第238話 マカロフ卿を追えⅡ

 流星の如くスピードで飛び、ヘリコプターのプロペラをレイピアで真っ二つに破壊した。


「やってくれるな」


「なかなかのものでしょ? さあ、ナリユキ君を返して」


「さあ、それはどうかな?」


 ヘリコプターの中から男の声がした。聞き覚えの無い声だ。一体誰だろう?


 そう思っていると銀色の短い髪をセットで立たせている60代程の男が現れた。しかもその男は回転リボルバー式拳銃のコルト・パイソンを所持していた。


 そのコルト・パイソンでナリユキ君の頭を突き付けた。


「この男は今ただの人間だ。その人間を銃で撃てばどうなる?」


 男の名前はダニエル・ルイスという名前らしい。っていうのはどうでもいい。ナリユキ君が人質に取られてしまったことにより圧倒的な絶望感を覚えた――。


「降伏するんだ」


 ルイスのその言葉に私はどうすることもできずにレイピアを地面に置き両手を挙げた。


「ここまでか――」


 自分の無力さを痛感させられた。私はゆっくりと腰を下ろしている時だった――。


「ぐあああああ! 目が! 目が~!」


 何が起きたのか全く分からなかった。顔を上げるとルイスの右目から出血していた。


「コード《ボス》!」


 ボス? もしかしてあの人が黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドのボスなの? マカロフ卿のあの慌てよう……間違いない!


「生憎だがナリユキ殿は返してもらうぞ」


「貴様は誰だ?」


「余は青龍リオ・シェンランだ」


 すると、マカロフ卿は「チッ」と舌打ちをした。


「まさかワイズが負けたのか……?」


「ああ。あの小僧なら今は気絶している。久しぶりに本気を出したものでな」


 そう言った青龍リオ・シェンランさんから放たれるオーラは、青色と赤色のオーラは猛々しいものがあった。恐らく一時的に戦闘値を爆発的に上げたんだろう。


「それは――聞いたことがあるぞ。龍族には逆鱗という特有のアクティブスキルがあると」


「まさにその通りだ」


 青龍リオ・シェンランさんはそう言いながらナリユキ君の腕に付けられているリングを外した。


「ナリユキ殿」


「ナリユキ君」


 私と青龍リオ・シェンランさんの呼びかけにナリユキ君は――。


「最高の気分だぜ」


 そう不敵な笑みを見せた。


「マカロフ卿。俺から取引をしよう」


 ナリユキ君はそう言ってルイスの頭に拳銃を突き付けた。


「俺達の前から今すぐ姿を消せ。でなければコードの頭をぶち抜く」


 ナリユキ君の目はアードルハイム皇帝の腕を斬り落とした時のように冷酷だった。しかし、コードは失明した右目を手で押さえつつも、左目でしっかりとナリユキ君の事を睨めつけていた。


「この私にこんな目をあわせておいてただで済むと思うなよ?」


「それはこっちの台詞だ。スキルも何も発動できない状態の俺の脇腹にコルト・パイソン撃ってくれた仕返しだ」


 ナリユキ君はそう言って創造主ザ・クリエイターで出した自動式拳銃オートマチックピストルのベレッタを取り出しては、ルイスの足に一発お見舞いしていた。ナリユキ君――あの人に撃たれたのか。生きていて本当に良かった。


「貴様~!」


 コードはナリユキ君の顔を睨めつけていた。痛がる様子どころかナリユキ君に向ける憎悪が膨らんでいく――。そんな印象だ。


「元気だなコード。これであおいこってやつだよ。さて――」


 ナリユキ君はそう言ってマカロフ卿を睨めつけた。


「もう一度問う。この場から今から消え去れ」


 マカロフ卿は拳をぎゅっと握り歯を食いしばっていた。でも可笑しい――あのアヌビスっていう魔物はいないのかな? アヌビスがいればまだ勝負は分からないのに――まあ、いないほうがいいんだけど――。


「分かった。この場から消えよう。貴様等がどこへ行こうと目を瞑る」


「マカロフ! やれ! せっかく捕らえた奴をみすみす逃がすわけにはいかん!」


「おいコード。お前に喋る権利はないんだ。本当に殺すぞ」


 ナリユキ君はコードの口の中に銃をねじ込んだ。ここまで高圧的なナリユキ君を見たことが無い――。私は穏やかなナリユキ君が少しどこかへ行ってしまったような気がして辛い気持ちになった。ほんの数日でマカロフ卿達がナリユキ君の人格を変えてしまったのだ。


コードボス。アヌビスが不在している以上私達に勝ち目はありません。城の中に戻りましょう。ミク・アサギと青龍リオ・シェンランがいると言う事は、ワイズ、レイ、スーがやられたということです。まずは3人と部下達の治療が必要です」


「クソっ!」


 ルイスはそう言って地面を拳で思い切り叩きつけた。


「それに貴方の治療も必要です。メリーザにかかれば視力は回復するでしょう」


「そうだな」


「ナリユキ・タテワキ。どいてくれるか?」


「ああ」


 ナリユキ君を見るマカロフ卿の瞳にはもう戦意は残っていなかった。あるのはこの場から引くという一点のみ。マカロフ卿はルイスに肩を貸して、雪のクッションを踏みしめながらゆっくりと城の中へ歩いて行った。


「今回は負けだが、次回はそうはいかんぞ。ナリユキ・タテワキ」


 マカロフ卿は振り向かずそう言った。


「ああ。そのオッサン抜きで決着つけようぜ」


 ナリユキ君の言葉に反応せずにそのまま城へと向かって行った。


「なりゆき君無事でよかった!」


 私がそう飛びつくとナリユキ君は「ああ。ありがとう」と言って優しく抱き寄せてくれた。無事でよかった――そう思うと涙が止まらくなった。


「何で泣いているんだよ」


「だって……だって……」


 頭を優しく撫でてくれるナリユキ君はもういつもナリユキ君に戻っていた。声色も頭を撫でてくれる時の力加減も――。


「無事でよかったな」


「ありがとうございます青龍リオさん」


 ナリユキ君はそう言って私を引き離した。


「ありがとうな」


 ナリユキ君が泣いている私にそう言ってくれた。さっきの冷たい表情とは裏腹に飛び切り優しい顔だ。でも私のなかで違和感がくすぶっていた。そう――表情の切り替えがまるで二重人格だ。だから、私はナリユキ君の精神状態がものすごく気になり始めた――本当に大丈夫なのだろうか?


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