表情をしていた。
「俺があのときいたはカルカラの貴族を睨んでいるんだが――」
俺がそう言うと、当然ギルド内にいる冒険者達は騒然とする。
「確かにカルカラの貴族様達が来るって言っていたな」
「しかし、それは無いだろ」
と、賛否両論ではあるがカルカラの貴族に対して、状況だけで疑っているのにも関わらず俺を非難する者はいない――いつの間にか俺はカーネル王国に染まっているだなと実感した。
しかし、ルミエールの表情は険しいものだった。やはりマズい事を言ったよな――と反省をしている反面、白黒はっきりさせないといけないという気持ちもあった。
「ナリユキ……それは私の考えでは無いと思っている」
「と……言うと?」
少しの静寂が流れていた。俺達は勿論だが他の冒険者達も、まじまじとルミエールの顔を伺っていた。
「カルカラの貴族達は襲われたんだ。勿論そのなかには先生も入っている。意識不明の重体らしい……」
ルミエールはそう言って拳をぎゅっと握った。
「と、言う事は妙に印象に残っているんだけど、ディアン公爵とアードレッド公爵もか?」
「そうだ……ディアン公爵に関しては死んだと報告を受けている」
「は……?」
開いた口が塞がらなかった。それにディアン公爵はカーネル王国内では有名らしい。何故なら――。
「信じられない」
「ディアン公爵が死んだ……?」
「会ったことあるけどめちゃくちゃいい人だったぞ? 貴族って高飛車なイメージがあるけど、俺達のような下民にも気兼ねなく接してくれる人だった」
そう言った感想が聞こえてきた。中には涙を流して悲しんでいる人までいた。
「どういうことだよ!?」
「そのままの意味だよ。経緯はカルカラの貴族達がカーネル王国を出立して数時間後の事だったらしい。情報では黒いローブに身を包んだ人物数名が貴族達を襲ったと聞いている。その出来事はほんの数十秒程だったという――私達はその敵の目的は先生を殺害することだったと思っている」
「それでアーツさんを皆で守ったのか?」
「そうだね。そのなかでディアン公爵は自分の命を犠牲にしたみたいだ――」
「ディアン公爵も俺が視た感じだと3,000ちょっとくらいはあったぞ?」
「剣術が長けていて有名な貴族なんだけどね。彼の実力でもその敵には敵わなかったのさ」
暗い表情でディアン公爵の死を惜しみながら話すルミエール。俺はディアン公爵と挨拶しただけだったが、残念な気持ちにいっぱいになっていた。同時に危惧しなければならない問題点がある。
「あの貴族達もアーツさんも、ディアン公爵も、アードレッド公爵も、他の貴族達も、全員戦闘値は3,000ほどはあった」
「確かに強いとは聞いていたけどそれほどだったのか……」
ルミエールは悲しい表情を浮かべていたが、自分で何を言っているのかがピンときたんだろう――。
「マズくないか?」
ルミエールの言葉に、俺は当然だが、ミクちゃん、ベルゾーグ、アリスも頷いた。
「そうか――! マカロフ卿達以外に戦闘値3,000程度の人を、数十秒あれば倒すことができる達人集団がいるってことですね!?」
1人の男の冒険者がそう発言したことにより、ギルド内は再び騒然とした。
「そういう事だね」
ルミエールは柔らかい口調でそう言っていたが、表情は険しいものだった。
「どんな集団か知らんが、それも俺達が潰してやればいいだけだろう」
聞き覚えのあるどこか気怠いような口調がギルドの入口から聞こえた。俺が振り返ると、何か紫色の竜の頭を担いでいるカルディアがいた。そして両脇にいるのはカリブデウスとバックパックを背負っているスカーだ。
「カルディア無事だったのか!」
俺がそう言うとカルディアは「ああ」とぶっきらぼうに呟いた。
「アンタの依頼を完了したぞ。あと手土産もある」
「え? 完了? もしかして?」
俺がそう言うとカルディアはスカーに向かって顎をしゃくった。
バックパックを置くなり、続々と出てくるガラスのケース。その中には白く神々しい光を放つ透明な蝶がいた。
「おいまさかコレ――」
俺はそう言いながらガラスのケースを1つ手に取った。こんなに綺麗だけど、消え入りそうなどこか儚い蝶は見たことがない。
「ああ。
カルディアはそう淡々と話をしているが、周りの冒険者達は絶句をしていた。それもそうだろうな――。凄く稀少な存在とされている
「流石だね。凄いな~」
ルミエールがそう言うと、「俺にできないことは無い」とカルディアは返答していた。
「で、この竜の頭は何? 私見た事ないんだけど」
ミクちゃんの言葉はごもっともだ。俺とミクちゃんは数々の魔物達を見てきた。現存している魔物や、カルベリアツリーのダンジョンにしかいない混合種まで――。
紫色に鱗に、頭頂部には棘のようなものがいくつもある。そして、黒く鋭い歯――そして一番特徴的なのは額に埋め込まれている黒曜石のような水晶だった。
俺達がそう考えているとカルディアが口を開く。
「これはたまたま見つけた――」
「これは
と、カルディアの声を遮り大興奮している冒険者がいた。
「え? まさか俺達の国で騒然としているヴェドラウイルスのヴェドラ――?」
俺がそう恐る恐る聞くと。
「ああそうだ。これはたまたま見つけた
「ええ~!」
と、俺、ミクちゃん、アリス、ルミエールは声を上げれずにはいられなかった。
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