第226話 報せⅡ

「言葉の通りだ。ナリユキ殿がマカロフ卿達に捕まってしまった」


「ナリユキ君は無事なんですか?」


「分からん。今は全力でナリユキ殿を捜索している。ログウェルにいることは間違いないのだが」


 青龍リオ・シェンランさんは私に向かってそう謝罪した。ナリユキ君――。


「探しに行く! とは言わないのだな。冷静さを保ってくれて安心したよ」


「ナリユキ様が捕まったのは驚きですが、クロノス様も捕まったのですか?」


「どうやらそうらしい。だから、余の国も全面的にバックアップする。余は彼の事を友人だと思っているが、何より彼が死ぬのはマーズベルにとっても他国にとっても大損害だ」


「私達はどうすればいいですか?」


「とりあえずマーズベルの幹部連中を集めてくれ」


「かしこまりました!」


 ネオンちゃんはそう言って私の元から離れた。


「ショックが大きくて動けないのは分かる。しかし、君はナリユキ殿の貴重な右腕なのだろ? 今こそ君がしっかりしないでどうするのだ?」


 呆然と立ち尽くしていた私に青龍リオ・シェンランさんそう声をかけてきた。


「すみません。いきなりの事で話をきちんと聞けていなかったです」


「無理もない。とりあえずナリユキ殿の館に案内してくるか?」


「はい……こちらへ」


 私は青龍リオ・シェンランさんに言わるがままナリユキ君の館に向かう事にした。院内の皆には私に代わって青龍リオ・シェンランさんが「悪いが借りるぞ」と言って、私が不在になることを伝えてくれた。


 館にある会議室に招集されたのは、青龍リオ・シェンランさんと私を抜いて、ノア君、ベリトさん、アリシアさん、ベルゾーグさん、アリスちゃん、レンさん、アズサさん、ノーディルスさん、そして私の代わりに動いてくれたネオンちゃんだった。


 ミーシャさんとメイちゃんは神妙な顔つきをしながらも飲物を用意してくれた。


 ナリユキ君がいなくなった――という一大事で会議室の空気は非常に重たかった。それを見かねた青龍リオ・シェンランさんが咳払いをすると、皆の視線が一気に青龍リオ・シェンランさんに集まった。


「余が持っている情報を全て伝える。また、事件が起きたカーネル王国からではなく、何故余からを報告を受けるのだと疑問に思っただろうから先に述べておこう。それは単純にカーネル王国の兵士達はスキルが発動できない錠にかけられていたからだ。ギルドに残っていた冒険者は皆負傷。そうなってしまった為に、飛竜ワイバーンに乗れる人間がすぐに見つからず、馬車でマーズベルにカーネル王の使者数名が向かう事になる。で、あれば諜報部隊で今回の事件をいち早く知った余が直接皆の前に報せたほうが早いということだ。カーネル王には余が来ることを伝達済みなので、彼等の使者は来ない。後日にカーネル王がガブリエルと直接謝罪に来るそうだ」


「マジか――冒険者言うてもカーネル王国には俺達以外にカルディア、カリブデウス、スカーっていうめちゃくちゃ強い3人組がおるって話やったけどな」


「カルディアはマカロフ卿に負けたらしい。ワイズという男は魔界の扉イビル・ゲートを使ったが、数十分後に出て来たらしい」


「それはにわかに信じがたい話ですね。アンデッド族でも魔界の扉イビル・ゲートにかかれば廃人になりますからね。ストレス耐性の人間ならば尚更難しいような気がしますが」


「どうやらそのワイズという男は生体兵器らしくてな。それもあのコヴィー・S・ウィズダムが造った」


「そんな事はどうでもよかろう。問題はナリユキ殿とクロノス殿の場所ではないのか?」


 ベルゾーグさんがそう言って青龍リオ・シェンランさんとノーディルスさんを睨めつけた。


「そうだったな。悪かった」


 青龍リオ・シェンランさんはそう謝罪した後続けた。


「諜報部隊の報告によるとログウェルの何処かとしか分からない。尾行していたのがバレたのか、そこで報告は途絶えてしまっているので捕縛されているか、死亡しているかの2択だ。余がマカロフ卿の元へこの転移テレポートイヤリングを使ってもよいのだが、残念ながら今の余ではマカロフ卿にも勝てない程強くなっていると聞く。また、ナリユキ殿と互角に戦い魔物がいると聞く。なので、単体で突っこむのは無防備だ」


「黒い魔物――アヌビスの事か――ナリユキさんはその黒い魔物と戦ったんですか?」


「聞くところによると、ナリユキ殿はその魔物より優勢に戦っていたらしい。念波動の戦闘値は互角だが、ナリユキ殿の怒涛の銃撃を浴びていたそうだ」


 じゃあ、ナリユキ君は何で捕まってしまっただろう――まかさ……。


「しかし、ワイズが魔界のイビル・ゲートから帰還したことにより、全体としての戦力はマカロフ卿側が優位になってしまった。途中でガブリエルも来たらしいが勝てずに捕らえられた。当然、ナリユキ殿は勝ってはいたが、自分以外の全員が捕まっていることを知って降伏したそうだ。そして、ナリユキ殿、クロノス、他5名がオスプレイと呼ばれる飛行船でログウェルに向かったという情報までは入手している」


「クソ!」


 青龍リオ・シェンランさんの報告を聞いていたベルゾーグさんは机をドン! という音を立てて殴った。


「拙者がいればユニークスキルで蹂躙じゅうりんできたのに!」


「それは私も同感です。主が大変な目にあっているときに私達は御側にいてサポートすることができませんでした」


 ベルゾーグさんもアリシアさんもそう悔いていた。


「あのナリユキがね……ちょっと信じられないや。やっぱりボク達の誰か1人がついていたほうがいいよ」


 そう吐き出すノア君は見るからに不服そうな表情を浮かべていた。言い方はマイルドかもしれないけど、ナリユキ君の傍にマーズベルの人が誰もいなかったという問題にかなりの苛立ちを見せていた。


「各々後悔する部分もあるかもしれないが、余は気になることが1つあってな。どうやら、マカロフ卿はナリユキ殿にマーズベルにいるときより、他国で単身で乗り込んでいる時のほうが都合がいいと言っていたらしいのだ」


「それどういう事ですか?」


 アズサさんと同じ疑問を思っている人が、ベルゾーグさん、ノアさん、アリスちゃん、ネオンちゃんの計5名だった。


「アホ。よう考えてみろ。何でマカロフ卿がナリユキさんが単身になること知っているねん。つまり、裏切り者がおるかは分からんけど、ナリユキさんがカーネル王国で単身になることを知っていた人物がおって、その人物がマカロフ卿に報せたってことや」


「そうですね。私もそう考えていました」


 私がそう発言すると、場の空気がさらに重たくなった――そう事前に情報をキャッチしていたのは一体誰なんだろう? もっとどういう状況だったのかを知らないと、見えてくるものも見えてこない。






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