第243話 密告者Ⅱ
「じゃあ俺とミクちゃんはルミエールの所に行ってくるから宜しくな」
「はい!」
皆が返事してくれた後は、「くれぐれも気を付けて下さい」という心配の声だった。まあ一度捕まってしまったから余計に心配するわな。今までの俺なら「大丈夫」と絶対的な自信を持っていたけど、今は正直何とも言えない。何が起きるか分からないというのは身をもって体験した。あと、正直腕を切られる拷問はヤバかった。何あれ? 意地張っていたけど、ゆっくりと切り落とされていくのは地獄でしかないよ? もう二度と受けたくない。
「では解散」
俺がそう言うと皆は部屋からゾロゾロと出て行った。
「ほな気ぃつけて行って来てくださいね」
「ありがとうレンさん」
「おう。帰ってきたらまた酒飲みましょ~」
レンさんはそう陽気な声を出しながら後ろ向きで手を振っていた。
「そうだな。って言ってもそんなに時間かからないと思うけど」
「そうやといいけどな。不測の事態ってよくあるから」
レンさんはそう言ってこの部屋を出て行った。
「皆優しいね。改めて言う事じゃないか」
「まあ分かり切ってることだもんな」
俺がそう言うとミクちゃんは「そうだね」と笑顔で言ってくれた。眩しい――眩しいよミクちゃん。
「ほい」
俺が手を出すとミクちゃんは少し照れくさそうに右手を差し出してくれた。俺が軽く握るとミクちゃんの顔が紅潮しているのが分かった。この人、何でこのタイミングでうぶな反応するんですか? めちゃくちゃ可愛くないですか?
「じゃあルミエールを思い浮かべてくれ」
「うん」
「よし」
ミクちゃんの返事が聞けたので、俺とミクちゃんは同時に目を瞑ってルミエールの顔を思い浮かべた。
「ん? ナリユキ――?」
ルミエールの声だ。えらい声の感じからしてキョトンとしているのが目に浮かぶ。俺はそっと目を目を開けた。
「ナリユキ様無事だったんですか!?」
「生きていた!」
と、大盛り上がりな様子。色々な冒険者がいるここはカーネル王国ギルド本部だ。
「ナリユキ殿! ミク殿!」
「ナリユキ様! ミク様!」
そう言って俺とミクちゃんに駆け寄って来たのルミエールと話していたベルゾーグとアリスだ。
「ご無事で何よりです」
と、ミクちゃんの手をぎゅっと握りに行ったアリス。ミクちゃんはそのアリスを抱きしめていた。
「ごめんね。心配かけたね」
「本当にそうですよぅぅ」
う~ん。何か姉妹感強めだな。いつも通りの事ではあるが。
「本当に戻って来たんだね」
俺は俺でルミエールに抱きつかれることになった。冒険者が皆見ているのに恥ずかしいんだけど。
「心配かけたなルミエール。ありがとう」
俺がそう言いながらルミエールを引きはがして、ルミエールの顔をよくよく見てみると目の下のクマが酷かった。俺とクロノスと兵士5人がどうなっているのか分からないという状況だったから、ここ最近あまり寝る事が出来なかったんだろうな――。
「クロノス達も全員無事だ」
「そうか! それは良かった。本当に驚いたよ。まさかナリユキまで捕まってしまうって」
ルミエールがそう言った後に、ギルドの冒険者達が口を開いた。
「私達が不甲斐ないばかりに申し訳ございません」
そう言ったのは弓を持っている
「皆を助けるためにナリユキ様は自分の身を敵に委ねました。ナリユキ様だけなら何とか切り抜けることができた場面だったでしょう。しかし、我々の存在がかえって邪魔になってしまいました。本当に申し訳ございませんでした」
そう言って来たのは、ルミエールの護衛をしている兵士の男だった。歳は30半ばと言ったところ。正直あのときは非難をされまくっていたから兵士の中に味方はいないとすら思っていたんだけど。
「いえいえ全然大丈夫ですよ」
「この御恩は一生忘れません。ナリユキ様を非難した兵士に関しては何らかの処置をとらせて頂きますので、あの時の無礼はどうか御赦しを頂けると幸甚です」
俺はそう兵士に謝罪をされた。処置か――そこまでしなくてもいいんだけどな。
「別にそこまでしなくてもいいよ」
「いえいえ。自分の命を助けてもらった身のはずが、非難するという事は反道徳的です。それは我々の教育が疎かだという事です。何かしらの形で償ってもらわねば、彼等は同じミスを繰り返すでしょう」
確かに言っていることはその通りだけどな。何か罪悪感半端ねえ――。
「わかった。頼むよ」
「ありがとうございます」
そう勢いよく言われたので俺はまあこれはこれでいいかと思った。
「ベルゾーグ、アリス、情報収集のほうはどうだ?」
俺がそう言うと、ベルゾーグもアリスも渋い顔をしていた。
「正直なところありませんでした」
「ここにカーネル王がいるのも、拙者とアリスが協力要請をしたからだ。少し気は悪いのだが、ここにいるギルドの人間が嘘をついていないか見ていたんだ」
「それでこんなに集まっているのか?」
「そうだ。反発する者もいたが基本的には協力的だった。結果、ナリユキ殿の情報を流した人間はギルドにはいない。またそれに関する情報を持っている人間はいなかった」
「まあ予測はできていたけどな。可能性を潰してくれたのは非常にありがたい」
「と、言うと?」
「ギルド本部へも
「そうだったのか」
ベルゾーグは肩をガクッと落としていた。でもこれ知っているのって後クロノスくらいだからルミエールを恨んでも意味無いぞ。
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