第227話 報せⅢ

「何や裏切り者がおる言うてるん!?」


 その発言に、ノア君、アリシアさん、ベルゾーグさん、アリスちゃんがアズサさんの事を睨んでいた。


「あ……そういうつもりじゃなかってん」


 そう小声で謝罪するアズサさん。


「アホちゃうわ。マカロフ卿側が単純に忍び込んでいるだけや。この中に犯人はおれへん。のう? アリスちゃん」


「ええ。レンさんがおしゃったときに裏切者を見つけし神官ジューダス・プリーストを使っておりましたが誰も反応しておりませんでした」


「な? せやから何らかの方法で俺達の情報が漏れているだけの話や。まあ問題はそれがどこでかやけどな」


「ヴェドラウイルスの一件から何か変わったことはないのか?」


「変わった事と言えばイーサンという男のポケットには何やらアーティファクトがあったと言われています」


 ベリトさんがそう呟くと、レンさんが「あ!」という大きな声を出した。


「それめちゃくちゃ怪しくない? そう言えば赤色に点滅しとったんやろ!? それどこにあるねん!?」


「それはイーサンが着ていた服にあると聞いております」


「それ盗聴器とちゃうん?」


「確かにそれはあり得ますね」


 私がそう意見に同意すると他の人達が怪訝な表情を浮かべていた。


「盗聴機というものはどんなものだ?」


 青龍リオ・シェンランさんの問いに頷くレンさん。


「盗聴器ってのは俺達の世界にあった機械というもので、その機械は対話している内容を遠いところから聞くことができるんです。つまりイーサンが喋った内容は勿論、イーサンの周りにいた人の会話内容も把握できたってことです」


「とは言っても衣服の中に入れていたら擦れる音とかであまり聞こえないよね? 途切れ途切れになると思う」


「その可能性は十分はあるけどな」


 レンさんは「う~ん」と考え込んでいると――。


「そのような性能のアーティファクトは高い値段であれば買えるのではないでしょうか? マカロフ卿であればそれくらいの物なら開発しそうですし、そういった技術に長けた人が知り合いにいる可能性も十分にあること思います」


「いずれにせよ私はカーネル王国へ行って情報収集したほうがよさそうですね。私の裏切者を見つけし神官ジューダス・プリーストがあれば、どんな嘘でも見抜くことはできますから」


「それなら拙者もついていこう。よいなミク殿?」


「ええ。10人規模くらいで行ってもらう。カーネル王国だから何人行っても問題無いと思うし、今はレンさん達がいるしね」


「そうだな。ランベリオンやアマミヤ殿には連絡付いているのか?」


「それは残念ながら……」


「そうか。もうログウェルに向かっていることを考えると、アリシアの念話でも届かないしな」


「流石に遠すぎますね」


「ランベリオンなら問題ない。この話が終われば余が直接会いに行くつもりだ。このイヤリングがある限り、会ったことがある人物の元へどこへでも行けるからな」


 青龍リオ・シェンランさんの言葉にマーズベルの幹部皆の表情は明るくなった。


「俺達はとりあえずあの機械を取りに行こうか。俺の魔眼で何か分かるかもしれへんしな」


「お願いします」


 私がそうお礼をすると、レンさんは「ええって!」と明るく微笑んでくれた。


「それではこれでまとまったな。余がランベリオンのところへ向かい、アリスとベルゾーグが情報が漏れた原因を突き止める。まずはカーネル王国で情報を収集するのだ」


「ああ」


「任せて下さい」


 ベルゾーグさんは静かにそう応え、アリスちゃんはやる気に満ち溢れた強い意志を瞳に宿して応えていた


「そして、レン殿達はアーティファクトを回収し次第、ミク殿と何の役割を果たしているアーティファクトなのかを探ってくれ」


「了解や」


「その他の者はにミク殿に従い、臨機応変に対応していくことだ。ミク殿それでよいな?」


「ええ……」


「どうした?」


「これが終わったら少し時間をくれませんか? 少しご相談があります」


「ああ。余ができることならなんでもよいぞ」


「ありがとうございます」


 私がそう言うと青龍リオ・シェンランさんは少しニッと笑ってくれた気がする。相変わらずマスクをしていて口元の表情が分からない。


 こうして私達の会議は無事に終了した。特に何か解決したって訳ではないけど、ナリユキ君がいない場合はこうやって泥臭くやっていくしかない。


 皆が出て行くと私は青龍リオ・シェンランさんと2人きりになった。ランベリオンさんの所へ行くなら私は試したいことがある――。


「話というのは何だ?」


「私にも転移テレポートイヤリングを譲って頂けませんか?」


「それを持ってどうする気だ? まさか単身で乗り込む気じゃないだろうな?」


 私は青龍リオ・シェンランさんの言葉に喉を詰まらせた。


「駄目だ。そもそもあのアイテムは貴重で余の国でもあまり生産されていない。ナリユキ殿に売った金額では安すぎるくらいにな」


「無茶を言っているのは重々承知です! しかしナリユキ君に万が一の事があってからでは遅いのです!」


 私は気付けば涙ながらに青龍リオ・シェンランさんにそう訴えていた。すると青龍リオ・シェンランさんはハアと溜め息をついた。


「頑固だな。長い事を生きているので分かるが、今のミク殿の目は何を言っても引き下がらない目をしている。そして今の余には君を説得できる武器がなさそうだ。しかし訊いておかねばならんことがある。作戦はあるのか?」


 私はここで青龍リオ・シェンランさんに納得してもらえたら、ナリユキ君を直接助けに行くことができる。ここのチャンスを逃してはいけない。



 

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